抗体や免疫
トビラの先には、長い道がつづいていた。徳康は、大空につれられて、その道を歩いているのだが、しょうじきなところ、キョリ感というものが、まったくつかめない。
(ナンだこの道は、長いようにおもえるし、みじかいキョリにもおもえる。しかも、ソレだけじゃない。歩いてる時間も、よくわからん。1分にも満たないようにかんじるし、1時間以上は歩いているような気もする)
道のキョリ感や、時間の把握がつかめないせいか、どうにも落ちつかなかった。
そのせいか、ついキョロキョロと、まわりを見わたしてしまう。だがしかし、まわりは暗闇なのである。つまり、ナニも見えない。
正確にいえば、道のぶぶんだけは、じつにハッキリと、よく見えているのだが、道の左右や上のぶぶんが、サッパリ見えないのだ。
まるで、まっ暗闇の地面の上に、道だけがそんざいし、ソコをあるいているような感覚であった。
「見たところ、チョットおちつかないようですけど。ダイジョウブですか?」
「おちつかないというか、この道って、一体どういう構造になっているんですか?
ソレに、さっきからキョリ感だとか、歩いてる時間とかが、イマイチつかめないんですが」
「おお、ソレは良いところに気がつきましたね。ソウなんですよ。ココは、空間や時間の感覚というものが、ズレるようになってます。だから、正確なキョリや時間とかを、はあくするコトがデキないんです」
「どうやって、そんなコトがデキるのか。っていう気もしますが。ソレにしても、一体なんのために、そんなコトをしてるんですか?」
「あんぜんのためです」
「あんぜんのため?」
「ええ、ココに侵入してきたヤツが、こんらんするようになっています」
「侵入って、ココにはいりこむニンゲンがいるんですか?」
「いますねえ。物騒な世のなかなので。というか、ニンゲンにかぎらずですがね」
「ニンゲンにかぎらずって。動物がはいりこむんですか?」
「動物じゃないですよ。さっき見たようなヤツです」
「さっきのヤツですか」
「そうです。さっき、アタマの上から近づいてきた、異形の物体と似たようなヤツが、もしもココに入ってきたとしても、正確な道が、わからないようになっています」
(ずいぶん用心ぶかいというか、警戒心がつよいというか。もしかしてオレは、ナニカしらキケンなコトに、巻きこまれてしまったんダロウか?)
不安なキモチというものを、ヒシヒシとかんじながらも、今さらあとには引きかえせそうにない。ナゼならば、ふたりがあるいたあと、その道は、きえているのだから。
つまり、きた道を引きかえそうとしても、その道自体がナイのである。そのために、どの方角に向かえばよいのか、サッパリわからない。
(さっきから、オレは一体、ナニをたいけんしてるんだか。超常現象とでもいえばいいのか)
不安になりながらも、アレコレとかんがえていたら、とつぜん大空が、歩くのを止めた。
「お待たせしました。もくてき地に着きましたよ」
大空のまえには、道がなかった。つまり、道が途切れていた。そして、その途切れたところに手をのばすと、またトビラが現れた。
(さっきから、一体ナンなんだコレは。どういう仕掛けになってるのか。手品なんダロウか。
だとしたら、リクツのわかるトリックがあるハズだけど。さっきからのコトを見てると、どうも手品だとか、トリックとかで、どうこうデキるとはおもえん)
大空は、現れたトビラを開けて、その先に入っていった。そして、徳康もまた、そのなかに入っていった。
(スゴイ。コレは一体、どういう仕組みなんだ?)
