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Norse Cosmology   作者: 宵闇蛍
第一章 -幼少期編-
11/28

回想《ミリア》

 7月28日、待望の子供が産まれた。

 元気な男の子だった。

 なかなか授かれなかったので、皆とても喜んだ。


 私達はこの子にハルキと名付けた。

 由来などは特になかったけれど、皆とても気に入ってくれた。

 沢山の祝福の中で産まれてたこの子の人生は、きっと明るいものになるだろうと思っていた。


 ハルキは手のかからないとても良い子だった。

 良い子過ぎて不安になるほどに。

 仕事を休む覚悟もしていたのに、拍子抜けするくらいだった。

 時々感じる『観察されている』ような気配は少し不気味に感じたが、気のせいだと割り切った。


 半年も経つと、もうハルキは私達の言葉を理解しているようだった。

 だけど、もう喃語を話していてもおかしくないのに一切、言葉おとを発しなかった。

 何か不自由があるのではないかと私はいつも心配だった。


 9ヶ月を過ぎると本の朗読をせがむようになった。

 私はハルキの持ってきた本を読んであげた。

 その頃から私は『ハルキは天才なんじゃないか』と思い始めた。

 家族からは「親バカ」だの、「親は大抵そう思うものだ」だのとまともに取り合ってもらえなかったが、私はハルキに本格的に文字を教え始めた。


 それから1ヶ月。

 ハルキは驚くべき早さで文字を覚え、自分で本を読めるようになったようだった。

 それも童話や絵本ではなく、初等生向けの歴史書だ。

 そしてこの頃、私はやっとハルキの第一声を聞くことができた。


 「これなんて読むの?」


 私は感動した。安心した。

 本当を言うと最初の言葉は「ママ」が良かった。

 ママと呼ばれたらレオに自慢してやろうとも考えていた。

 だけど、ハルキが話したことが嬉しすぎて、そんなことはどうでも良かった。

 私は夢中で質問に答えた。

 

 「ありがとう」


 ハルキにそう言ってもらったとき、私は天使を見た気がした。

 



 ハルキが1歳になった。

 誰に言われるでも教わるでもなく、敬語を使って話すようになった。

 まだ「ママ」とは呼んでもらえていなかった。

 私は少し不安になった。



 それから少しして、家に魔族が入ってきた。

 私のお父さんが撃退してくれた。

 森守としても、ハルキを守る親としても、より気合を入れて警備しなければいけないと思った。


 その次の日、ハルキが倒れた。

 仕事から帰ってきた私は、頭が真っ白になって倒れそうになった。

 原因は魔力欠乏だった。

 ハルキが魔法を使ったのだ。


 お父さんは喜んでいたが、私は絶望した。

 小さい頃から魔法を使える子は、その8割が5歳になる前に命を落とす。

 魔力欠乏と魔力過多が原因だ。

 魔法の使いすぎで魔力欠乏を何度もおこして死んでしまう場合と、魔力量の上昇に子供の体がついていけなくなり、魔力過多で死んでしまう場合だ。

 

 その後私はレオと一緒に子供部屋を見に行った。

 そして私達は扉を開けて絶句した。

 部屋が焼け焦げていたのだ。

 爆発でも起こったかのように。

 事前にお父さんから聞いてはいたけれど、想像を遥かに超えていた。

 私達の家は対魔族ようにかなり頑丈に作られている。

 普通の家なら消し飛んでいたかもしれない。


 しばらくレオと掃除した子供部屋に、目の覚めたハルキを運んで新しいベッドに寝かせた。

 ハルキは本当に天才だった。

 だけど私はその天賦の才を素直に喜べなかった。

 慎重に育てなければハルキは死んでしまう。

 私はお父さんにハルキを任せることにした。

 本当は付きっきりで世話したかったけれど、最近魔族が活発化しているので仕事を休めないのと、魔法のスペシャリストの方が良いと判断したためだ。

 

 倒れた次の日から、ハルキは人が変わったように明るくなった。

 初めて「お母さん」と呼んでくれた。

 私はひとりで密かに泣いた。



 それからしばらくして、お父さんから「ハルキは魔法を飽きてしまった」と聞いた。

 正直ホッとした。

 魔法を使わなければ魔力過多にも魔力欠乏にもなる心配はない。

 私は安心して森守の仕事に専念できた。



 それから3ヶ月後。

 家に戻ると裏の森が更地になっていた。

 最初はお父さんが何かやらかしたのかと思ったけれど、聞けばハルキがやったというのだ。

 そしてハルキは魔力過多を起こしたらしい。

 見えないところでずっと魔法の練習をしていたようだった。

 お父さんが緊急措置をとってくれたが、そう何度も出来る措置ではないらしく、根本的な問題解決にはならないらしい。

 私はもう何をどうしていいのか分からなかった。


 その日の晩、家族会議が開かれた。

 だけど、結論はすぐに出た。

 私は泣いた。


 「ああなってしまった以上、最終手段を取るしかない」


 お父さんは項垂れながら言った。


 「ミリアと婆さんには辛い役を頼むことになる。準備には何日かかりそうじゃ?」


 「そうだね、万全を期すために10日もらおうかねぇ。ハルキの身体はもちそうかい?」


 「10日なら問題なかろう」


 「周辺の魔族払いは僕がやっておきます」




 「──では10日後、ハルキを封印する」

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