パンデミック 3日目 後編
パンデミックが発生してから……3日目の昼。
地位,名誉,財産の全て棄て、家族を救うため本州からパンデミックが起きている四国へと渡ってきた青年。
しかし、青年が自宅に到着した時には、家族は亡き者となっていた。
そのショックから立ち直れないのだろうか、キッチンの机の上に置かれたノートパソコンの前に座る青年の瞳に光がない。
「……」
電源が点けられたノートパソコンの画面には、パンデミックが発生した初日に残された映像記録のデータが映しだされている。
青年は映像記録を開こうとはせず、そのままパソコンを閉じようと手に閉めかけるも、再び画面を広げて、震える手で映像記録のファイルを開いた。
その映像は午前中に青年が手を掛けた兄……まだ人間だった頃だろうか、人口呼吸器を付けた兄が映しだされた。
『光…汰。母さんは戻ってくるなって…連絡したって言ってたけど……おかえり』
疲れきっているが、満面の笑みを浮かべる青年の兄。
『俺達には…時間が残されていない。帰ってきて…どんな状況になっていようと…変な事は考えるな。光汰が開発した新薬で…山田のお婆ちゃんが…若い頃のように歩けるように……なったように、この状況だからこそ、光汰の医療知識と技術は必要だ』
「ちがう、ちがう。あれは過程の産物……俺が治したかったのは兄さんの病を…」
『光汰には…苦労かけるが、戻ってきたとき…俺がゾンビ化したとき――』
兄が遺した推測を聞いて、目を大きく見開く青年。
『もし…俺の推測どおりでも、光汰なら…必ず治療法を開発できると信じてる。血は…繋がってなくても、光汰は…兄ちゃんの自慢の弟だからな……はは、楽…勝だろ?』
「はは、兄さんならいざ知らず、俺には難しすぎるよ」
『光…汰。過去に囚われるな。お前は…俺と違って、もう一人で前に進める。それでも、自殺する道を選んでも、俺はお前のことを否定はしない。でも……お兄ちゃん的には……昔、俺が光汰を助けたように……今度は光汰が……誰かを助け…る……』
青年の兄は僅かに口角を上げると、声を発さず口だけを動かすと、俯いたまま動かなくなった映像が延々と映し出されている。
兄が遺した映像を見て、青年は何を思ったのだろうか?
青年は静かにノートパソコンの画面を畳むと、天井を見つめたまま動かない。
上を見上げる青年の頬には煌めく雫が伝い、雫が垂れ落ちるように、握られていたナイフが右手からするりと地面に落ちる。




