回想《ミリア》
7月28日、待望の子供が産まれた。
元気な男の子だった。
なかなか授かれなかったので、皆とても喜んだ。
私達はこの子にハルキと名付けた。
由来などは特になかったけれど、皆とても気に入ってくれた。
沢山の祝福の中で産まれてたこの子の人生は、きっと明るいものになるだろうと思っていた。
ハルキは手のかからないとても良い子だった。
良い子過ぎて不安になるほどに。
仕事を休む覚悟もしていたのに、拍子抜けするくらいだった。
時々感じる『観察されている』ような気配は少し不気味に感じたが、気のせいだと割り切った。
半年も経つと、もうハルキは私達の言葉を理解しているようだった。
だけど、もう喃語を話していてもおかしくないのに一切、言葉を発しなかった。
何か不自由があるのではないかと私はいつも心配だった。
9ヶ月を過ぎると本の朗読をせがむようになった。
私はハルキの持ってきた本を読んであげた。
その頃から私は『ハルキは天才なんじゃないか』と思い始めた。
家族からは「親バカ」だの、「親は大抵そう思うものだ」だのとまともに取り合ってもらえなかったが、私はハルキに本格的に文字を教え始めた。
それから1ヶ月。
ハルキは驚くべき早さで文字を覚え、自分で本を読めるようになったようだった。
それも童話や絵本ではなく、初等生向けの歴史書だ。
そしてこの頃、私はやっとハルキの第一声を聞くことができた。
「これなんて読むの?」
私は感動した。安心した。
本当を言うと最初の言葉は「ママ」が良かった。
ママと呼ばれたらレオに自慢してやろうとも考えていた。
だけど、ハルキが話したことが嬉しすぎて、そんなことはどうでも良かった。
私は夢中で質問に答えた。
「ありがとう」
ハルキにそう言ってもらったとき、私は天使を見た気がした。
ハルキが1歳になった。
誰に言われるでも教わるでもなく、敬語を使って話すようになった。
まだ「ママ」とは呼んでもらえていなかった。
私は少し不安になった。
それから少しして、家に魔族が入ってきた。
私のお父さんが撃退してくれた。
森守としても、ハルキを守る親としても、より気合を入れて警備しなければいけないと思った。
その次の日、ハルキが倒れた。
仕事から帰ってきた私は、頭が真っ白になって倒れそうになった。
原因は魔力欠乏だった。
ハルキが魔法を使ったのだ。
お父さんは喜んでいたが、私は絶望した。
小さい頃から魔法を使える子は、その8割が5歳になる前に命を落とす。
魔力欠乏と魔力過多が原因だ。
魔法の使いすぎで魔力欠乏を何度もおこして死んでしまう場合と、魔力量の上昇に子供の体がついていけなくなり、魔力過多で死んでしまう場合だ。
その後私はレオと一緒に子供部屋を見に行った。
そして私達は扉を開けて絶句した。
部屋が焼け焦げていたのだ。
爆発でも起こったかのように。
事前にお父さんから聞いてはいたけれど、想像を遥かに超えていた。
私達の家は対魔族ようにかなり頑丈に作られている。
普通の家なら消し飛んでいたかもしれない。
しばらくレオと掃除した子供部屋に、目の覚めたハルキを運んで新しいベッドに寝かせた。
ハルキは本当に天才だった。
だけど私はその天賦の才を素直に喜べなかった。
慎重に育てなければハルキは死んでしまう。
私はお父さんにハルキを任せることにした。
本当は付きっきりで世話したかったけれど、最近魔族が活発化しているので仕事を休めないのと、魔法のスペシャリストの方が良いと判断したためだ。
倒れた次の日から、ハルキは人が変わったように明るくなった。
初めて「お母さん」と呼んでくれた。
私はひとりで密かに泣いた。
それからしばらくして、お父さんから「ハルキは魔法を飽きてしまった」と聞いた。
正直ホッとした。
魔法を使わなければ魔力過多にも魔力欠乏にもなる心配はない。
私は安心して森守の仕事に専念できた。
それから3ヶ月後。
家に戻ると裏の森が更地になっていた。
最初はお父さんが何かやらかしたのかと思ったけれど、聞けばハルキがやったというのだ。
そしてハルキは魔力過多を起こしたらしい。
見えないところでずっと魔法の練習をしていたようだった。
お父さんが緊急措置をとってくれたが、そう何度も出来る措置ではないらしく、根本的な問題解決にはならないらしい。
私はもう何をどうしていいのか分からなかった。
その日の晩、家族会議が開かれた。
だけど、結論はすぐに出た。
私は泣いた。
「ああなってしまった以上、最終手段を取るしかない」
お父さんは項垂れながら言った。
「ミリアと婆さんには辛い役を頼むことになる。準備には何日かかりそうじゃ?」
「そうだね、万全を期すために10日もらおうかねぇ。ハルキの身体はもちそうかい?」
「10日なら問題なかろう」
「周辺の魔族払いは僕がやっておきます」
「──では10日後、ハルキを封印する」




