無いしきの訓練
「ばしょのせい?」
「ええ、ソウです」
「ばしょっていうと、あの公園のコトですか?」
「まあそのとおりなんですけど。もっと正確にいえば、あの公園にあった、祠のせいですね」
「祠ですか」
徳康としても、あの祠が、「フツウのモノではない」というコトは、薄っすらとではあるのだが、カンづいていた。
なにせ先ほど、祠にたいして、「ナニカ」があつまっていくのを、なんとなくではあるのだが、かんじたのだから。
さらに、じぶんの上にあった、その「ナニカ」にたいして、「祠に向かえ」と念じてみたら、その祠に向かって、見えない「ナニカ」が向かっていくのを、なんとなく、かんじたのだから。
その上さらに、大空のスガタを見てから、とつじょとして見えるようになった、アタマの上にあった、雲のようなカタチをした、負のカタマリもまた、祠のほうに近づいたら、消えてしまったのだ。
これらのコトだけでも、十分すぎるほどに、「フツウの祠ではない」というコトを、察知するコトがデキるであろう。
「じゃあ聞きますけど、あの祠は、一体ナンなんですか?」
「アレはですね、見えないモノをあつめて、吸収してしまうんです。ブラックホールみたいに」
「ブラックホール?宇宙にある、すべてを飲みこむっていう、あのブラックホールのコトですか?」
「そのとおり」
(ブラックホールねえ)
そのようにいわれても、徳康としては、どうにもピンとこないし、イマイチ要領をえなかった。
「すべてを飲みこむブラックホールっていうコトは、さっきいってた、ユウレイ、怪異、モノノケ、呪い、祟りとかも、つまり、超常のモノ、アヤカシも、飲みこむんですか?あの祠は」
「理解がはやくてたすかります。ソウなんです、あの祠は、そういう超常のモノを、つまりアヤカシをあつめてきて、吸収してしまうんです。
ソレで、吸収されたそれらのモノは、消滅しちゃうようです。ソレこそ、ブラックホールみたいに。
おそらく、一旦はいりこんだら、二度と這いでるコトはデキないでしょうね、キホン的には」
「超常のモノを飲みこむ、ブラックホールですか」
「ソウです。あの祠は、超常のモノ、アヤカシにとってのブラックホールなんですよ。
ソトから、たくさんの超常のモノ、アヤカシを呼びよせて、あつめてきてしまうんですね。
海にある渦潮が、まわりからイロイロなモノを、中心に向かってあつめてしまうように。
だから、ほかのばしょよりも、そういう超常のモノが、つまりアヤカシが、つねにたくさんあつまり、そんざいしてるんです。ソコに、徳康さんがやってきた。
そして、徳康さん自身もまた、不運や不幸を呼びよせて、あつめてしまう性質や体質、特徴を持っていた。コレもまた、あるイミで、この祠と、似たようなチカラなんですよね。
不運や不幸っていうのも、目に見えないモノですし、いわば、超常のモノじゃないですか。
そういう、よく似たふたつのそんざいが、きわめて近いばしょにあつまった。一カ所にあつまってしまった。
そのために、いわゆる、相乗効果っていうヤツですね。徳康さんが、ひとりでいるときよりも、よりたくさんの超常のモノたちを、ソトから呼びよせて、あつめてしまったんですよ。
アタリマエのコトですけど、たくさんあつめるほど、ソレはおおきくなり、量が増えてくる。
だから、さっきアタマの上にあった、雲みたいなカタチをした、不運や不幸のカタマリは、フダンのときよりも、たくさんの量だったんでしょうね。密度や濃度が濃かった。といっても良いでしょうし」
「だから、フダンと違って、目に見えていた。と」
「そのとおりですね。ソレで、雲みたいなカタマリを、祠のほうにうごかしたあと、そのさらに上に、異形のカタチをしたモノがあったじゃないですか。
アレはまさに、俗にいう、ユウレイ、妖怪、モノノケ、怪異、アヤカシとよばれるモノですね。
祠がアヤカシを吸いこむチカラによって、あつめられたようなんですけど、ヤツラからしたら、そのばしょには、徳康さんが呼びよせて、あつめてしまった不運や不幸というものが、たくさんそんざいしていた。
コレって、いわゆる目に見えない、負のエネルギーといえるモノなんですが、ああいう超常のモノっていうのは、負のエネルギーを食ったりもするんです。だから、さっきの公園で、徳康さんのほうに向かってきたんです」
「いちおう聞きますけど、さっきの公園の上にいた、異形のカタチをしたモノは、ニンゲンにたいして危害をくわえるような、キケンなそんざいだったんですか?」
