第1話 追放先の教室には、落第生が三人いました
「君の授業には、勝たせる力がない」
ヴォルフ主任は、俺の机に解雇通知を置いた。
王立学園の校章が、朝日に光っている。剣を二本、交差させた印だ。
「生徒は振り返りなど求めていない。強い魔術師の指導を求めている。君自身の攻撃魔力が、この水準ではね」
通知の横に、俺の試験結果があった。
一秒以内に標的を壊す。得点は、百点満点の十二点。
俺は、机の引き出しを開けた。
小さな記録球が六つ。授業で使った、生徒たちの魔力の映像が入っている。
一つずつ箱へ戻すと、主任がうなずいた。
「学園の資産を、持ち出さないように」
「わかっています。代わりの先生には、記録の見方を説明させてください」
「その必要もない」
俺は箱の蓋を閉じた。
説明を書く時間まで、取り上げられた気がした。
前世では、日本の中学校で理科を教えていた。
三十四歳で病気で死んだ。覚えている最後の景色は、病室で同僚が開いた卒業文集だ。
この世界に生まれ、八歳のときにその記憶を思い出した。
イオ・クランツ。今は二十八歳。
二十年間を生きても、教師をやりたい気持ちは変わらなかった。
授かった技能は〈再映〉。
魔術師の五メートル以内で、一人の魔力の動きを、十秒まで記録できる。
後で遅く再生すれば、火球が消えた理由も、術が崩れた瞬間も見える。
ただし、力を借りたり、真似して撃ったりはできない。
主任に言わせれば、見ているだけの技能だった。
王都を出て、二日目。
丘の道で、鞄の底が抜けた。
教科書と、新しく買った空の記録球が、土へ転がる。
俺が拾っていると、馬車の窓から女が顔を出した。
「教師ですか」
最初に聞かれたのが職業なのは、珍しかった。
俺は頷いた。
彼女は馬車を止め、地面へ降りた。
茶色の髪を短くまとめ、指に青い染みがついている。
「魔術も教えられます?」
「教えることはできます。王立では、そう認めてもらえませんでしたが」
「なら、話が早いです。うちへ来てください」
人買いだろうか、と少し思った。
彼女は自分でそれに気づいたように、慌てて書類を出した。
ルチア・ベイル。二十五歳。
町立丘陵学園の校長だった。
「担任が一人足りません。給料は高くありませんが、住む部屋はあります。採用の話は、町の担当者も交えてできます」
俺は、書類より先に質問した。
「生徒は、何人いますか」
「三人」
三十人の間違いではなかった。
学園の門は傾き、掲示板には去年の募集札が残っていた。
あと一年で、学校を閉める案が出ているという。
生徒が増えなければ、町の予算だけでは続けられない。
教室へ入ると、三人がこちらを見た。
赤毛の少女が腕を組み、窓際の少年の猫耳が伏せられる。
奥に座る黒髪の少女は、ノートを閉じた。
「新しい担任候補です。イオ先生」
ルチアが紹介すると、赤毛の少女が立った。
「レナ・グレイス。十八歳。個人魔術試験、零点」
猫耳の少年が、後ろへ続いた。
「カイ・フェル。十七歳。四点」
黒髪の少女も、立った。
「ミナ・ルベル。十八歳。零点です」
誰も、得意なものを名乗らなかった。
点数の順番まで、覚えているようだった。
レナが俺を見た。
「先生も、諦めに来たんですか」
俺は、床へ落ちかけた教科書を机へ載せた。
さっきまで解雇された男に、かっこいい返事をする資格があるかは、わからなかった。
「まだ、君たちの魔法を見ていない」
三人の目が、少し動いた。
「だから、明日見せてくれ。点数は、その後で考える」




