誘導
(チョット待てよ。今のオレは、祠に溜まってるチカラを、全開にしてるんだ。フルパワーでやってる。ソレなのに、この恐竜は、フルパワーのオレと、互角以上にやりあってる。
ソレなのに、あのオンナのチカラは尽きてない。コレは、いくらナンでもオカシイんじゃないか。
1300年間も貯めこんだチカラと、ひとりのニンゲンが持ってる超常のチカラが、おなじ分量か、ソレ以上っていうのは、ありえんハズだ)
強力なT・レックスの猛攻をシノギながらも、このようなコトが、ダンダンとオニのなかで、ギモンとしてうかんできた。そして、ココでふと、気になるコトがでてきた。
(ソウいえば、もうひとりのオトコは、今ナニをしてやがるんだ?)
このようにかんがえて、オニは徳康のほうを見た。徳康は、戦闘に参加するコトなく、キョリを取って、オニとT・レックスとのたたかいを見ていた。
だがしかし、「まったくナニもしていない」という感じでもナイ。オニが、いしきを集中して、徳康のほうを見てみると、ナニやら、チカラのながれをかんじた。
「あ、ヤロウ!!」
おもわずオニは、このように叫んでしまった。ソレは、じつは徳康が、T・レックスにたいして、というよりも、T・レックスを生みだした、岩羽にたいして、じぶんが乗っているイヌをつうじて、超常のチカラを流しこんでいたのだから。
じぶんのまわりから、不運や不幸を呼びこむ、負のエネルギーをあつめてしまうのが、徳康が持っているという、とくちょう・性質であった。
だがしかし、コレは使いようによっては、「じぶんのまわりから、超常のチカラを掻きあつめる」というコトでもある。
そして、徳康は、この一カ月のあいだ、訓練によって、この性質・とくちょうに磨きをかけて、じぶんがつかえる超常のチカラ・のうりょくとしたのだ。
岩羽が、オニとたたかっているあいだ、徳康は、じぶんの持っている、この超常のチカラ・のうりょくをつかって、今げんざい、このばしょにおいても、超常のチカラをあつめていたのだ。
いいかたを変えれば、オニが発している超常のチカラを、つまり、祠からでている超常のチカラも、搔きあつめていた。
そして、じぶんが今までに、つまり、過去に搔きあつめた超常のチカラだけでなく、今げんざい、このばしょで掻きあつめた超常のチカラも、岩羽が生みだした、イヌのアヤカシにたいして、ながしこんでいたのである。
そして、このイヌにながしこまれた超常のチカラは、生みの親である、岩羽にたいしても、ながれこんでくる。
ソレはすなわち、今げんざい、目のまえでオニとたたかっている。T・レックスにたいしても、ながれこんでいるのであった。
「そういうカラクリか。オマエがいるから、このオンナのチカラが尽きナイのか!!」
(さっき、あのオンナに向かったとき、急にチカラが抜けて、スピードが落ちたのは、コイツが、オレのチカラを吸いとりやがったのか。オレにした攻撃も、オレのチカラを奪ってヤリやがったか)
「あ、バレたか」
こういうと、徳康は、イヌに命じて、すこしさがらせた。ナゼならば、オニが徳康にたいして、襲いかかろうとしたのダカラ。
だがしかし、その瞬間を、つまり、一瞬の隙というものを、T・レックスが、見のがすハズはなかった。
オニが徳康にたいして、襲いかかろうとした、まさにその瞬間、オニに食らいついた。
T・レックスのキバに、カラダを貫かれて、オニは、苦しみの断末魔ともいえる、悲鳴を上げていた。
(あのオンナが、さっきからオレにたいして、偉そうにイチイチ講釈をたれてきやがったのは、オレのいしきを、じぶんにたいして、集中させるタメだったのか。
オレが、あのオトコにたいして、いしきを向けないようにするタメに、ワザと、オレを怒らせるようなコトをいって、オレが、じぶんダケを見るように仕向けた。
あのオトコが、超常のチカラを流しこんでいるっていうコトを、オレに気づかせないタメに)
「ココまでバレた以上、もうコソコソするひつようはナイか」
こういうと、徳康はポケットからサイフをだして、そのなかから、5円玉を取りだした。
ただしコレは、ただの5円玉ではなかった。この5円玉は、フダンから、彼があつめた分と、そして今げんざい、このオニが発している超常のチカラからあつめた分を、込めてあった。
この5円玉を、徳康は、T・レックスのクチのなかに、投げこんだ。この5円玉を飲みこんだT・レックスは、さらにおおきくなり、そのパワーを増した。
