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第7話 覚悟の五割増徴

「海苔を、こうして混ぜ……型に流し込み、余分な水を落とす」


城の中庭に設えた即席の工房。職人たちは、俺がかつて鳥羽で見た記憶を頼りに作った「紙漉き用の」を前に、呆然と立ち尽くしていた。和紙は繊維が絡み合うことで強度が出るが、海苔は違う。海苔同士が重なり合い、乾燥することで薄い膜となる。


「……殿、このように水を切れば、確かに四角く固まりまする。ですが、これに何の意味が?」


紙漉き職人の長が、不安げに問う。俺は一歩前に出た。


「これは食える。しかも、ただの海苔とは違う。炙れば香ばしく、パリッと口の中で解ける。保存も効く。これを大坂の商人に見せれば、どうなるか分かるか?」


おまけに水車動力で海苔を砕くことで、大量生産ができる


職人たちが顔を見合わせる。吉成が俺の言葉を補足するように口を開いた。


「皆の衆、よく聞け。これは津の御本家や、大殿もまだ知らぬ『宝』の種なのだ。今治の、いや、藤堂家の命運を握る品と心得よ」


吉成の言葉に、職人たちの背筋がピリリと伸びた。彼らはもはや「胡散臭い若殿の思いつき」ではなく「主命」として、真剣に作業を開始した。


(よし、これで現場は回る。次は、この価値をどうやって世間に知らしめるかだ)


工房を後にした俺と吉成は、城の広間へと向かっていた。だが、その途中で吉成の足が止まる。彼の表情から先ほどまでの活気が消え、鋭い戦場のそれへと変わった。


「殿。……一つ、申し上げねばならぬことがございます」


「どうした、吉成」


「伊勢の本家より、急ぎの書状が届きました。……大殿が現在普請中の仙洞御所造営、並びに幕府より申し付かった度重なる手伝普請。本家より、今治を含む各領地へ『普請協力金』の拠出が命じられました」


吉成の表情は硬い。幕府の命によるこの「協力金」は、藩の財政を揺るがす火種となっていた。


「……具体的には、どの程度の負担だ?」


「現行の納めに加えて『二割の増徴』にございます」


二割の増徴。今ここで抗えば忠義を疑われ、黙って受け入れれば領内の経済が干上がる。


(……二割か。海苔の事業が軌道に乗るまで、まだ余裕がない。ここで現金を吸い上げられたら、初期投資も人件費も確保できなくなる)


吉成は俺の顔を伺い、声を潜める。


「……殿。本家へは、何と返答いたしましょうか。このままでは、領内の民の不満を買い、国が荒れてしまいます」


俺は立ち上がり、窓の外の瀬戸内海を眺めた。早速普請中の工房の方角からは、職人たちが何やら熱心に話し合う声が聞こえてくる。まだ試作の段階だが、あそこでは確実に、今までにない何かが生まれようとしている。


俺は吉成の肩に手を置いた。


「吉成。……本家への返答は『承知』だ。二割と言わず、こちらから『五割』の献金を申し出る」


「……殿? 五割、でございますか!? 正気でございますか!」


吉成が驚愕に目を見開く。俺は静かに笑った。


「ああ。ただし、条件がある。この一年、今治の徴税と領内経営の采配を、全て俺に一任してもらう。津の御本家は、結果として出される五割の増分だけを受け取ればよい。その代わり、過程には一切口を挟まない。……これを本家への約条とする」


「過程に口を挟むな……と。しかし、そのような無礼な約条、本家が認めますでしょうか」


「俺が直接、大殿に書状を出す。……『藤堂家の未来のために、今治を一年間で御家最大の富を生む地へと押し上げる。その結果として、幕府の普請に貢献する』とな」


城の空気が張り詰める。それは、高虎公への絶対の忠義と、現代の経営感覚を掛け合わせた、俺にとっての最初の勝負だった。


「吉成、準備をしろ。津の御本家を黙らせるほどの『大功』を、誰よりも早く叩き出すぞ」


「……はっ! 殿のその決意、この吉成、命にかけてお供いたします!」


吉成の瞳に、迷いが消えた。

今治は今、タカヨシという異質な城代の采配により、歴史の既定路線から大きく逸れようとしていた。

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