第15話 決勝の前夜、答えを渡さない
宿へ戻ると、三人は夕食のあとで机を囲んだ。
王立学園の試合で見た動きを、紙へ描いている。
セドリックの仲間は、水のアヤと土のトネル。
三人とも速く、旗の前から動かされても、すぐ戻る。
「ここで火を出したら?」
「水で消される。壁の上も、雷で来られる」
「じゃあ、こっちへ誘う?」
俺がそばを通ると、カイが顔を上げた。
「先生、あとで聞いていい?」
「もちろん。まず、君たちの案を作ってみろ」
俺は隣の部屋へ戻った。
扉は開けておいた。
三人の声が、止まったり、重なったりする。
俺の言ったことを当てようとしている声ではなかった。
机には、王立の三人を見て取ったメモがある。
公開試合は見られるが、観客席からは遠く、〈再映〉で相手の内側を記録できない。
目で見てわかった範囲を、書いただけだ。
無敗の首席を倒す特別な答えは、俺にもない。
ルチアが、湯を持ってきた。
彼女は椅子を引き、俺のメモへ目を落とした。
「先生、明日、負けたらどうします?」
「町へ帰って、学校を続ける相談をする」
「それでいいんです」
俺は、彼女を見た。
「準決勝まで来た記録だけでも、募集には使えます。寄付の申し出も届きました。まだ町の議決は必要ですけど、三人に、負けたら学校が終わると思わせたくありません」
俺は深く頷いた。
優勝したい。
王立を見返したい気持ちも、消えていない。
だが、その荷物を三人の旗に括りつけるところだった。
「明日、出る前に伝える」
「お願いします」
ルチアは、自分の湯呑みを両手で包んだ。
しばらくして、俺が言った。
「大会が終わって、町へ戻ったら、食事に誘っていいか」
彼女は湯呑みから顔を上げた。
「学校の会計の話ですか」
「俺自身の話をしたい」
廊下で、レナの声がした。
「そこ、また私が盾になるの?」
カイが慌てて何かを言い、ミナが笑った。
ルチアの頬が、少し赤くなった。
「終わったあとなら。明日は、二人とも教師ですから」
「わかった」
俺はその約束を、メモには書かなかった。
別のところへ、大事に置いておきたかった。
三人が来たのは、それから半刻後だった。
レナが作戦の紙を出す。
ミナが、壁を作る位置へ丸を付ける。
カイは、風を使う回数を指で数えた。
俺は、届かない距離と、使いすぎる回数にだけ線を引いた。
二つは、試していない動きだった。
「ここは、できると確かめたことがない」
ミナが頷き、別の形へ描き直した。
俺が空いた場所へペンを伸ばしかけると、レナが先に言った。
「先生なら、どう勝ちます?」
俺は答えた。
「俺が入ったら、旗へ届く前に負ける」
カイが吹き出した。
ルチアまで、口元を押さえた。
「だから、この作戦で戦える三人に決めてほしい。危ないことと、まだできないことは、一緒に確認する」
レナは少し黙り、それから紙を引き戻した。
「じゃあ、最後の合図、変える」
三人がまた机を囲む。
俺は、水筒の中身と手袋を確かめた。
明日の授業で、俺にできる準備をしていた。




