不審な点
ふたりは、ウデにつけていたリストバンドを、ほぼ同時にハズシた。その瞬間、オニの背すじが凍った。全身から、冷や汗やアブラ汗のようなモノが、あふれだしたのだ。
(ナンだ、ナニが起こった?ヤツラがウデから、リストバンドをハズシた瞬間、ヤツラからのプレッシャーが、段違いにつよくなった)
オニは、そのばしょから、まったくうごけなくなってしまった。ソレはまるで、ヘビに睨まれたカエルが、うごけないのと似ていた。あるいは、ネコにねらわれた、ネズミのような気分ともいえた。
(バカな、まえに進めない。かといって、うしろにもさがれない)
「どうかしら、アナタに、妙な気をつかってもらうひつよう性が、まったくないっていうコトを、理解してもらえたかしら?
このリストバンドは、超常のチカラを抑えこむ器具なのよ。つまり、この一カ月のあいだ、ワタシも、ソコにいるトクさんも、この異空間からソトにでて、かつどうをするときは、つねに、このリストバンドをウデにつけて、チカラを制限した状態でいたのよ。
アナタはさっき、この一カ月のあいだ、ワタシたちのコトを観察してたといっていたけど、ワタシたちも、『ナニモノかに、見られている可能性』っていうものを、チャント考慮してたのよ。
ワタシたちを見ているナニモノかが、ワタシたちのチカラを見誤って、過小評価するようにね。つまり、アナタをゆだんさせて、隙をつくるタメに、一芝居を打ってたのよ。おわかりかしら?
アナタの誇っていた知恵っていうのが、いかに浅はかで、オロカしくて、思慮が足りなかったのかっていうコトが」
「ほざけ」
こういうと、オニはチカラを込めて、岩羽にたいして向かっていった。
(ゴチャゴチャとかんがえるのはナシだ。オレはオニだ。ニンゲンみたく、ウジウジとかんがえるのはヤメだ。
コイツらが、予想した以上のつよさっていうのはわかったが、ソレでも、オレが勝てないっていうほどじゃナイ。全力でやれば、ナントカなる)
だがしかし、オニがうごいた瞬間、徳康がうごいた。
(さっきは予想外だったから、うしろのオトコの攻撃に吹っとばされた。だが、チャントいしきしてれば耐えられる)
こうおもい、オニは、岩羽に向かっていったのであるが、ダンダンと、全身からチカラが抜けてきて、スピードが落ちてきた。
(ナンだ?)
オニがこのようにおもった瞬間、岩羽のまえに、ゴリラのアヤカシがいた。
「ざんねん、そのスピードじゃあ、ワタシには届かないわ」
こういうと、ゴリラのアヤカシは、オニをチカラ一杯殴った。うしろに吹きとばされたオニの先には、徳康が立っていた。
「コレに耐えられるかな?」
こういうと、徳康は、じぶんにたいして吹きとんできたオニに、超常のチカラを放った。そしてオニは、また吹きとばされて、ヘヤのカベに、めりこんでしまった。
めりこんだカベから、オニがでてきたのだが、全身ボロボロであり、カナリ弱っていた。
(ナンなんだコイツらは。ウデからリストバンドを取ったときから、一方的に遅れをとって、オレがやられっ放しになってやがる。フザケンナ。
オレは今、祠を取りこんで、つよくなってんだ。こんなニンゲンごときに)
「ナニやら、ゴチャゴチャかんがえてるみたいだけど、ワタシたちとしては、アンタにたいして、コレ以上付きあうツモリも、そんなリユウも、まったくナイのよ。時間をかけず、おわらせるわ」
こういうと、岩羽のまえに、またあらたなアヤカシが、そのスガタを現したのである。
(お~、バネちゃん、コレはまた、とんでもないアヤカシをだしたね)
徳康がこのようにおもうほど、岩羽のまえに現れたアヤカシは、すさまじいモノであった。そのスガタを見た瞬間、オニは、足が振るえてきた。
ソレは、恐竜であった。ソレも、最強の肉食恐竜といわれた、T・レックスである。
しかも、このT・レックスは、アヤカシをとして生みだされたモノである。そのために、実際のT・レックスよりも、はるかに強力であった。
しかもソレは、一匹ダケではなかった。数十匹のT・レックスが、オニに向かって襲いかかった。
「クソが!!」
こう叫ぶと、オニはにげようとしたのだが、足がうごかなかった。というよりも、足だけでなく、全身のチカラが抜けてきた。
「だからさあ、1対1じゃないって。ゆだんしたね。目のまえのコトに囚われて、オレのコトをわすれたかな?
