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第2話 零点の壁に、先生の魔法は通りません

採用の契約を済ませた翌朝、俺は校庭へ出た。

ルチアが、水の結界を張ってくれる。

教室のガラスが少ない理由を聞いたら、去年、誰かの火球が窓を割ったのだという。

レナは、聞こえないふりをした。


最初は、ミナの土魔法だった。

王立と同じ木の標的を、十歩先へ置く。

彼女は地面へ手をつき、魔力を流した。


一秒。

二秒。

三秒。


低い土の板が、ようやく立った。

標的には触れない。

ミナは、そこで手を引こうとした。


「まだ。俺が撃つから、受けてみて」


彼女が顔を上げた。

俺は、小さな火弾を作った。

王立の試験では、標的へ穴を開ける程度の力だ。

ミナの板へ当てる。


土が、少しだけ焦げた。

穴は開かなかった。


もう一度。

三度目。

四度目。


俺のほうが、先に息を切らした。

板は、まだ立っている。


「……先生が、弱いからです」


ミナが言った。

俺は膝へ手をついたまま笑った。


「確かに弱い。でも、四発防いだことまで、消えるわけじゃない」


ルチアへ頼み、水の塊を投げてもらった。

大きさを少しずつ増やす。

最初のものは、土の前で砕けた。

次は板を揺らしたが、倒せない。

三つ目で、ようやく上の角が欠けた。


ミナが、口を開いた。


「防ぐ試験は、なかった」


俺は、彼女の名を帳面へ書いた。

立ち上がるまでの時間。耐えた攻撃。地面へ手を置いていた長さ。

ひとつの数字へ、まだまとめなかった。


次にカイが風を出した。

標的が揺れ、俺の帽子が飛んだ。

レナの髪も、逆立つ。

少年は慌てて止めようとし、別の方向へ風を増やした。


「すみません!」


俺は、ルチアへ結界を頼んだ。

記録球を握り、少年の五メートル以内へ立つ。

風の流れの内側に、細かい線が何本も見えた。


最後はレナ。

大きな火球が、掌の上へ膨らんだ。

彼女が投げる。

一秒では、標的へ届かない。

二秒半ほどたって、木が燃えた。


標的どころか、後ろの杭まで焦げた。

ルチアが水を掛け、俺は顔へ熱を受けた。


「これで、零点?」


聞くと、レナは肩をすくめた。


「遅いんです。一秒を越えたら、採点されないから」


俺は、新しい記録球へ彼女の一回を残した。

昼休み、教室の机へその球を置く。

火球が生まれる十秒を、ゆっくり映した。


力を込めるところで、彼女の魔力が内側へ戻る。

小さくしようとして、自分で打ち消していた。

その後、一気に押し直すから、大きくなる。


「小さい火球を作れ、と教わった?」

「いつも。それもできないなら、無能だって」


俺は映像を止めた。

彼女の手の周りへ、赤い輪が残る。


「まず、大きいまま、形を変えてみよう」


レナが、眉を上げた。


「そんなので、勝てるの?」


勝ちたいのだと、初めてわかった。

諦めた顔の下に、まだ残っていた。


「俺も勝たせたい。だから、どこに力があるか、先に見つける」


ミナが、帳面へ手を伸ばした。

自分の土の板の記録を、一行ずつ読んだ。

帰り際、彼女は零点の頁を破らず、その後ろへ新しい頁を足した。

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