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パンデミック3日目 中編

 住宅街にある一軒家……山本の表札が掛かっている扉の前で足を止める青年。

 幸い玄関の扉は破壊されていないが、赤い手形が無数についている。


「……」


 青年は険しい表情でサイドポーチから鍵束を出し、一本を差し込む。

 鍵を回すとガチャリと鍵が開く音が響く。

 どうやら、この山本家が青年が目指していた場所なのだろう。


 鍵を開けた扉をゆっくり開くと、玄関の前には靴箱や机が積み上げられている。


「兄さん、母さん、父さん」


 静寂……家の中から青年の呼びかけに答える物音は聞こえてこない。

 青年は固唾を飲み、積み上げられた物に手を掛けるが、正面から入る事を断念したのか、青年は裏に回り大きな両開きの窓の前に立ち中の様子を伺おうとする。


 しかし、カーテンが閉められているだけでなく、何か前に置かれているのか中の様子を確認することはできない。



 青年はこの場に辿り着く前に、ゾンビをロケット花火で誘導していた。

 無理やり物をどかして侵入する事はできるが、それは周囲に徘徊しているゾンビに存在を知らせる形となり、結果的に中でまだ生存しているかもしれない家族を危険に巻き込む事になる。


 青年は再び玄関の方に戻ると、ふと車庫に停めれている車に目をやる。

 他の住宅には車は残っていないところを見ると、青年の家族はパンデミックの際に車で避難しようとしなかったのか、それとも出来ない事情があったのか、いづれもまだ家の中にいる可能性は高い。


 青年は車から車庫の上に乗り、車庫の上から屋根の上に飛び移る。

 中の様子を確認すると、音が抑える特殊な方法で窓の一部を割り中へ入る。


 一部屋ずつ確認しながら、2階から階段で下りる青年。

 2階は手つかずのまま、1階は家具が動かされているが、荒らされた形跡はない。

 首を傾げながら移動しようとした時、突如青年はキッチンの入り口で立ち止まり、息を止め大きく目を開く。


「に、い…さん?」


 キッチンの床には手足が異常に細いゾンビが横になっていた。

 ゾンビは青年の存在に気づいたのか、這いずりながら近づこうとするが、手足の筋肉が足りないのか、その場で動かすだけで、一向に青年に近づいてこない。


「うぉ!」

「アガァア!ガァウ!」


 突如して青年に首に縄が掛かった中年女性のゾンビが襲いかかる。


「母さん…母さん!止めてくれ、俺だよ!光汰(こうた)だ」

「ガアァ!ウッウゥ!」

「くそ、くそ!かあさん……すまない」


 ゾンビの首がボキッと音と同時に曲がり、青年に抱き着くように伏せて動かない。


「腕に噛み傷がある。くそ、くそ!俺がもっと早く来ていれば!!」


 周囲のゾンビを呼ぶ事を考えていないのか、何度も壁を殴り叫ぶ青年。

 彼の母親がいつ噛まれたのか定かではないが、治療法が確立していない状況で、青年がもっと早く到着していても結果は変わらなかっただろう。


「……」


 暗い表情でゾンビ化した兄の近くに腰を下ろす青年。


「兄さん…。子供の頃に教わった護身術、道中で役に立ったよ」

「ゥ、ゥゥ」

「病気で体が動かなくなってから、よく俺に『生きてる意味あるのか』て聞いてきたよな。今……逆に聞くけど、養子の……俺を本当の家族のように育ててくれた兄さん達を救えなかった、俺は生きてる意味あるのかな?」


 青年とこの家族の過去に何があったのか、今の段階では分からない。

 しかし、涙ながらに問いかける青年の姿から、血の繋がりはなくとも特別な存在だったのだろう。


「治療薬開発できなくて…ごめん。ずっと辛かったよな。いま……楽にしてあげるよ」

「グッ、ウッゥゥ」

「くそ……手が……震えて」


 鈍い音とともに動かなくなる、ゾンビ化した青年の兄。

 暫く兄の遺体を見つめた後、青年は母親と兄の遺体を和室に運ぶ。


「……」


 廊下を挟んだ部屋の扉を開け、中年男性の遺体を見た青年の瞳に光がない。

 中年男性は青年の父親だろうか?青年は血塗れの男性の遺体を母と兄の部屋へと移動させ、3人の遺体を見つめる片手にはナイフが握られている。

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