リストバンド
タテモノにいた、徳康と岩羽もまた、異変にたいして気がついた。
「オカシイですね。この異空間のなかに、あきらかに、ニンゲン以外のそんざいが、まぎれこんでいます」
「たしかに、バネちゃんのいうとおり、オレも、妙な気配をかんじる。ソレも、数がとくていしにくい。一匹にもおもえるし、何匹にもかんじる」
「同感です。こういうカタチでかんじる。っていうコトだけでも、もはや、ニンゲンじゃないですよね、コレは」
ふたりがハナシをした、まさにそのとき、ソトの訓練場では、本多と立花にたいして、アヤカシの群れが、襲いかかったのである。
「マズイ、本多と立花が襲われてる。しかも見たトコロ、数十匹どころか、数百匹はいるかもしれん。オレたちで援護をすベキか。どうおもう?」
徳康がこう聞くと、岩羽はすこしのあいだ、かんがえた。
「イエ、たぶん、ダイジョウブだとおもいます。ワタシの見たトコロ、あのアヤカシたちは、ほとんどが、下級から中級レベルのアヤカシの群れにすぎません。今のふたりだったら、ナントカなるとおもいます」
「ナルホド、となると、オレたちは、コレから一体どうすベキか」
「ソウですね。あのアヤカシたちは、しょせん中級レベルまでですので、たかい知性があるとは、到底おもえません。
ソレに、つよさ自体も、ソレほどではない。そんな連中が、この異空間にたいして、入りこめるとはおもえません」
「つまり、ヤツラはあくまでも、こんかいの主犯格ではナイと」
「ソウおもいます。ああやって、あからさまに、ろこつにスガタを現して、ハデにうごきまわってるのを見ると、コチラの注意を引きつけるタメかと。つまり、陽動にも受けとれます」
「たしかに、ソウなると、こんかいの犯行の主犯格は、ドコにいて、かつ、その動機・もくてき、ねらい・意図が、気になるトコロだけど」
「そのとおりですが、まだわかりませんね。とりあえず、あの場はふたりにまかせて、ワタシたちは、タテモノのなかを、いそいで見まわりましょう。すでにはいりこんでる可能性も、なきにしもあらずなので」
ソウいうと、岩羽は、おおきなイヌのようなアヤカシを2匹、出現させた。
「コレは、ワタシがつくりだした、イヌ型のアヤカシです。つまり、鼻がよく効きます。アヤカシのニオイがあれば、すぐに気がつくハズです。
ソレに、ニンゲンも、この上に乗るコトがデキます。ですので、コレに乗って、ふたりでタテモノのなかを、いそいで見まわりましょう。ワタシとトクさんで、二手にわかれて探そうかと」
「了解した。あいかわらずベンリなチカラだねえ、ホントウに。『じぶんでアヤカシを生みだして、ソレを使役するコトがデキる』っていうのは。
アヤカシを生みだして、あやつるコトがデキる、『皇帝』っていうアダ名は、伊達じゃナイか」
「ナニいってるんですか、こんなときに」
苦笑ながら岩羽は、イヌに乗り、走りさっていった。
「さて、じゃあオレも、犯人を探しにいくか」
こういうと、徳康もイヌに乗り、岩羽と違う方向に向かい、走っていった。
岩羽がタテモノのなかを、イヌに乗って、主犯格のアヤカシを探し回っていると、あちこちに、たおれている職員がいた。
「どうしました?」
「スイマセン、とつぜん襲われました」
「あいてのスガタは見えました?」
「イエ、スガタを見るコトはデキませんでした。というか、スガタが見えるまえに、つよい衝撃が襲ってきて、たおれてしまいました」
「わかりました。ムリしないで、休んでてください」
こういうと、岩羽がふたたび、主犯格を探しだしたのだが、アチコチに、たおれている職員がいる。
そして、ハナシを聞くのであるが、主犯格のスガタを見た者は、ひとりもいない。
(さすがにオカシイわね、コレだけたくさんのヒトに、ハナシを聞いてるのに、スガタを見たヒトが、ひとりもいないっていうのはヘンだわ。
となると、主犯格のアヤカシは、スガタを隠すチカラを持っているのかしら。ソレとも、あからさまなアヤカシ。っていうスガタをしていないとか。
あきらかに、ニンゲン以外のスガタをしてるんだったら、超常のチカラが、あまりつよくない職員とはいえ、コレだけのニンゲンがいるのに、ひとりもスガタを見てないっていうのはオカシイ。
