表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/7

2話 悪役令嬢と誤解の加速

 リリアナが目覚めて数日が立った、ある日のこと。


 銀糸で刺繍されたテーブルクロスの上には、朝陽に照らされた銀の食器がお行儀よく並べられ、朝食だと言うのに、肉や魚が豪勢に盛り付けられている。

 木製かごには、整然と並べられた色鮮やかな果実や焼き菓子。


(さすが、侯爵家。食う寝るだけには困らないんだろうけど。

 ただ、ごろごろ食っちゃ寝してるだけでは、断頭台の運命からは逃れられない)


 リリアナは、大きな腸詰を慣れないフォークとナイフで切り分け、口まで運んだ。


(日本人だから箸が恋しいけど、ワガママは言ってられないしな。

 加工肉に、しっかりと塩味があるだけ良しとするか)


 舌鼓を打ちながらも、リリアナは今後の生存戦略を考えていた。


 侯爵や侯爵夫人が語り掛けるが、リリアナは話半分、上の空。


「リリアナ、あなたの大好きなマドレーヌ。

 キャラメルホイップのバターシュガー掛けですよ!」


(それは、糖分で錬成した禁忌の化け物です、母上)


「結構ですわ」


 中身は40歳男子。

 リリアナに、甘いものは別腹と言う概念はない。


「午後は、水魔法の授業が控えているんですの」


 廊下の石畳をリズムよく鳴らし、食堂を後にする。


 それを見て、侯爵は眼を細めた。


「リリアナは、目覚めてからというもの、歌や踊りや社交を、全部魔法と戦闘と陰謀に変えてしまった。

 おまけに、肉や燻製、漬物を好むようになり、ワシと同じものを好んで食うのだ。

 それはつまり、侯爵を継ぐ意思の現れということだな!」


 満足そうに言った後、侯爵は雌鹿のモモ焼きにかぶりついた。


「でも、リリアナは……前より甘いものをあまり食べなくなりましたし、縫物や、お歌を一緒にしてくれませんの」


 クララはしょんぼりとしながら、キャラメルホイップのバターシュガー掛けを口いっぱいに頬張った。


 ★☆


 堅牢で知られる大きな白壁によって守られた侯爵家の屋敷。

 その中庭に立つリリアナは、熱心に水魔法の練習に励んでいた。

 地面いっぱいに、杖で書いたであろう魔法陣。

 額からは汗が滴り落ちていた。


「おい、ノルノ。

 リリアナの汗を拭いてやれ」


 屋敷の窓を開け、侯爵が獣人のメイド【ノルノ】に声を掛けた。


「は、はい! 頑張るのです!」


 侯爵の指示を受けたノルノは、猫耳を震わせながら、あっという間にリリアナに近づいた。

 黒地で要所にフリルがあしらわれたメイド服。

 二つに結んだ桃色の髪の上、白いヘッドドレスからぴょこんと猫耳が飛び出している。

 日に焼けた肌が、ノルノの活発さを表していた。


「……ねえ、あなた。

 私に近づいた後、口を開けて……なぜずっと黙っているのかしら」


 リリアナの質問にも、ノルノは黙り込んでいた。


(無言の猫耳もかわいいけど……空気が重い)


「あなた。

 私に、何か話すことがあるのではなくて?」

「……リリアナ様、水をかけてしまって、ごめんなさいです!」


 ノルノはぐいっと頭を下げた。


(思い出した。

 この猫メイド――ノルノがバケツをひっくり返して、私は水をかけられたんだ。

 その後、高熱を出したから、侯爵や執事長エドガーから、ノルノはこっぴどく叱られていたっけ)


 遠巻きに見ていたメイドたちは、ノルノに冷たい視線を投げる。


「またあの猫のドジのせいで、私たちまで説教されるわ」

「ほんと迷惑よね」


(おーい、キミたち聞こえてるよ。

 ……陰口はせめて小声でやれ)


 水をかけたことを怒られるとおもっているだろう、ノルノはぶるぶると震えている。


「ノルノ。

 私は怒っていないわ。

 だから、あなたがぎゅっと握りしめているそのタオルで、私の汗を拭いてくれると嬉しいのだけれど」

「は、はい!」


 その言葉にほっとしたノルノは、リリアナの顔を丁寧に拭く。

 不器用なノルノが一生懸命に拭くが、こそばゆくてリリアナの眉がピクピクと動く。


「あんなに眉をひくつかせて……やはりリリアナ様の怒りは収まっていない!」

「「ひいい!」」


 はたで見ているメイドたちは震えあがった。

(いや、こそばゆくて眉が動いただけなんだが……)


「おーい、リリアナ。

 最近一生懸命練習している、魔法を見せてくれ」


 侯爵は遠くから、リリアナに注文を付けた。


(正直面倒だが、侯爵の言うことを聞いてやったほうが、面倒は少ないか。

 しかし、この習いたての魔法は危ないし、ノルノに令嬢っぽく、どきなさいってどう言えばいいんだ?

 まあ、カッコよく言うか)


「おどきなさい!」


 ノルノの身を案じた言葉だが、リリアナの威厳ある声に、メイドたちは委縮し、震え上がった。


(んー、少し声を大きく出し過ぎたか?

 怖がらせるつもりは無いんだが……)


「身も凍る冥王のささやきに、眠っていた妖精たちよ。

 目を覚ませ、人の身において、自由を約す。

 水精の遊園アクア・ガーデン!」


 習いたての水魔法を詠唱しながら陣を描くと、魔法陣が光り出した。


(え……光が強すぎる……)


 魔力の大きさは、リリアナの想像を遥かに超えていた。


「皆、離れなさい!」」


 バシャーン。


 叫びに反応して皆が逃げ終わる前に、魔法は暴発。

 水が砂を巻き込み、轟音とともに泥が噴き上がった。

 冷たいしぶきが頬を打ち、衣服には瞬く間に重い泥水が張り付く。


「「きゃああああああ!」」


 ノルノだけでなく、距離を取っていたメイドたちも例外ではなかった。


「やっぱり怒ってらっしゃるんだわ!

 リリアナ様は自分がやられたことと、同じことを私たちにやり返したんだわ!

 すみません、すみません!」


 メイドたちは泥にまみれながら謝り続ける。


「見事だ! これぞ侯爵家の魔力の底力!」


 侯爵は拍手しながら笑っている。


(あの、侯爵様。

 少しは部下のメイドたちを心配した方がいいと思いますよ……。

 それにしても、メイド達はリリアナを恐れ過ぎているようだ。

 ……ねえ、神様。誤解ってどうやって解けばいいんですかね)


 リリアナは天を仰いだ。

読んでいただきありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」と感じていただけましたら、

ブックマークしていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