トビラ
今度は金縛りではなくて、たんじゅんに、おどろいて、身うごきが取れなくなったのだ。
ナゼならば、オトコが座っているベンチに、つまり、オトコのすぐトナリに、見しらぬニンゲンが、いつの間にか、座っていたのだから。
(ナンだ、ダレなんだコイツは。というか、いつの間に、オレのトナリに座った?
ニンゲンが、ココまで近づいてきたのに、まったく気づかないっていうのはオカシイ。
そもそも、この公園には、オレ以外、さっきからずっと、ダレもいなかったハズだ。ダレかやってきたら、さすがに、すぐ気づく。
まして、じぶんのトナリに座ったんなら、座るまで、そのそんざいに、気がつかないワケがない)
軽いパニックになるのを、抑えられそうにない。
「あ、どうも、はじめまして。とつぜんですが、カラダはダイジョウブですか?うごけるようになりました?」
トナリに座ったオトコが、話しかけてきた。
「いえまあ、ハイ。あの、しつれいですが。どちらサマでしょうか?たぶん、初対面の方だとおもうんですが」
「ええ、そのハズですよ。まあそのコトはさておき、とりあえず今は、カラダが自由にうごくとおもうんですが、どうでしょう。さっきまでは、まったくうごかなかったんじゃないですか?」
「ええ、まあ」
オトコは、とつぜん話しかけてきたニンゲンにたいして、どうしても、すこし警戒してしまった。
(ソレにしても、一体ナゼこのオトコは、オレが、さっきまで金縛りにあって、カラダをうごかせなくて、今はうごかせると知っているんだ?)
「どうも、ワタシのコトを警戒してるようですが。まあ、ソレはしかたないですよね。とうぜんの反応だとおもいます。
見ず知らずのニンゲンから、とつぜん話しかけられて、しかも、『カラダがうごけるようになったのか』と、ワケのわからないコトを聞かれたんですから。
でもまあ、そういうコトは、一旦置いといて、とりあえず、上のほうをなんとかすベキですね」
そういうと、その話しかけてきたニンゲンは、空のほうを指さした。そのようにいわれて、オトコはつられて、何気なく上を見た。
「え、なんだコレ?」
オトコの上のほうには、なにやら雲のようなモノが、渦を巻いていた。雲といっても、空のはるか上のほうではない。オトコの数メートルくらい上である。
アタリマエのコトだが、このていどの位置に、とつぜん雲がデキるハズがない。しかも、渦を巻いて。
「あ~、そのリアクションからすると、どうやらアレが、見えてるみたいですね。ちなみに、どういうモノが見えてるのか、おしえてくれませんか?」
「イヤ、なんていえばいいのか。こんなモノは、今まで生きてきて、一度も見たコトがナイんですが。
ワタシのアタマのすこし上に、たぶん、数メートルくらい上に、雲みたいなモノがあって、しかも、渦を巻いてるんです」
「ソウですか、そのいいかたからすると、どうやら、ハッキリ見えちゃってるみたいですね。
今まで生きてきて、一度も見たコトがない。っていいましたけど。アレを見て、どんな感じというか、印象をいだきます?」
「たぶん、プラスのモノではナイかと。おそらく、マイナスのモノじゃないかと感じます。
なんていえばいいのか。不運や不幸とかを、呼びよせかねないモノ。とでもいえばいいのか」
コレを聞くと、そのニンゲンは、オトコのコトをジッと見たあとに、ハナシをはじめた。
「おどろきました。ソレは大正解です。アレは、アナタにたいして、たくさんのマイナスのコトを、つまり、負を呼びよせるんです。悪縁、不運、不幸っていうモノを、ソトから、搔きあつめてくるんです。
ちなみに、コレはおそらく、ずっとアナタにあったモノなんですが。チョット初対面のかたに、聞きにくいコトなんですが、『今まで生きてきて、とつぜん、ナニカのキケン・もんだい・トラブル・モメごとに襲われたり、あるいは、キケン・もんだいのあるニンゲンと会ったり、かかわったりして、ヒドイ目に遭わされた』とか。
ほかにも、『とつぜんナニカ、モノが壊れたりして、たくさんの出費がひつようになる』とか、そういうイヤなコトに、たくさん遭ったりしてませんか?」
そのようにいわれて、オトコは、ギクリとしてしまった。ナゼならば、今まで生きてきて、ほかのニンゲンよりも、おそらく、そういう目に遭ってしまうケースが、たくさんあったのだから。