「そのとおりです。ばあいによっては、イノチにかかわるようなキケンがあります。
だから、今までずっと、徳康さんは、ああいうよくないモノを、たくさんソトからあつめてたんですよ。
ホントウだったら、チョット言いにくいんですけど、とっくに死んでいても、オカシクはナイんです。
あるいは、イノチはあっても、深刻な病気や、大事故や大ケガだとか、じんせいがハメツするような、おおきなキケン、もんだい、トラブル、モメごとに、巻きこまれてるハズなんです。
あるいは、あつめた不運や不幸を食らいにやってきた、つまり、近づいて寄ってきた、超常のモノであるアヤカシによって、危害をくわえられていたハズなんです。
でも見たところ、いちおう健康そうに見えますしね。ソレと、じんせいが、ハメツしてるようにも見えない」
「たしかに、いちおう健康ですねえ。でも今のじぶんは、カラダを壊しかけて、シゴトをヤメてしまって無職なんですよ。
だから、不運や不幸に襲われてる。っていうのは、あたってるとおもいます」
「ソレはたしかに、不運や不幸といえるんですが、でも、ワタシが今いってるのは、もっとおおきな不運や不幸のコトなんですよ。
救いようがないというか、取りかえしがつかないほど、ヒドイないようやイミでのね。
ソレこそ、借金まみれになって、自己破産するだとか。あるいは、深刻な犯罪に巻きこまれたりして、ケイサツにつかまるとか」
「たしかに、自己破産まではいってナイですね。ソレに、ケイサツに捕まったコトもナイです」
「ワタシが見たところ、そのていどの不運や不幸で済んでるっていうのは、ほとんどキセキというか、アリエナイんですよ。
つまり、ソレほどまでに、徳康さんの持っている、『ソトから、負のエネルギーを呼びあつめるチカラ』っていうのは、強力なモノなんです。
にもかかわらず、健康な状態というものを、チャント維持してるし、自己破産だとか、ケイサツにタイホされるような事態にもなってない。
まあいちおう、不運や不幸な状態にはなっているようですが、じんせいがハメツ、破たんするほどではない。
じゃあ、『ナゼそのていどで済んでいるのか』っていうギモンが、湧いてくるワケなんですよ。
よりぐたいてきにいえば、寄せあつめられた、マイナスの負のエネルギーは、一体、どこに消えているのかと。
ほんらいだったら、あつまるほど、その量が増えて、蓄積していくんですよ。
でも見たところ、徳康さんは、たしかに、負のエネルギーというものを、ほかのニンゲンよりも、たくさん持ってそうなんです。でも、一定以上の量には達していない」
「ソウなんですか?じぶんでは、まったくわからんのですが」
「目に見えるモノじゃない以上、実感がナイのはアタリマエだし、しかたないですよ。
コレでもワタシは、こういうチカラを、ずっとまえから使っていますし、コントロールする訓練もうけているので。
ソレで、その訓練された、ワタシの見立てとしては、おそらく、あつめられたマイナスの負のエネルギーは、どうやら、徳康さんが無いしきのうちに、ショリしてるんじゃないか。とかんがえてます」
「ショリですか」
「そう、ショリです。いいかたを変えれば、消化してしまった。ともいえそうです」
「消化ですか。でもソレって、オレがそれらを、食ってるっていうコトですか?」
「ソウいっても良いかもしれませんね。でも食べてるとはいっても、ほんにんからしたら、『ナニカを食べた』っていう実感は、ナイでしょうけど。
いずれにせよ、ホントウだったら、溜まりにたまった負のエネルギーによって、徳康さんは、マトモに生きてはいられないハズなんですよ」
「ショリや、消化ですか」
大空のハナシを聞いたところで、徳康としては、イマイチ実感が湧かないし、ピンとこなかった。
だがしかし、先ほどから、あきらかに、フツウではない「ナニカ」を見せられた以上、カンゼンに無視するコトもデキない。
「ん、チョット待ってください。もしもワタシがホントウに、マイナスの負のエネルギーを、じぶんでショリして消化してるんだったら、コレって、さっきの祠と似たようなコトを、無いしきのうちに、じぶんでしてるっていうコトですか?」
「おお、そのとおりですよ。コチラが言おうとしていたコトを、先に気づいてくれましたね。ソウなんですよ。徳康さんは、あの祠と、似たようなコトをしているんです。
