不吉なコト
トビラを開けて、公園の祠の目のまえにでたのであるが、3人とも、無言であった。
ナゼならば、先ほどまで、空にただよっていたのであろう、異形のアヤカシたちが、ひとつもいないのだから。
(ナンだコレは、さっき見せられた映像を、まったく違うじゃないか)
このようにギモンを感じ、「先ほど見せられた映像は、じっさいの公園と、ちがうモノではないのか」とも、徳康はおもった。
「コレはチョット、メンドウなコトになるかもしれませんね」
岩羽がこういうと、大空も賛同した。
「岩羽さんのいうとおりだね、コレは。さっきまで、大量にいたハズのアヤカシたちが、ひとつもいない。っていうのは、あきらかにオカシイ」
「その、チョットいいですか。シロウトながらにギモンなんですが、ああいうアヤカシっていうモノは、とつぜん消えるコトはあるんですか?
しょうじきなところ、『さっきの空間で見せてもらった映像は、ホントウに、この公園の映像なんダロウか』っていうギモンを、持ってしまいそうなんですが」
徳康は、大空にたいして聞いてみた。
「いや、とつぜん消えるなんていうコトは、チョットかんがえづらいですね。まあカベがなければ、『どこかに逃げていった』っていう可能性はありますけど。
でも、ちいさな穴しかないんだったら、あの無数にいたアヤカシたちが、『われわれが、ココにでてくるまでの数十秒のあいだに、その穴から、すべて逃げだした』っていうのは、チョットかんがえにくいです」
「ナルホド」
「徳康さんのたちばからしたら、『さっきの空間で見せられた映像が、ホントウに、この公園の映像だったのか』と、疑ってしまうのは、しかたないでしょうね。
でも、アレはホントウに、ついさっきまでの、この公園の映像だったんですよ。とはいっても、ソレを証明するコトはデキませんけどね。
まあ、そもそもの前提として、『ニセモノの映像をながして、ソレを見せなければならない』っていう動機・りゆうは、コチラにはありません」
「ソレはまあ、たしかにソウでしょうね」
(たしかに、オレにたいして、ニセモノの映像を見せるひつよう性も、見せなければならない動機・りゆうも、ナイといわれたら、まったくナイんだよなあ)
ふたりがハナシをしているあいだ、岩羽は、公園まわりにつくったカベを見ていた。そして、ちいさな穴を見つけたのである。
とはいっても、そのカベも、カベに開けられた穴も、目で見るコトはデキないのだが。
「ありましたよ、大空さん。ココに、穴が開けられてます」
ソウいうと、岩羽は大空を呼んだ。
「ホントウだ。たしかに、穴が開けられてる」
ふたりにつられて、徳康も、その場所に行ってみたのであるが、ナニも見えない。
「スイマセン。ワタシには、ナニも見えないんですが」
「ソウですね。まだ見るコトはデキないかもしれません。でも、ココにワタシがつくったカベがあるのはホントウですよ。試しに、手で触ってみてください」
岩羽にいわれて、徳康は手を伸ばしてみた。するとたしかに、目ではナニも見えないのだが、カベのようなモノがそんざいした。つまり、ソレ以上先には、手を伸ばすコトがデキないのだ。
(スゴイな、ホントウにココに、見えないカベがある。コレならたしかに、ダレかが、ソトから公園のなかに入るっていうコトは、デキそうにないか)
「おどろきですよ。ホントウにカベがある。しかし、さっきからホントウに、今まで見たコトも、聞いたコトも、たいけんしたコトもない事態が、立てつづけにつづいてるもんですから、アタマのなかで、ショリが追いつかないですよ」
「ダイジョウブですよ。いずれイヤでも、げんじつ感を持つようになりますから。
こういうコトは、何度も見たり、聞いたり、けいけんするコトで、ダンダンと慣れてきて、フツウにかんじるようになります」
と、大空はキッパリといった。
「ええ、大空さんのいうとおりですよ。ワタシもさいしょは、カナリとまどってしまいましたけど。
でも、今となっては、もうコレがアタリマエというか、フツウにかんじています。数週間もこういうコトをけいけんすれば、馴染んじゃいますよ」