最初のころは、「たんなる気のせいだ」とおもったのである。よく、「トナリのシバフは青い」といわれるように、たにんの不運や不幸、マイナスのワルイないようのコトは、なかなか目にはいらない。そのために、めぐまれた状態に見えるのだから。
だがしかし、ほかのニンゲンが、滅多にたいけんしないような、キケン・もんだい・トラブルというものを、何度もたいけんするにつれて、ダンダンと、「どうもオレは、ほかのニンゲンよりも、不運や不幸な目に遭いやすのかもしれない」と、おもうようになったのだ。
たとえば、今げんざい、オトコはカラダをこわして、シゴトをヤメざるをえなくなった。
そのりゆう・げんいんは、キケン・もんだい・トラブル・モメごとのおおいシゴトを、担当するコトになり、かつ、シゴト量もおおかったために、カラダをこわしてしまったからである。
しかも、そのシゴトは、もともと、カレの前任者が、キケン・もんだい・トラブル・モメごとをつくりだし、しかも、放置していたのである。そのために、そういう状態になってしまったのだ。
つまり、カレ自身が、『じぶんでナニカ、ミス・しっぱいをして、キケン・もんだい・トラブル・モメごとを、引きをおこした』というワケではなかった。いわば、たにんのミス・しっぱいの尻ぬぐいをさせられたのである。
そのくせ、上司からは、「はやくカイケツしろ」と、つよいプレッシャーをかけられてしまい、カイケツするコトがデキなかったときは、そのせきにんを、押しつけられたのである。
こういう状態というものが、しばらくつづいてしまったために、オトコは、カラダもココロも衰弱し、心身ともに限界がきて、体調をくずして、退職せざるをえなくなったのだ。
「ワタシも、初対面の方にたいして、ヘンなコトをいうようですが、アナタのおっしゃるとおりなんです。
どうも、ほかのニンゲンが、滅多にたいけんしないような、ワルイないようのコト、マイナスのデキゴトやジケンを、コドモのころから、イヤというほど遭遇したり、たいけんしてきました」
「ナルホド。だったらもう、ズバリ言っちゃいますけど、そのりゆう・げんいんが、まさに、アレなんですよ」
「はあ?」
「ヘンなコトをいってるのは、重々承知してますが、コレがしんじつであり、真相なんです。
あの雲みたいな、渦を巻いたカタマリは、アナタにあつまってきた、不運であり、不幸なんです。
つまり、アレが一定以上の量・キボになると、つぎつぎに、アナタにたいして、キケン・もんだい・トラブル・モメごとや、あるいは、こんなん・障害だとかが、降りかかるようになります。
フツウだったら、こういうコトをいわれても、信じるコトはないとおもいます。
でも、アレがハッキリと見えるっていうコトは、今ワタシがいったコトを、信じる気になれませんか?」
「ええ、今なら信じますよ。でないと、アレのそんざいについて、りかいがデキませんし、なっとくするコトもデキそうにありません」
「ナルホド、りかいや飲みこみがはやくてたすかります。ソレで、アレを、あのままのカタチで放っておくと、ドンドンおおきくなって、不運や不幸が、ドンドン溜まりつづけます。
となると、アナタにたいして、つぎつぎに、たくさんのキケン・もんだい・トラブル・モメごと、こんなん・障害とかが、襲いかかってきます。
ですので、ワタシとしても、放っておくのは忍びないし、良心が痛むので、ナントカしたいともうんですが。どうでしょうか?」
「ソウですか。ワタシもフダンだったら、今アナタがおっしゃったコトを、おそらく、真に受けるコトはナイし、信用しないかとおもいます。
でも今は、アレのそんざいが、とても気になります。ソレも、とてもワルイというか、イヤなイミで。
しょうじきなところ、アレを見ているだけで、カナリ不吉なモノであると、ヒシヒシと感じてくるんですよ。イヤな感覚というか、第6感とでもいえばいいのか。
とにかく、アレをナントカしないと、ヤバイっていうコトだけは、肌でかんじます。
だから、ナントカしてもらえるんだったら、ナントカしてほしいんですが。ただ」
「ただ?」
「じつは、ワタシは今、シゴトをヤメタばかりなんです。しかも、貯金も底をついていて、おカネがナイんです。
だから、『アレをナントカする代わりに、カネをよこせ』といわれても、しょうじきなところ、はらうコトがデキません」
「ああ、そういうコトですか。ソコはダイジョウブですよ。おカネは取りませんから。
ただ、見返りといってはナンですが、おカネ以外のコトで、協力してもらえたらなと」
