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第3話 「高虎じゃないのかよ! 絶望の慶長十七年」

「……殿? 今、なんとおっしゃいました……?」

再度確認する吉成の驚愕が、震える声に現れている。


俺は頭を抱え、必死に深呼吸をした。パニックになっている場合じゃない。状況を整理しろ。


「……ここ、は……どこなんだ?」


俺の問いに、吉成はより一層怪訝な顔をした。


「……どことは、今治の城でございますぞ。殿、どうかされたのですか?」


今治……。


その単語を聞いた瞬間、脳内で何かが火花を散らした。まるで歴史の教科書とWikipediaが同時に脳内で全速回転を始めたような感覚だ。


(藤堂家か? ……待て、高吉?)


俺はハッとして、自分の頭を抱えた。


……思い出したぞ。俺の名前が「タカヨシ」だから、家臣たちが「タカヨシ様」と呼ぶたびに、自分の名前だと思って返事をしようか迷っていたんだ。だが、彼らが言っていたのは「藤堂高吉」という、歴史上の人物の名前だったのか。


(おいおい高虎じゃないのかよ……。高虎ならまだしも、高吉かよ!?)


三重県出身の俺にとって、藤堂高虎といえば地元でも有名な名大名だ。だが、その養子である高吉となると……。俺は心の中で、自分でも驚くような本音を叫んだ。


(……だから、さっきから「タカヨシ様」って言われても、俺の名前を呼んでるのか、ちがうのか、ちんぷんかんぷんだったんだよ!)


俺は無言で、開け放たれたままの襖の外へと

視線を向けた。


そこには、藤堂家の家紋である「藤堂蔦」の旗、そして「三つの白餅」の旗が、冷たい風に揺れていた。


「……マジかよ」


声に出すと、さらに現実味が襲ってくる。

転生ものといえば子供からやり直すのが相場だろう?


確かに鏡を見れば、昨日のしがない40歳サラリーマンの顔じゃない。若々しく、力強い。


だが、いきなりこの年齢で、しかも戦国時代の真っ只中ってどういうことだ。


……いや、待て。


愚痴を言っても始まらない。転生したなら、現代の知識と歴史の先読みで、今度こそ勝ち組になってやる。そう決めていたはずだ。


だが、問題はその「時期」だ。


「……吉成。今、何年だ?」


俺の問いに、吉成は困惑しながらも正直に答えた。


「……慶長十七年の、神無月かんなづきですぞ」


脳内で瞬時に換算する。

慶長17年……西暦で言えば1612年。

(は……!?)

俺は眩暈がするのを感じた。


大坂の陣まで、あと2年。

戦国時代の終わりを告げる、あの凄惨な戦いが目前に迫っているじゃないか。


「……戦国が終わる……いや、始まるのか……」


俺のつぶやきを、吉成は不思議そうに

聞き流している。


俺は心の中で、自分自身に絶望に近い咆哮を上げた。

出世する? そんな甘い次元じゃない。この歴史の荒波を、俺のような「知識だけのサラリーマン」が生き残れるわけがないだろうが!

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