(というコトは、この岩羽ってオンナも、オレみたいに、さいしょのうちは、超常のチカラを、知らなかったっていうコトなのか。
ナニカのジケンやキッカケがあって、こういうコトを、知るようになったんダロウか)
大空と岩羽は、カベに開けられたという穴を、しらべているのだが、徳康としては、そのカベのスガタ・カタチというものを、まったく見るコトがデキない。そのために、穴についても、まったく見えない。
(参ったなあ。オレはココにいても、やるコトがない。どうしたもんか)
「ん~、コレはヤッパリ、メンドウ臭いコトになりそうだ」
こういうと、大空は、徳康のほうを見た。
「徳康さん、せっかくなんで、このカベと、開けられた穴を、見たいとおもいませんか?」
「ふたりとも見えてるんですよね。だったらワタシも、せっかくなんで、見るコトがデキるもんなら、見てみたいかと」
「わかりました。じゃあさっそく」
コウいうと、大空は、じぶんの手をまえに伸ばした。そして、手のひらを上に向けて、ナニやら集中しているようすであった。
「徳康さん、ワタシの手のひらを、ジッと見てもらっていいですか?」
「手のひらを?」
「ええ、手のひらの上を、集中して見てほしいんですよ。さっき、公園にいたとき、アタマの上にあった、不運や不幸のカタマリや、その上にいた、異形のカタチをしたモノが、見えるようになりましたよね。
さいしょのうちは、それらのモノを、まったく見るコトがデキなかったのに、とちゅうから見えるようになった。
コレはつまり、そういうモノを、そんざいを、ハッキリといしきして、にんしきしたからなんですよ。
とはいっても、『いしきして、にんしきすれば、ダレでも見るコトがデキる』というワケではナイんですがね。
ズバリいってしまえば、超常のチカラをつかいこなせる、さいのう・のうりょく・資質を持っているニンゲンでないと、デキるコトじゃナイんですが。
ソレで、さっき徳康さんは、ワタシとチョット、ハナシをしただけで、ソレまでまったく見えていなかったモノが、ハッキリと、見えるようになった。
コレはつまり、もともと、ソレだけのチカラというか、さいのう・のうりょく・資質があったからこそ、デキたワケなんですよ。
さいのう・のうりょく・資質を持っているニンゲンが、それらのそんざいのコトを、チャントいしきして、ハッキリとにんしきした。だからこそ、見えるようになった。
ソレで、今のワタシの手のひらの上には、その超常のチカラをつかって、そのエネルギーのカタマリをつくっています。
このコトを聞いて、いしきして、にんしきして、手のひらの上を、見てほしいんですよ」
大空に、このようにいわれて、徳康はいわれたとおり、手のひらの上を見た。
すると、さいしょのうちは、まったくナニも見えなかったのだが、ダンダンと、薄っすらとではあるのだが、淡いヒカリのカタマリのようなモノが、薄ボンヤリと見えだしたのである。
(おどろいたな、ホントウに、手のひらの上に、ヒカリのカタマリみたいなモノが見える)
「薄ボンヤリとですが、ヒカリのカタマリみたいなモノが見えます」
「ソウですか。ヤッパリ徳康さん、超常のチカラをつかえる、のうりょく・さいのう・資質がありますね。
じゃあ、コレが見えてるんだったら、そのままの状態で、カベのほうを見てください」
ソウいわれて、「カベがある」というところに、カオを向けてみた。すると、たしかに、無色透明ではあるのだが、ナニカ、カベのようなものが、公園のまわり一帯を、囲むようにしてそんざいしているのが、おぼろげながらも、見えてきたのである。
「色がなくて、無色ですが、たしかに、カベみたいなモノが見えます」
「おお、見えてますか。ならば、そのまま、この穴のあるところを見てください」
大空は、カベにあけられた穴のまわりを指さした。その指の先を見てみると、たしかにソコには、一部分だけ、無色透明のカベがなかった。
「どうです、穴があるのが見えてますか?」
「ええ、見えます。たしかに、この一部分だけ、カベがない」
「この穴が見えてるっていうコトは、穴の開けられたところを、よく見てもらうと、ソトからこじ開けられたのが見えませんか?