「おカネ以外のコトですか?」
そのようにいわれ、オトコは、怪訝なカオつきをした。あいてのいっているコトを、アヤシイと感じたのだ。
おカネを取らないといわれて、しょうじきなところ、チョットあんしんしたというか、ホッとしたのであった。
だがしかし、無償ではナイらしい。しかも、おカネ以外のコトとなると、ぎゃくに、不安をかんじてしまうのだ。
(タダよりたかいモノはナイ。というが)
「ダイジョウブですよ。ナニカ過大な要求をするようなコトはありません。アナタにやってほしいというか、協力してもらいたいコトがありまして。
ちなみに、もしもアヤシイとかんじたり、イヤだとおもえば、途中でヤメてもらってかまいませんよ。
あくまでもコレは、ご自身で、チャントなっとくするコトがデキたら、やってほしいというか、協力をしてほしいだけです。
しかも、うまくいけば、むしろ、コチラがアナタにたいして、おカネをはらうコトがデキるかもしれません。まあコレについては、保証はデキかねますが」
「はあ、ソウですか」
あいてのいっているコトは、あいかわらず、アヤシイと感じざるをえない。だがしかし、そうこうしているあいだに、アタマの上にある、雲の渦巻きのようなモノは、ドンドンおおきくなり、量が増えている。
くわしいコトはわからなかったが、たんじゅんにかんがえて、「アレがおおきくなり、量が増えるほど、キケンな状態になる」というコトだけは、ヒシヒシとかんじていた。
(このヒトのいってるコトは、かなりアヤシイとおもう。でも今は、この雲らしきモノを放置するのは、もっとヤバイ気がする。
オレがなっとくしなければ、すぐヤメれるんだったら、あいてのいってるコトに、乗ってみてもいいか。イザとなったら、ケツをまくってにげてやる)
「わかりました。くわしいハナシを聞かせてください。でもそのまえに、あの雲らしきモノを、ホントウに、ナントカするコトがデキるんですか?」
「ええ、カンタンですよ。さっきアナタが、ご自身でやってたじゃないですか?」
「え?」
「いや、さっき金縛りに遭っていたじゃないですか。そのときに念じて、あの祠にたいして、あの雲みたいなモノを、うごかしたときのコトですよ」
「え、さっきもあの雲みたいなモノが、ワタシのアタマの上にあったんですか?」
「ソウですよ。ああそうか、そのときは、アレがまったく見えてなかったんですね。
ソレなのに、さっきは、アレを祠にたいして向かわせるべきだと、良くわかりましたね」
「いや、カンゼンになんとなくです」
「でも、その『なんとなく』がわかっただけでも、十分すぎるほど、スゴイんですがね。
とにかく、さっきやったみたいに、あの上の雲みたいなモノにたいして、祠に向かっていくように、つよく念じてみてください」
そのようにいわれ、先ほとどおなじように、つよく念じてみた。すると、アタマの上にあった、雲のようなカタマリは、スーッとうごきだし、祠のほうに向かいだした。そして、祠に近づくと、とつぜん消えてしまった。
「コレは一体、どういうコトなんですか?」
「はじめてやったにしては、カナリうまくデキたとおもいます。コレでとりあえず、しばらくのあいだ、アナタにたいして、不運とか不幸は、近づいてこないでしょうね」
「しばらくのあいだ。ですか。というコトは、また時間が経てば、あの雲のようなカタマリが、ワタシの上にデキるんですか?」
「ざんねんながら、ソウなります」
「じゃあ、一時しのぎにはなったけど、また不運や不幸に襲われるのを、ガマンしなければならないんでしょうか?」
「ソレについては、あとでユックリと話しますよ。そのまえに」
そういうと、そのニンゲンは、上のほうを見た。つられて、オトコも上のほうを見た。すると、ソコには、異形の物体がそんざいしていた。
(ナンだアレは。鳥か?いや、あんなカタチの鳥がいるワケない。というか、あんなカタチのイキモノが、この世にいるとはおもえん)
先ほどまでは、アタマの上にあった、雲のようなカタマリに隠れて、まったく見えていなかったのだが、その雲のようなカタマリが消えたら、その上に、さらに異形の物体がいたのだ。しかもソレは、ナニやらコチラのほうに、近づいきている。
(オイオイ、なんなんだよさっきから)
オトコは、おもわず逃げだそうとしたのだが、カラダがうごかなくなったのである。
(ナンだ?また金縛りにか?)