「はやいハナシ、コレはドーピングなんだよね。一匹のオニにたいして、こうして、オレとバネちゃんのふたりで対処・たいおうする。っていうのは、2対1になるから、チョットだけ、良心が痛むといいたいけど。
でも、そもそもアンタは、この本部にとつぜん、呼ばれもしないのにやってきた。
そして、コチラにたいして、一方的に襲いかかってきた。そんなあいてに、イチイチ良心が痛むコトはナイか。
だから、良心が痛まない以上、ドーピングをしたトコロで、コッチとしては、ナンともおもわないんだよなあ。
アンタからしたら、2対1でたたかうハメになり、その上、ドーピングまでしたあいてと、たたかうコトになるんだから、災難というか、ツイてないというトコロだけど。
でもまあ、こうやって、いっぽう的に襲いかかってきて、コッチにたいして危害をくわえてきた以上、『ぎゃくにじぶんが、いっぽう的に、危害をくわえられるかもしれない』っていう覚悟をしているハズだよね。
だからまあ、しかたがナイか。コレこそまさに、『じぶんがおこなったコトや、たにんにたいする振るまいが、めぐりめぐって、ブーメランみたいに、じぶん自身にたいして跳ねかえってくる』っていうケースになるのか。
まさに、因果応報、自業自得っていうヤツだね。だからまあ、アンタとしては、不本意におもうかもしれんが、ナットクしてもらうしかない」
正確にいえば、この徳康のハナシというものを、オニは、シッカリと聞く間がなかった。
ナゼならば、さらにおおきく、つよくなり、そして、さらに狂暴になったT・レックスが、オニにたいして、襲いかかっていたのダカラ。
「そもそも、アナタたちアヤカシは、オニにかぎらず、ニンゲンの感情やキモチとかが、キッカケ・リユウ・原因で、生みだされたハズよね。だから、ニンゲンのコトを、わかったツモリでいるかもしれない。
でも、ソレはチョット短絡的すぎるわ。ニンゲンっていうのは、アナタたちアヤカシとは違って、もっとフクザツなのよ。フクザツな思考やキモチを持っているのよ。
だから、アナタたちアヤカシは、ニンゲンのかんがえているコトや、キモチや感情っていうモノを、チャント理解するコトがデキない。思考や感情のフクザツさが、まったくわかっていナイ。
その結果が、こうして今、『ワタシとトクさんのふたりを、同時にあいてにしてたたかう』っていう、マズイやりかたになっているのよ。
いくらつよいチカラを手にいれて、パワーアップしたとしても、こうして、コチラの仕掛けたワナにハマって、後手後手にまわってしまえば、せっかくのパワーやつよさも、タカラの持ち腐れね」
このように、岩羽がハナシをしているあいだにも、オニは、T・レックスにカラダを食われつづけており、ドンドン弱くなり、衰弱していた。
(たしかに、バネちゃんのいうとおりだ。このオニは、いつの間にか、オレと彼女のふたりと、当時にたたかうカタチになってる。
もしもこのオニに、ニンゲンのような、フクザツな思考やキモチがあれば、おそらく、オレたちふたりと、同時にたたかわないように、もっと気をつけたハズなんダロウ。
2対1のたたかいにせず、1対1のたたかいに持っていき、オレたちを各個撃破するカタチに、ナントカして持っていったハズだ。
でもコイツは、じぶんのチカラを過信して、オレたちふたりと、同時にたたかっても勝てると、カン違いしたっていうコトか)
このように、徳康はおもったのであるが、でもコレも、しかたがナイとおもった。
(そもそも、バネちゃんがこのオニを、うまく誘導して、じぶんのペースに持ちこんで、オニがじゆうに、好き勝手にデキないようにした。
つまり、さいしょから、このオニは、負けるようなカタチに誘導されたといもえるか。ろこつにいうと、コイツは、負けるべくして負ける。っていうワケか)
こうしているあいだにも、オニは強大化し、狂暴化しているT・レックスに、おそわれつづけていた。
そして、ついにオニは、その場にたおれてしまった。どうやら、とうとう限界がきたようである。
T・レックスに、カラダを食われつづけ、たおれたオニは、床をのた打ちまわっていた。苦痛にカオをゆがませながら。
どうやら、T・レックスに、カラダを食われた痛みだけではなくて、カラダの内部からも、痛みが湧きあがっているようであった。
「ずいぶんと、苦しんでるようだけど。今のこの状態は、アナタがじぶんでまねいたものなのよ。
じぶんのおこない・ふるまいで、こういう事態をまねいたワケなんだから、コレはもう、カンゼンに、因果応報で自業自得っていうコトよね」
「ナニをいいやがる」
苦しみながら、オニはいった。
「オレに、ナニをしやがった!!」




