040:金剛武特務少佐
まりあ戦記・040
『金剛武特務少佐』
「わかったわ、あたしがなんとかする」
大尉は、そう言ってやるしかなかった。
「ありがとうございます、やっと本務に戻れます」
中原光子少尉は、せいいっぱい微笑んで礼を言ったつもりだが、窪んだ目は、その疲れたクマに縁どられ痛々しいばかりである。
まりあの御守りと尾行を頼まれてひと月になるが、毎度振り回されてばかり。かと言って責任感の強い少尉は、いいかげんなこともできず憔悴しきっていた。
ドタン!
デスクに向き直ったところで、ドアの外で倒れる音がした。
「中原少尉?」
廊下に出ると中原少尉が気絶している。まりあの任務から解放された安堵から気を失ってしまったのだ。
「急を要するなあ……」
軍用スマホを取り出すと、大きなため息をついて、あの男を呼び出した。
「おう、みなみ、嫁になる決心がついたか」
士官用サロンに入ってくると、ガムを噛みながら大尉の横に腰を掛ける男。
軍服を着ていなければ、このニヤケタおっさんは、とっくに保安隊に身柄を拘束されていただろう。
「肩に手を回すの止めてもらえます」
「やれやれ、プロポーズの返事じゃないようだ」
「横じゃなくて、前に座ってください」
「気乗りはしないが、仕事の話だな」
「少佐、まりあの監督をお願いします」
「未成年には興味はないんだが」
「任務です。なんなら司令の命令書を用意しますが」
「そういうシャッチョコバッタことは御免だね。高安みなみの頼みでなきゃいやだ」
「だったら、高安みなみとしてお願いします。まりあの面倒みてやってください」
「まあ……いいだろ。でもな、結婚の約束をしろとは言わないけども、一度、その軍服を脱いで付き合ってもらえないかなあ」
「考えときます」
「そりゃないよ、半日でいいから付き合えよ」
「半年先まで任務で埋まってますから」
「空きができればいいんだね」
「だから、半年先まで……」
「大丈夫」
少佐は軍用スマホを取り出すと、軽くタッチをして、画面を大尉に見せた。
「四日後、みなみ君は一日休暇だ」
「あーーーダメじゃないですか、師団のCPに侵入なんかしちゃーーーー!」
「僕は、ベースのCPの保守点検を任されているんだ」
「それって公私混同!」
「任務の目的は、師団全体の任務処理の円滑化だ。君の休暇は、その円滑化に無くてはならないものなんだよ。この金剛武特務少佐のやることに無駄は無い。なんなら正式な命令書にするけど」
「んもーー、じゃ、二時間だけ付き合います」
「え、休暇は丸一日なんだぜ」
「久々の休みなら、美容院にも行きたいし、その、だいいち着ていく服もないから買いに行かないと」
「なら、この服を着ればいい」
少佐は、シートの横から紙袋を取り出した。
「え、えーーー!」
「この流れは想定していたから用意しておいた。美容院はこれ……」
なんと美容院のメンバーズカードを出した。
「みなみ君の名前になってる。サロンマツコ、当たり前なら三か月待ちだよ。時間は三日後の9時、その日の演習プログラムの確認はもうやっておいたから、18時までは時間が空くはずだ」
グギギギギ……
みなみ大尉は歯ぎしりした。
「そう先ばっかり読むのやめてくれます!?」
「俺の仕事はコンピューターの保守点検だ。マザーから端末に至るまで円滑に動作するように、絶えずシステムの今を見て先を読んでいる。いや、読んでしまう……すまん、もし、心底不愉快なら、金輪際止めておくが。なあに、多少ショックではあるが、任務への影響は5%ほどだ。ベースの平常運転には影響ない」
「ウウ……半日、三時間が限度です!」
「ありがとう! でも、どーして三時間? 丸一日休暇なんだぜ」
「メンタルの限界なんです!」
「そっか……ま、それでいい」
少佐は、しょんぼりと肩を落とした。
「あ、いや、その間はきっちりお付き合いします。高安みなみに二言はありません」
「それはよかった! 三時間あれば子どもを作るのには十分だ!」
「しょ、少佐あーーーーヽ(#`Д´#)ノ!」
「じゃ楽しみにしている、お互い任務に戻ろう!」
金剛武特務少佐はスキップしながらサロンを出て行った。
☆彡 主な登場人物
・舵 晋三 永遠の16歳 法名・釋善実
・舵 まりあ 晋三の妹 高校2年 ウズメのパイロット
・舵司令 特務旅団司令 晋三とまりあの父
・高安みなみ 特務旅団大尉
・中原光子少尉 みなみ大尉の副官
・金剛武特務少佐 ベースのコンピューターの保守を任務とする技術士官
・テレジア(元マリア)ガイノイド戦士(031から)まりあのガード(VR10201改)
・徳川曹長 みなみの世話係
・まりあの友達 釈迦堂観音(お堂さん) 矢治公男と喜田伸晃 鈴木さん 佐藤さん
・学校の先生 瀬戸内美晴(担任)
・時子 舵司令がたまに入れ替わる義体