アンタがたった今、T・レックスに目を奪われた隙に、つまり、オレのコトをいしきせず、警戒するのをわすれて、隙がデキたから、アンタのチカラを吸いとらせてもらったよ」
この徳康のコトバと、ほとんど同時であったろうか、数十匹のT・レックスが、オニのいるばしょに着いた。
ココから先は、あわれなものであった。先ほどまでは、ごう慢に、そして、傲岸なたいどを取っていたオニであったのだが、数十匹のT・レックスのアヤカシに襲われて、悲鳴を上げつづけているのダカラ。
食いちぎられた瞬間に、カラダのなかにある祠のチカラをつかって、カラダを再生するのである。
だがしかし、そのつぎの瞬間に、またべつのT・レックスに食いちぎられてしまう。コレが、延々とつづいているのだ。
「さすがに、コレでおわりか?」
徳康が、こうつぶやいた瞬間、岩羽が叫んだ。
「トクさん、キョリを取って。ヤツから離れましょう!」
ふたりがキョリを取った瞬間、オニのカラダがバクハツした。そして、数十匹のT・レックスたちは、皆、粉々に吹きとんでしまった。そのばしょには、オニだけが立っていた。
だがしかし、そのスガタは全身ボロボロであった。フツウのイキモノであれば、とっくに死んでいるほどの重症である。
「シャクだが、オマエらニンゲンのコトを、油断したコトはみとめよう。せっかく祠のチカラを手にいれたんだ。オレのカラダが耐えれるかどうか、心配してるばあいじゃなかったか。
こうなったら、もうカンケーねえ。オレのカラダが壊れようが、知ったこっちゃねえ。
祠のチカラを全開にしてやるぜ。オレのカラダが壊れるのが先か、オマエらがくたばるのが先か、ガマン比べといこうじゃねえか」
オニは今まで、祠のチカラを、あるていど、セーブしながらつかっていた。ナニセ、フルパワーでつかうと、じぶんのカラダが壊れるかもしれないのだから。
だがしかし、怒りが頂点に達したことで、どうやら、吹っきれたようである。もはやカンゼンに、理性が吹きとんでいた。
「たしかに、あの祠のチカラを全開にして、フルパワーにすれば、あのT・レックスたちでさえ、吹きとばされるのはしかたナイわね。
でも、アナタはヤッパリ、思慮が足りてないし、不用心で、慎重さに欠けてるのよ。
そもそもの前提として、あの祠は、1300年ものあいだ、アヤカシたちを吸いこんできた。
つまり、アナタたちアヤカシたちにとって、天敵ともいえる、キケンなモノだったハズよ。
ソレなのに、どんなアヤカシも、1300年ものあいだ、この祠を、こわすコトがデキなかった。
つまり、アナタたちアヤカシにとって、この祠は、カンタンにどうこうしたり、あやつったり、使えるようなシロモノじゃナイのよ。
ソレなのに、アヤカシであるアナタは、この祠を奪って、たくわえたチカラをつかってしまった。
そのチカラを、じぶんでじゆうにつかえて、コントロールするコトがデキると、おもいこんでしまった。
コレって、すさまじいカン違いっていうコトに、ナンで気がつかないのかしら。
つまりアナタは、モノゴトの表面上のコトだけを見ていて、掘りさげてかんがえていない。
根っこにある本質や核心っていうものが、まったく見えていないし、わかっていないのよ」
「ゴチャゴチャと、減らず口を」
こういうと、オニは岩羽に向かって、おそいかかった。
「まあいいわ、とりあえず今は、向かってくるアナタを、ナントカしないとね」
こういうと、岩羽はイヌに乗りながら、オニの攻撃をかわした。そして、ふたたび、T・レックスを出現させた。ただし、一匹だけであった。
「はは、ナンだ、今度は一匹ダケか。さっきまでオレにたいして、偉そうに講釈をたれてやがったが、ソッチのほうこそ、もうチカラの限界じゃないのか?」
オニがこういった瞬間、その一匹のT・レックスは、すさまじいスピードで、オニにたいして襲いかかった。
先ほどまでの、複数のT・レックスとは違って、オニが追いつけないほどのスピードであった。
さらに、繰りだされる一撃一撃も、先ほどの複数のT・レックスたちよりも、はるかにつよい。
「クソ」
オニがイライラしているのを見ながら、岩羽は、落ちつきながらハナシをはじめた。
「そういう、あいてを見くだして、あまく見るトコロがダメなのよ、アナタは。
ふくすう匹じゃなくて、一匹のダケなのは、たんじゅんに、ワタシのチカラが尽きかけてるんじゃなくて、一匹にしたほうが、よりチカラを集中させるコトがデキるからなのよ。
つまり、この一匹は、さっきの複数のT・レックスたちよりも、つよいっていうコトになるのよ」
(さっきから、ゴチャゴチャとうるせえオンナだ。オレにたいして、イチイチ講釈をたれてきやがる)
オニのアタマのなかは、怒りの感情がバクハツしており、冷静さを欠いていた。だがソレでも、ダンダンと、不審な点がうかんできた。




