082『メグリ先生のクーペ』
まりあ戦記・082
『メグリ先生のクーペ』 晋三
まだ日本に居る。
こんなに長く過去帳を離れたのは初めてだ。
過去帳はまりあが持ち出してPONZYのまりあの部屋、ケティちゃんといっしょに引き出しの中だ。
でも、アメリカの鎮静ガスが日本に送られたのが気になる……と思ったらベースのCICに戻って親父やみなみ少佐の傍だった。ひい祖父さんの臨終にも間に合って、そろそろPONZYに戻ろうかと思っているところだ。よく分からないけど——戻ろう——思った瞬間に戻れると思う。まりあのことばかり気になっていたけど、おれも少しずつ変化してるのかもな。
——舵くん——
白樺で寛いでいるとメグリ先生が現れた。
「あ、先生」
「元気してる?」
「はい、こないだは極楽見学させてもらってありがとうございます」
「過去帳無しでも動けるみたいだから、ちょっとドライブしない?」
瞬間嬉しくなると、例のクーペ(063『あちらの世界のメグリ先生』)が現れて、ベースの上空に浮かんだ。
「なんか、前よりもスムーズっすね」
「フフ、舵くんが慣れたのよ。シートベルトして」
「はい」
「行くわよぉ」
ルィーーン
なめらかな加速音をあげて、クーペはベースの上を旋回してカルデラの外に出た。
まりあにくっついて、近距離なら俺一人でも、あちこち行ったから、景色そのものは目新しくないんだけど、なんだかクリアに感じる。なんというか、アナログテレビが4Kになったみたい。
「飛ぶことに力使ってないからよ」
「そうなんすか?」
「うん、アメリカからこっち来るの一瞬だったでしょ」
「はい、気になるなあと思ったとたん戻ってました」
「霊的なテレポだからね。でも、その分、途中の景色とかは見えないでしょ?」
「え……あ、そうか。これは移動を楽しむための」
「まあね、使い分けが大事かな」
カルデラの内側を一周すると、クーペは首都の街に入って行った。
「こっちって、学校の方っすよね?」
「そう、今日はね、追悼式があるの……」
ルィーーン
着陸するとグラウンドの隅に大勢の人。大勢の前、そこから先は崖だというフェンスのところに墓石のようなのが建っている。
「あ、あの時の……」
まりあに擬態したマリアが群衆に襲われ火だるまになって崖下に転がり落ちた場所だ。
——舵まりあ受難の碑——
これも鎮静ガスの効果なんだ。
「やっぱ、アメリカ製はスゴイっスね」
「フフ、昭和のお年寄りみたい」
先生の言葉にひい祖父さんの顔が浮かんだ。優しく肩を叩いていきやがったけど、あの時蔵爺さんもよくわからねえ。
「ねえ、あの子たち、まりあちゃんのクラスメートじゃない?」
「ああ……」
列の後ろの方に制服の一団。目を向けると、前の方には袈裟を着た坊さんが二人。
「あ、釈迦堂さん」
「知り合い?」
「まりあのクラスメート、お寺さんなんです」
今日はお父さんといっしょ。お父さんが導師で、釈迦堂さんは助手なんだろう。
「そうかぁ、これもガスの効果の現われなんだろうね……さ、つぎ行くよ」
ルィーーン
「高く飛ぶんですね」
「うん、今度は大きく見てみよう」
「おお……」
瞬くうちにクーペは高度一万を超えて、横浜から三浦半島の先の方まで見えてくる。
山手線の内側、東京の中心部は壊滅して巨大なクレーター。そこに海水が入り込み東京湾が五割り増しになってしまったみたいだ。川崎、横浜、横須賀あたりもひどい有様。こちらは、巨大なサンドペーパーでひと撫でされたみたいにささくれている。
「木更津の方を見て」
「ええと……」
木更津は…………東京湾を挟んで千葉の方、思い出すのに時間がかかる。
なんせ、16歳でホトケさんになっちまったもんで、知らないことが多い。関東の地形や地名は東京と横浜あたりの点と線に限られていて、それ以外は小学生と変わらない。
「でも、木更津は分かったんだ」
「ああ、ゴジラ映画で自衛隊のヘリとか飛んでくるじゃないっすか。あれって、自衛隊の隠語で『キサラヅ』って言うんです。基地が木更津にあるもんで」
「ほう、詳しいんだ」
「あ、カッコいいから耳に残っただけっす」
「そうか、君たちの世代ってカッコいいは大事なメルクマールなんだ」
「メルクマ……?」
「目印とか指標って意味」
「あ、勉強になったっす(^^;)」
「あっちの方は、クレーターやギザギザもあるけど、酸に侵されて溶けたみたいなとこもあるでしょ」
「ああ……ヨミの攻撃っていろいろっすからね」
「どうしていろいろだと思う?」
「え、あ……」
いろいろで当たり前だと思っていたから、改めて聞かれると言葉に詰まる。
「ヨミってひとくくりにしてるけど、実は、いろんなものの複合体……完全に複合もされてもないから、ちょっとバラバラになってしまう」
「って言うのは……」
「アマテラスがそうでしょ」
「あ、ああ……」
アマテラスは一台のスーパーコンピューターみたいだけど、じっさいは七台のスーパーコンピューターを並列化した超スーパーコンピューターの総称だ。
「元はバラバラだから、傷跡もバラバラ。こういうヨミを相手にするにはウズメだけでは限界がある」
「え?」
「いまは五分五分だけど、いつかはね……」
「それって……」
「まあ、なんかの役には立つでしょ。クーペ、舵くんに預けるわ。霊的な乗り物だから、舵くん次第で性能は上がっていくわ。ということで、わたしは……」
そう言うと、ダッシュボードから電動自転車のミニチュアを取り出し、ドアを開けて踏み出した。
すぐに自転車は実物大になって、先生はそれに跨って「じゃあね!」と手をあげると、西の空に飛んで行ってしまった。
☆彡 主な登場人物
・舵 晋三 永遠の16歳 法名・釋善実
・舵 まりあ 晋三の妹 高校2年 ウズメのパイロット
・舵 晋太郎 特務旅団司令 晋三とまりあの父
・高安みなみ 特務旅団少佐
・中原光子少尉 みなみ大尉の副官
・金剛武特務中佐 ベースのコンピューターの保守を任務とする技術士官
・テレジア(元マリア)ガイノイド戦士(031から)まりあのガード(VR10201改)
・ナユタ ソメティのパイロット 第二首都高一年
・徳川曹長 みなみの世話係
・まりあの友達 釈迦堂観音(お堂さん) 矢治公男と喜田伸晃 鈴木さん 佐藤さん
・学校の先生 瀬戸内美晴(担任)
・岡田 時子 舵司令がたまに入れ替わる母の若いころの義体
・岡田 時蔵 時子の祖父(080で死亡)
・メグリ先生(?) 晋三が小一の時の担任
・米国特務旅団 どろしい ヘンリー准将 ボギー大佐
☆彡 重要語句
・インテグレーション(integration) ウズメ02を複数パイロットの能力を統合して操縦すること
・セパレートアタック 複数パイロットが個別にコントロールして攻撃すること
・ケティちゃん ケティちゃんを依り代とする小思念体
・PONSY ポーツマスネイバルシップヤード(アメリカの特務旅団)
・中華飯店 ポーツマスのレストラン、78回からは中華飯店9090