ソトから破られたので、公園の内側に向かって、カベのカケラや破片が、飛び散ってるんですよ」
「ホントウだ。公園のほうに、ちいさいカケラや破片のようなモノが、飛び散ってますね」
「ソウなんですよ。このコトで、『チカラづくで、このカベに、ソトから穴を開けた』というコトがわかりますよね。
ソレで、この穴のまわりをよく見てみると、こびりついてるんですよ。アヤカシのカラダの一部がね」
「カラダの一部?」
よく見ると、穴の縁のまわりには、ちいさな肉片のようなモノが、こびりついていた。ソレも、穴の公園がわの方に。
「ホントウですね。ナニカ、イキモノのちいさな肉片のようなモノが、こびりついていますね。
まるで、ココにカラダを引っかけて、ちいさな肉や皮が、引っ付いてしまったようにも見えます」
「そのとおりなんですよ。おそらく、カベに、この穴をあけたナニモノかは、この穴から、公園の空をただよってた、たくさんのアヤカシたちを、一気にあつめて、この穴から、公園のソトにだしたのかもしれません。
だから、ごく短期間のうちに、大量にいたアヤカシたちは、この公園からスガタを消した。
そのときに、あつめられたアヤカシのカラダの一部が、この穴の縁に、引っかかった。こういう可能性があります」
「その穴をあけたナニモノかは、掃除機みたいに、アヤカシたちをあつめて、吸いこんだんでしょうかねえ」
「どうでしょうか、そのようすを見てるワケじゃないので、ナンともいえませんが」
「まあ、掃除機みたいに吸いこんだかどうかはともかくとして、そのナニモノかは、『一体どういう動機・ねらい・もくてきで、ソレをやったのか』っていうコトが、シロウトながら、気になるところですね。
ああいう、『怪しくて、ワケのわからないモノを、たくさんあつめる』っていうのは、あまり良い気がしません。ワルイというか、不吉というか、イヤなコトがおきそうな気がします」
「その予感は、たぶん、あたっていますよ。ソウだよねえ、岩羽さん」
大空がそういうと、岩羽は、カベの穴と、穴のまわりをしらべていたのを止めて、振りむいて答えた。
「まったくそのとおりだとおもいます。ああいうモノをあつめるっていうコトは、フツウにかんがえて、良いコトにつかうとはおもえません。
ユウレイ、妖怪、モノノケ、アヤカシ、タタリ、呪い。そういうモノをあつめれば、しぜんと、マイナスのワルイ、不吉なコトが起こるでしょうし。
あるいは、『マイナスのワルイ、不吉なコトをおこすために、それらをあつめた』っていうコトだとおもいます」
「オーケー、オレもキミも、そして徳康さんも、ほぼおなじ意見・けつろんに至った。っていうコトになる。
3人が、3人とも、おなじコトをかんがえた。っていうコトは、『マイナスのワルイ、不吉なコトが、コレから起こる』とかんがえて、良いかもしれない。
その確率というか、キケン性や可能性は、カナリたかいかもしれない。ソレで、岩羽さん、もうこの公園の空には、アヤカシたちはいない。だからカベは、もうひつようないね。カベを解いてもらっていいかい」
「わかりました」
こう答えると、岩羽は目をつむり、なにかに集中しているようすであった。そして、その瞬間に、公園一帯をかこむようにして、そんざいしていたカベが、フッと消えたのであった。