コレは、いいかたを変えれば、『似たようなチカラを持っている』というコトですね。われわれは、こういうチカラのことを、『超常のチカラ』と呼んでますがね。
コレは俗にいう、霊能力とか超能力みたいなモノと、かんがえてもらっていいです」
「というコトは、大空さんは、霊能力者や超能力者っていうコトですか?」
「まあソウともいえます。われわれのつかってる表現というか、いいかたをすれば、超常者というコトになります。
コレは、『超常のチカラを持っている者』というコトです。つまり、超常現象をおこすチカラを持っている者。というコトで、超常者といっています」
「超常者ですか。ん、というコトは、もしかしてワタシにも、そういう超常のチカラがある。っていうコトになるんですか?」
「ソコに気がつきましたか。そのとおりですよ。アナタも、ワタシたちとおなじ、超常者なんですよ。
ただ、無いしきのうちに、そのチカラを使ってるし、うまくコントロールするコトがデキていないので、あくまでも、『超常者のこうほ者』っていう立ち位置になりますが」
「超常者のこうほ者ですか」
「そう、こうほ者です。でも、いくら無いしきとはいえ、コレだけのチカラを持ったニンゲンは、ソウはいないとおもいます。
ちなみに、さっき公園で、金縛りに遭ったときに、じぶんのカラダの上にあったモノを、祠のほうに向かって、うごかすコトがデキましたよね。
アレって、ほんらいだったら、訓練していないニンゲンが、つまり、こうほ者だったら、まずムリな芸当なんですよ。
訓練していないのに、アレを初っ端からデキたっていうコトは、今まで相当、無いしきのうちに、この超常のチカラを使っていたハズなんですよ」
「無いしきのうちに、ですか」
「そう、無いしきのうちに」
「ソレはおそらく、さっき大空さんがいっていた、寄せあつめたマイナスの負のエネルギーを、じぶんのなかでショリして、消化していた。っていうコトなんですか?」
「りかいがはやくて、ホントウにたすかりますよ。ソウなんです。寄せあつめたマイナスの負のエネルギーを、ショリして消化する。なんていうのは、なかなかデキるコトじゃないんです。
超常のチカラというものを、うまくつかいこなせるニンゲンでなければ、おそらくソレは、むずかしい。
ソレなのに、こういうコトを、無いしきのうちにおこなっていた。というコトは、ソレはすなわち、無いしきのうちに、超常のチカラをつかい、コントロールするコトを、おこなっていた。というカタチになります。
そのための訓練を、あるていど、おこなっていた。というコトになりますね。ソレこそ、無いしきのうちに」
「訓練ですか。どうにもピンとこないんですが。ソレにしても、さっき大空さん、『われわれ』っていう表現をつかってましたけど。
というコトは、ヤッパリ、その超常者っていうヒトたちは、ほかにもいるんですよね?」
「ええ、いますよ。まあ、けっして大人数ではないですよ。そもそもの前提として、ユウレイ、妖怪、怪異、モノノケ、アヤカシとかが見えるニンゲンなんて、滅多にいないですし。
もしいたとしても、ソレはあくまで、『そのスガタやカタチが見える』というだけであって、それらをつかいこなしたり、あるいは、それらが持ってるのと、似たチカラをつかえるニンゲン。なんていうのは、さらに数がすくないので。
あくまでもわれわれは、しゃかい・世のなかの少数派なんですよ。マイノリティです」
「ナルホド、だから今まで、そういうニンゲンと会ったり、かかわるコトがなかったと」
「ソウなります」
「じゃあ、ナンでこんかい、ワタシは、大空さんとかかわったのか。っていうのが、チョット気になるんですよ」
「というと?」
「だって、さっきの公園で、いつの間にか、ワタシのトナリに座っていましたよね。しかも、近づいてくるのが、まったく気づかなかった。
つまり、ワタシには、まったく見えていなかったんです。コレって、まさに、『超常のチカラをつかった』っていうコトで、合っていますよね?」
「ソウなりますね。ほかのニンゲンには、つまり、超常のチカラを持っていない、フツウのニンゲンには、見えないようにする。そういうチカラをつかっていましたので」
「じゃあ、あくまでもワタシからは、大空さんのスガタは見えず、そのそんざいにたいして、まったく気がつかなかったハズです。
でも、大空さんがスガタを現したから、ワタシは、そんざいに気がついた。フツウのニンゲンから、見られるコトを警戒するからこそ、スガタを隠してたんですよね?