「あー、あんしんしてください。カラダがうごかないのは、ワタシがやったコトです。さっきのあの雲のようなモノのせいで、金縛りに遭ったのとは違いますから。
そういえば、おナマエを聞いてなかったとおもうんですが、聞いていいですか。ヤッパリ、ナマエを知らないと、呼びにくいですし」
(こんなときに、このヒトは、ナニをいってるんだ)
オトコは、目のまえのニンゲンの悠長さに、あきれるようなおもいを持ったのだが、カラダがうごかず、しかもソレを、目のまえのニンゲンがおこなっている。という以上、どうしようもない。素直に答えておこうとおもった。
「ワタシのナマエですか。徳康といいます。徳康イキチです」
「徳康さんですか。了解しました。ちなみに、ワタシのナマエは大空といいます。フルネームは大空益海です」
(こんな異常事態に、ナマエを聞くなんて、ナニをやってんだこのヒトは)
「ところで大空さん、あの奇妙な物体ですが、どう見ても、ワルイ印象しかないんですが。アレがこのまま、コッチに近づいてきたら、マズイんじゃないですか?」
「良くわかりましたね。そりゃあもう、とんでもなくマズイですよ。ヤバイといっていいです。ソレも、メチャクチャに」
「じゃあ、ナンでオレを、うごけなくしてるんですか。っていうか、たにんのカラダをうごけなくするなんで、一体どういうトリックをつかってるんですか。
まあ、ソレはこの際いいとしても、とにかく、ホントウに、ワタシのカラダをうごかなくしてるんだったら、はやくソレを、解除してください。コレじゃあ、にげたくても、にげれないじゃないですか」
「にげたいんですか?」
「モチロンですよ。あんな異常で奇妙なモノが近づいてきたら、ダレだって、にげだしたいですって」
「でも、にげたところでムダですよ。だってアレは、アナタにたいして近づいてきてるんですから。
だから、どこかに逃げたところで、ずっとアナタを追いかけまわしますよ」
「ソウはいっても、とりあえずは、にげたいじゃないですか。じゃあぎゃくに聞きますけど、にげるベキじゃないとしたら、どうすりゃいいんですか!!」
「そりゃまあ、退治するのがベストでしょうね。ヤッパリ、ああいう異常でおかしなモノは、チャント退治しとかないと、後々まで祟りそうですし」
「退治するっていったって、どうすりゃいいんですか。オレはそんなコトデキませんよ」
「今はまだ、ソウでしょうね」
「今はまだ?」
「とりあえず、ココはオレがナントカしますよ。っていうか、今こうしてハナシをしてるあいだに、もうおわったんですけどね?」
「おわった?」
大空に、「もうおわった」といわれ、徳康は空を見てみた。すると、空にうかぶ異常な物体は、ナニやら、苦しそうなかんじであった。
イヤ、苦しいといえば、ナニやらイキモノのような表現になるのだが、あきらかに、フツウのイキモノではナイにもかかわらず、苦しんでいるように見えた。
(苦しんでるのか?というか、苦しむっていうコトは、アレは、生命のあるイキモノなのか?)
そうこうしているうちに、苦しんでいるように見えた異常な物体は、とつじょ、分裂をしだした。
いや、「分裂をした」というよりは、粉々に切りさかれ、コマ切れになったのである。
「はい、おわりましたよ。おつかれサマでした」
大空がこういうと、徳康はとつぜん、カラダの自由を取りもどした。ソレと同時に、予想外のデキゴトにたいして、おどろきやら、きょうふ心やら、戸惑いやらで、カラダにチカラがはいらず、そのまま、ベンチに座りこんでしまった。
「カラダの調子はどうですか?すこしは落ちつきましたか?」
「落ちついたかといわれても、ソウとはいえませんよ。さっきから、一体なにがおきてるのか、サッパリわからないので。
しょうじきなところ、今の状況ってものが、サッパリつかめません。ソレにしても、アナタは一体、ナニモノなんですか?」
「ナニモノか。と聞かれても、どうやって答えたらいいのか、チョット迷いますね。でもまあ、このままココにいるのも良くないし、ばしょを移動しましょうか」
こういうと、大空は、祠に向かって歩きだしたのである。そして、祠に手をのばして触ると、とつぜん、祠のまえに、おおきなトビラがでてきた。
(ナンなんだコレは。さっきまで、ナニもなかったのに。とつぜん目のまえに、トビラが現れた)
大空は、そのトビラに手をかけて開けた。
「どうぞ、なかに入ってください。今おきた一連のデキゴトについて、チャントせつめいしたいので。
でもたぶん、コトバでいくら言ってみたところで、信じるコトはデキないとおもいますし。
ココはヤッパリ、ちょくせつ、じぶんの目で見てもらったほうが、りかいや飲みこみがはやいかと。百聞は一見にしかず。といいますし」
「百聞は一見ですか」
(たしかに、こんなモノを、何回コトバでいわれたところで、信じるワケがない。
もしも信じたとしたら、ソイツは、アタマがオカシイっていうコトになる。でもちょくせつ、こんなモノを見せられたら、信じざるをえないか)
大空にいわれるがまま、徳康は、そのトビラのなかに入っていった。




