↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/20

第14話 知らない風の中で

準決勝の相手は、谷あいのアルマ学園だった。

風の術を使う三人が、肩に短い外套を掛けている。


観客席の旗が、競技の前から揺れていた。

今日は、王都そのものに強い風が吹いている。

競技用の壁は空気を完全には遮らない。風を扱う者には、有利にも不利にもなる日だった。


カイが掌を開いた。


「これ、練習場とは違うな」

「君が知らない流れも来る」


俺が答えると、彼は頷いた。

記録球で、昨日の風を見せても、今日の突風はわからない。

彼は手を閉じ、試合前の確認へ戻った。


開始の鐘が鳴る。

アルマの主将は、中央から斜めに風を出した。

二人の仲間が、反対側へ同じ術を流す。

床の砂が巻き上がり、カイの前に細い渦ができた。


カイは風を束ねようとした。

ところが外から入った風が、掌の結び目へ触れる。

一歩の行き先が、予定より半歩ずれた。


靴が、境界の近くへ滑る。


「止める!」


彼は声を出し、風を切った。

膝を地面へつく。

外側の線まで、掌一枚の幅しかなかった。


相手の主将が、その瞬間を狙った。

短い風弾が、彼の背へ飛ぶ。

ミナの壁が立ち、風を二つに分けた。

カイはその影へ転がり込む。


レナの輪も、突風で楕円になっていた。

細い側の熱が途切れる。

相手の二人が、そこを踏んで前へ来る。


俺は指を組んだ。

練習の形を、今日の空気へ当てはめようとしている。

気づいてくれ。

俺はそれを、声に出せなかった。


ミナが、顔を上げた。


「カイ。風を全部、使わないで!」


彼は息を切らして、彼女を見た。


「避ける道を、私が作るから」


ミナの壁が、三枚、向きを変えた。

厚い一枚で、相手の風を受ける。

残る二枚を斜めに置き、空気を横へ逃がす。

真ん中に、渦のない細い道ができた。


カイが、その道へ片足を置いた。

一歩分だけ、風を使う。

遠くの風を引き寄せず、自分の靴の下に必要な量だけ。

今度の着地点は、ずれなかった。


「レナ、ここなら輪が保つ!」


彼女が走ってきた。

ミナの壁の影で、火の輪を作る。

赤い円は三拍、形を変えなかった。


相手は、自分たちが押し込んだ風へ、水平方向の火を渡されるとは思っていなかったらしい。

主将が二人へ退くよう呼ぶ。

その声のあと、一人がこちらの旗へ向き直った。


旗の前には、壁がない。

ミナは三枚とも、前へ持ってきている。

相手の靴が、その空いた道へ入った。


ミナが振り返った。

戻って壁を作るには、間に合わない。


「レナ、旗!」


レナが輪を消し、駆け出した。

次の火は出さない。

ただ、旗の前に立った。


相手が風弾を放つ。

彼女の青い結界が光った。

一発。二発。

三発目で、レナの結界が消えた。


退場の笛が鳴る。

彼女は、境界の外へ走った。

悔しそうに拳を握り、俺の横で止まった。


その間に、カイが相手の旗を抜いた。

ミナの通り道を戻ってくる。

レナを退場させた相手が、こちらの旗へ手を伸ばす。


どちらが先か。

カイの最後の一歩は、風ではなかった。

地面を蹴り、旗を前へ突き出す。


鐘が鳴った。

丘陵学園の印に、先に布が触れた。


レナが、両手で顔を覆った。

二人が結界を解かれて戻ると、彼女は先に謝った。


「抜かれた。守りきれなかった」


ミナが首を振った。


「私が、旗の壁をなくしたんです。呼んだ時、来てくれて、ありがとう」


カイが、取った旗をレナの前へ置いた。


「二発分、待ってくれたから間に合った」


レナはしばらく布を見て、それから笑った。

涙の跡が、頬に残っていた。


決勝の組合せが掲示された。

丘陵学園対、王立学園。

十九秒で敗れたあの日から、三人はここまで来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。