トビラの先には、空間がひろがっていた。そして、その空間の先には、一軒のタテモノが立っていた。
(見たところ。洋館っぽく見えるが、すこし和風でもある。明治時代につくられた、和洋折衷のタテモノみたいだ)
「どうぞどうぞ、コッチですよ」
タテモノのまえには、庭があり、その庭には、イスと机が置かれていた。大空は、イスのひとつに座ると、徳康にも、座るようにうながした。
「じゃあ、ワタシも座らせてもらいます」
大空と徳康がイスに座ると、タテモノのなかから女性がでてきて、近づいてきた。
「ごくろうさん、コチラは徳康さん。さっき知りあったばかりでね。せっかくだから、ナニカ飲みものをだしてほしいんだけど。
オレはコーヒーをたのむよ。徳康さんも、どうぞ、ナニカたのんでください」
「じゃあ、おコトバにあまえます。ワタシもおなじく、コーヒーをおねがいします」
「かしこまりました。おふたりとも、ミルクと砂糖はつけますか」
ふたりはうなずいた。するとその女性は、タテモノのなかに入っていった。
「いちおう聞いときますけど、今のヒトは、ニンゲンなんですよね?」
「ええ、ニンゲンですよ。というか、今の聞きかただと、ニンゲン以外のモノが、そんざいしている前提の聞きかたになるんですけど」
「そりゃまあ、フツウだったこんなコトを、イチイチ聞くコトはナイですって。
でもさっきから、アリエナイようなコトを見て、アリエナイような体験をした以上、ニンゲン以外のモノがそんざいしてると、イヤでもみとめざるをえない。というか、にんしきするしかない。というか」
「まあたしかに、ソウなりますよね」
「ソレで、ココまできたら、まどろっこしいコトはナシで、単刀直入に聞きますけど、さっきの公園で、ワタシのアタマの上にあった、異形のカタチをしたモノって、一体ナンなんですか?ユウレイとか、妖怪のたぐいのモノですか?」
「まあ、ソウおもいますよね。というか、そのとおりなんです。アレはまさに、セケンでいう、ユウレイや妖怪っていうヤツですね。
ちがう表現・いいかたをするなら、モノノケや怪異、呪いや祟りといってもいいでしょうけど。
ちなみに、われわれはアレを、超常のモノだとか、アヤカシと呼んでいますよ。
ナンせ、超常現象としかいいようのないモノなのでね。でもまあ、いいかたは、ナンでも良いんですよ」
「超常のモノや、アヤカシですか」
「ちなみに、もう一度かくにんしたいんですけど。徳康さんて、今まで一度も、ああいう超常のモノを、つまりアヤカシを、まったく見たコトがナイんですよね?」
「ええ、一度もナイです。しょうじきなところ、霊感とかそういうモノは、まったくナイとおもっています」
「ナルホド」
こういうと、大空はすこしだまり、ジッと徳康のほうを見た。
(ナンだ、とつぜんだまって、コッチを見だしたけど、どうしたんだ?)
「いやあ、おどろきですよ。徳康さん。ヘンないいかたをしますけど、今までいきてこれたのが、キセキといってもいいかもしれません」
「え?」
予想外のコトバにたいして、徳康は、とまどってしまった。
「イヤあの、いってるイミが、サッパリわからんのですが」
「コレはもう、そのままのイミです。ハッキリいいますと、徳康さんほど、たくさんの不運や不幸っていうものを、搔きあつめるニンゲンだったら、ソレによって引きおこされる、たくさんのキケン・もんだい・トラブル・モメごとや、こんなん・障害とかのせいで、どこかで死んでたとしても、まったくオカシクないです。ぐたいてきにいえば、病気・事故・ケガとかでね。
ちなみに、今まで生きてきて、イノチにかかわるような、おおきな事故・病気・ケガとかって、けいけんしたコトはありますか?」
「イヤ、まったくナイですが」
「ですよね、パッと見たところ、きわめて健康そうに見えますし。でも、さっきの公園のベンチにいたときに、金縛りに遭って、身うごきが、取れなくなりましたよね。
つまり、カラダがうごかなくなるほど、たくさんの不運や不幸が、あつまってきていたんですよ。しかもそれらは、徳康さん自身にたいして、あつまっていました。
今までも、たくさんの不運や不幸が、あつまってきたハズなんです。ソレなのに、イノチにかかわるような、深刻でおおきな事故・病気・ケガをしていない。コレってカナリ、特殊なケースといえますね」
「ソウはいっても、今まで生きてきて、さっきみたいな金縛りに遭ったコトなんで、一度もナイんですが。
もしも、今いったコトがただしいんだったら、ワタシは、『今までも、たくさんの不運や不幸を、搔きあつめてた』っていうカタチになりますよね。身うごきが取れないほど。
だったら今までも、さっきみたいな金縛りに遭ったとしても、いいとおもうんですけど」
「ソコなんですよ。あれだけたくさんの不運や不幸を、搔きあつめてくる性質というか、体質を持ってるのに、金縛りにすら遭っていない。コレは、スゴイし、めずらしいコトなんです。
チョット大げさないいかたをすれば、不運や不幸にたいして、つよい抗体というか、免疫を持っているといえますね」
「不運や不幸にたいする、抗体や免疫ですか。しょうじきなところ、イマイチ実感がないというか、ピンとこないんですが」
「ソレはまあ、しかたないでしょうね。だって、今までは、あのたくさんの不運や不幸のカタマリを、目にするコトがなかったんですから。
ニンゲンはダレだって、目に見えないモノについて、実感を持つコトはデキませんよ」
「じゃあ、今まではまったく見えてなかったのに、ナンでさっきは、あんなにハッキリ見えたんですか?
しかも、今までは、金縛りに遭うコトもなかったのに、ナンでとつぜん、さっきは金縛りに遭ったのか。ココのところが、サッパリわからんのですけど」
「ソレはもう、ズバリいってしまえば、ばしょのせいですね」




