041『ケティのスタンドバイミー』
まりあ戦記・041
『ケティのスタンドバイミー』
えーーーなに考えてんのよ!
頭のてっぺんから声が出てしまったみなみ大尉だった。
金剛武特務少佐が、いそいそと大尉を誘ったのはサンオリのケティランド、そのデコレーションケーキのようなゲートの前だ。
「小さいころにケティちゃんで遊んだことないかい?」
「ないわよ! 五歳の時にヨミの浸食が始まって、逃げ回ってばかりだったんだから!」
「だったら、ちょうどいい。オレ入場券買ってくるから」
意外だった。たいていのアミューズメント施設はスマホなどの携帯端末で入場券を買うのが常識だ。
チケット売り場に列をなして入場券を買うなんて古典的な設定は映画やドラマの世界にしかない。
それでもスマホのデジタルチケットをアナログなペーパーチケットにしたい人はいるので、それなりの列は出来ている。
でも、金剛少佐のように一からチケットを買おうというのは、システムを理解していない八十歳以上の老人か、よほどの好事家である。
で、ゲートの前には、お父さんや彼氏が疑似アナログチケットに交換するのに並んでいる間、ワクワクしながら待っている家族連れやローティーンの女の子が結構いる。
実際より若く見えるとはいえ、自分と同じ年頃の女性は、みんな子供連れの母親だ。
「ね、あの人のスタジャン『ケティのスタンドバイミー』の……」
「ほんとだ、あれはシブイよねー」
そんな会話が聞こえてきた。どうやら自分のことを言っているらしい。さりげなくゲートのガラスに映る姿をチェックする。
大尉が着ているのは、先日、少佐に押し付けられたデート用の衣装だ。
スタジャンは、裏地こそピンクのチェック柄だが、表はカーキ色のタンカースジャケットだ。ちょっとレトロだけども、年齢に関係なく着られるアイテムで、ここで待っている人たちの中にも似たようなものを着ている人が結構いる。あまり目立たない衣装なので、すっかり安心していた。
「あのう、突然ですみません!」
高校生ぐらいの二人連れの女の子が声を掛けた。
「え、あ、はい!」
女子高生みたいな返事をしてしまった。
「そのスタジャン、どこで買ったんですか?」
「ぶしつけですみません!」
二人は目をキラキラさせていて、周囲の人たちも憧れのまなざしで見ている。なんとも居心地が悪い。
「あ、えと、人からもらったものなんで……」
「そーなんですか!」
「ひょっとしてプレゼントしてくれた人って、いっしょに来てます?」
「あ、えと、それは……ていうか、この地味なタンカースジャケットが、なんで?」
周囲の人たちから笑い声が上がった。
「あの、そのスタジャンはですね『ケティのスタンドバイミー』って不朽の名作でですね、あーーー思っただけで涙があーーー」
「えと、ケティちゃんが家出してですね、家出にはふかーい訳があるんですけど、ウウウウウ……」
「グス、けつろん言いますとね、ケティちゃんが彼の愛情に気づいた時に、なんでもないスタジャンに愛のシグナルが現れるんです」
「シグナルは、気づいて現れるんですけど、彼氏が、すぐそばにやってくると輝きを増すんです!」
「あーーー、でも、これはただの……」
大尉が見た限り、ただのタンカースジャケットなのだ。
オーーー!!
その時、周りの人たちから感嘆の声があがった。
「せ、背中です、背中!」
「いま、輝きが!」
大尉は、ジャケットを脱いで背中を見てみた。
背中には、ケティの満面の笑みと I love You! の文字がキラキラ輝いていたのだ!
人だかりの向こうには、少佐がニタニタ笑って二枚の入場券をヒラヒラ振っていた……。




