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第17話 三拍あれば、届きます

ミナの壁が、三枚立った。

一枚目は旗の盾。

二枚目はレナの前。

三枚目は、カイの足が届く場所。


それは、校庭で最初に作った形だった。

相手が遠くにいる時は、狭すぎて届かない。

だが今、王立の三人は、丘陵の陣へ近づいていた。


レナが、三度目の火を出した。

大きく広げない。

二枚目の壁の端へ、小さく、厚い輪を置く。

アヤが水を送った。

水は壁へ当たり、輪の外側だけを削った。


熱の中心は、残る。


セドリックが左へ踏み込む。

カイはまだ、跳ばない。

彼が首席の靴を見ていることが、俺にもわかった。


雷が靴底へ流れた。

踏み込んだ片足が、地面へ乗る。

その瞬間、ミナが低い石を上げた。


靴の先へ、指ほどの土の突起。

貫く術ではない。

二回戦で、歩幅を一つ詰めた、小さい石だった。


セドリックは、すぐに身体を捻った。

転ばない。

それでも、次の一歩が半拍遅れた。


カイが跳んだ。

三枚目の壁を蹴り、風で一歩だけ向きを変える。

首席の肩を避けて、中央へ続く道に着地した。


「トネル!」


セドリックが呼ぶ。

土の魔術師が、後方へ戻ろうとする。

その進路へ、レナの輪が傾いた。


一拍。


トネルは輪を避け、水の通っていない方へ身体を寄せた。

彼は、土の壁を立てて熱を遮った。

上手い。

こちらが通したい道を、塞ぎ返そうとしている。


ミナが、地面から手を離した。

二枚の壁を残し、中央へ走る。

滑る場所を、カイが踏んだ跡だけ避けて進んだ。

届くところまで自分で行かなければ、新しい壁は作れない。


二拍。


トネルの板が、カイの前へ伸びる。

ミナが膝をつき、土へ手を置いた。

板と板の間に、小さい足場がせり上がる。


カイは、それを見て跳ばなかった。

彼の息が、遠くからでも荒い。

ここで風を使えば、帰り道の一歩がなくなる。


手を板へつき、身体を乗り越えた。

普通の跳び箱みたいな、不格好な越え方だった。

けれど、足は向こうへ届いた。


三拍。


輪が消える。

カイは、そこから敵陣へ走った。

レナが、大きく息を吐いた。

アヤの水弾が、彼女の肩へ飛んだ。

一枚目の壁から身体を出していた彼女は、避けきれない。

結界が薄くなり、膝をつく。

まだ、退場の笛は鳴らない。


セドリックは、旗の盾を越えようとした。

レナが、旗の前へ戻る。

二人の間に火はない。

ただ、青い結界を纏った彼女が立っていた。


「前の試合と、同じ役ね」


その声が、俺のいる境界まで届いた。

セドリックは彼女を押し切るより、相手の旗を取り返す方が早いと判断したらしい。

身体を返し、カイを追った。


カイは王立の旗を抜いていた。

両手で持ち、中央へ戻ってくる。

トネルが壁を上げる。

ミナが、その手前へ小さい踏み台を出す。


今度は、風を使った。

最後の一歩。

旗の柄が、壁の上を越える。

カイの靴が、こちら側の土へ落ちた。


残り十メートル。

セドリックの方が、走る速さは上だった。

追いつく。

俺は、そう思った。


ミナが首席の前へ、三枚目を作ろうとした。

土は途中までしか上がらない。

長い試合で、彼女も力を使い切りかけていた。


低い壁だった。

首席なら、一歩で越えられる。


レナが呼んだ。


「ミナ、低いままで!」


セドリックの靴底に、雷が光る。

越えるための、速い一歩。

ミナが低い壁を二つに割った。

真ん中に、足一本分の溝ができる。


首席は、空中で脚を曲げた。

無理に着地せず、溝の向こうへ足を伸ばした。

安全で、速い判断だった。

だが、足を置き直す半拍が、もう一度必要になった。


カイは、振り返らなかった。

風は出ない。

肩の結界は、薄い青。

ただ、旗を両手で持ち、最後の五歩を走った。


俺は名前を呼んだ。

ルチアも呼んだ。

町の人たちの声が、重なった。


旗の布が、自陣の印へ触れた。


鐘が鳴った。


タリンの手が、丘陵の側へ上がる。

勝利の宣告が、競技場へ広がった。


カイが、その場へ座り込んだ。

ミナは土から手を離し、レナは旗のそばへ倒れないよう膝をついた。

俺とルチアは、結界が解けるのを待った。

足が、勝手に前へ出そうになる。


セドリックがカイへ歩いた。

首席は、旗を見てから、手を差し出した。


「いい一歩だった」


カイが、その手を掴んだ。


「最後は、歩いてないけどな」


二人が笑った。

俺はようやく、三人のいる土へ足を踏み入れた。

一人ずつ名前を呼び、顔を確かめる。


レナが、目元を拭いながら言った。


「先生。勝たせる力、ありましたよ」


俺は首を振りかけて、やめた。

三人が差し出してくれた言葉を、受け取った。


「ありがとう。君たちの先生になれて、よかった」

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