ソレなのに、ナンでまたワタシのまえに、スガタを現したんですか?」
「ナルホド、たしかにソレは、徳康さんのたちばからしたら、気になるコトかもしれませんか。
まあズバリいうと、あのまま放っておいたら、カナリのキケンな状態だったからなんです」
「金縛りに遭って、身うごきが、まったく取れなかったからですか?」
「ソレもありますが、あのまま放っておけば、金縛りていどじゃあ、済みそうにない感じでしたよ」
「ソレは、どのていどのキケンだったんです」
徳康に聞かれ、大空は真顔になり答えた。
「ハッキリいってしまえば、たぶん死んでいましたよ
「死んでいたって、ソレはまた、極端ないいかたですけど」
「いえ、コレはけっして、大げさにいっているワケじゃなくて、ありのままのワタシの感想です」
「ちなみに、どういうカタチで死んでたんですか?」
「いいにくいんですけど、アタマの上にあった、雲みたいなモノが消えたとき、その上に、異形のカタチをしたモノがあったじゃないですか。アレに食いコロサレていたダロウと、ワタシはかんがえてます」
「食いコロサレていたって。ソレはまた、物騒なハナシに聞こえるんですけど」
「ええ、カナリ物騒ですよ。大体ああいうモノっていうのは、ニンゲンにたいして、危害をくわえるケースがおおいんですよ。
そもそも、ユウレイ、妖怪、モノノケ、アヤカシ、呪い、タタリとかがでてくるハナシっていうのは、むかしから、ニンゲンにたいして、危害をくわえるようなハナシ・ないようが、おおくないですか?」
「ソレはまあ、たしかに」
「つまり、ああいうモノのそんざいが、むかしから、なんとなくですが、かんじられていたんでしょうね。だからこそ、そういうハナシが、今ものこってるんだとおもいます。
そして、ほとんどのハナシのないようが、『それらとかかわって、ナニカのキケン・もんだい・トラブル・モメごとに巻きこまれたり、危害をくわえられたりして、ワルイないようのコト、ヒドイ目に遭っている』というケースがおおい。
コレはつまり、ああいうモノは、キホン的には、『ニンゲンにたいして、たくさんの危害をくわえる、キケンなそんざい』と見ていいでしょうね」
「ソレで、そのキケンなそんざいが、さっきの公園で、ワタシの上に、いつの間にか、そんざいしていたと」
「ソウです。ソレもたくさん。だから、コレはマズイとかんがえて、ワタシはスガタを現したんですよ。
ソレで、ためしに徳康さんに、アタマの上にあった不運や不幸のカタマリを、祠に向かってうごかすようにつたえたら、ホントウにデキてしまった。コレにはおどろきました」
「ソウなんですか」
「ナンせ、フツウだったら、訓練していないニンゲンには、まずデキないハズなので。
でも、コレがスムーズにデキたっていうコトは、ヤッパリ、今まで無いしきのうちに、その訓練をやっていたんでしょうね。
だからこそ、あの祠にお参りをしたときに、『悪縁を捨てる』っていう発想に、行きついたんだとおもいますよ」
「あ、そういえば、お参りしたときに、『正解』って声が聞こえたんですが、アレは、大空さんだったんですか?」
「あ、ヤッパリ聞こえてましたか?スガタを隠すチカラをつかっていたから、キホン的には、聞こえないハズなんですが。
でもあのときは、ニンゲンと祠とはいえ、見えないモノを呼びよせて、あつめるそんざいが、ふたつも近いキョリにいたせいか、ワタシが使っていたチカラも、祠と徳康さんに吸いよせられて、弱まってたんでしょうね。だから、声が聞こえたんだとおもいます」