となると、ヤッパリ、視覚だけを頼りに探しだすのは、ムズカシイかもしれない。だったら)
このように自問自答すると、岩羽は、ポケットのなかから、ビンを取りだした。そして、ソレをイヌに嗅がせると、イヌは、職員が避難しているばしょに、走っていった。
おそわれて、弱っている職員たちは、タテモノのなかにある、講堂のような、おおきなヘヤにあつまっていた。
岩羽は、そのヘヤに辿りつくと、職員たちのようすをジッと見ていた。だがしかし、見たトコロ、異常はかんじられナイ。
そのときである、とつぜんイヌが吠えだした。その瞬間、岩羽は、おおきな鳥のアヤカシを出現させて、職員たちのあつまりに向かって、解き放った。
「え、ナンです?」
職員たちの何人かが、おどろいて、このように叫んだという、まさにその瞬間、その鳥のアヤカシは、ひとりの職員を両足でつかみとると、ヘヤのなかで、職員がいないばしょに、はこんだのである。
イヤ、正確にいうと、そのばしょに、はこぼうとして、職員をつかんで飛んで、職員のいないばしょに着く、まさに瞬間に、鳥のアヤカシは、バクハツしたのである。
「オッカシイなあ、ナンでオレがわかったんだよ」
バクハツした鳥がつかんだ職員が、床に足をつけると、岩羽にたいして、このようにいいだした。
「ニンゲンを取りこんで、カンゼンに化けたハズだ。スガタも中身も、体臭でさえもだ。
見たトコロ、イヌのアヤカシに、ニオイを辿らせたようだが。アヤカシじゃなくて、ニンゲンのニオイを持ってるオレが、ナンでわかった」
「たしかに、今のアナタは、アヤカシのニオイがナイみたいね。ニンゲンと変わらない。
でも、ニンゲンに化ける前につけた、アヤカシ以外のニオイはべつでしょう」
こういうと、岩羽は、先ほどイヌに嗅がせたビンを、取りだした。そのなかには、祠にあった、公園の砂が入っていた。
「コレは、祠のあった公園の砂よ。ソレも、消えた祠のあったばしょのね。つまり、何百年間も、あの祠に接していたコトになる。
つまり、このイヌは、アナタやニンゲンのニオイじゃなくて、祠のニオイを辿ってきたワケよ」
「かあー、そんな抜け道があったか」
「今のアナタは、あの祠のニオイが染みついてるようね。つまり、ついさっきまで、あの祠を触っていたか、ソレとも」
こういうと、岩羽は、目のまえにいるアヤカシのスガタを凝視した。
「さっきアナタは、ニンゲンを取りこんだ。といってたけど、あの祠も取りこんだのかしら?」
この発言を聞いて、アヤカシはわらいだした。
「おどろいた、なかなかアタマのキレるオンナのようだ。今のオレのカラダには、あの祠がある。
大空と毛利さえいなけりゃ、のこった超常者なんてのは、たいしたコトないと踏んでたが、どうも、そうカンタンじゃないか」
「大空さんと毛利さんのいない隙をねらったっていうのは、アヤカシにしては、アタマがまわるようだけどね。でも、あのふたりだけが、超常者っていうワケじゃないのよ」
「ソウかい、でもまあ、ナンにしろ、見たトコロ、オマエじゃオレはコロセないね。たいしたチカラを感じナイ」
こういうと、そのアヤカシは、スガタを変えた。それまでのニンゲンのスガタではなくなり、額にはツノが生えだした。
そして、カラダがドンドンおおきくなり、2メートルを越える身長になった。筋肉も、ニンゲンとしては、ありえないほど隆起しだした。
「どうやら、アナタはオニのようね」
「正解。オレはアヤカシの王であるオニだ。で、どうする。このばしょでたたかうかい?
となると、ココにいる貧弱なニンゲンたちが、巻きぞえをくうぜ。まあオレは、ソレでもかまわん。あとで全員、食ってやるからなあ」
「ソレはどうも。でも、そんな心配は無用なのよ」
こういうと、岩羽はヘヤのカベに手をあてた。すると、とつぜん、ヘヤのカタチが変わりだした。
岩羽とオニと、ソレ以外の職員がいるばしょが、とおくはなれてゆき、そして、ぶ厚いカベがデキた。
さらに、岩羽とオニのいるばしょが、拡大していった。つまり、「ほかの職員たちとは隔離された、べつのヘヤがデキて、ソコに、岩羽とオニだけがいる」という状態になったのだ。
「コリャいい。ヤッパリ、この異空間にきたのは正解だ。ココまで自在にカタチを変えれるのか。ベンリだ。おまえらを皆ゴロシにしたら、ココを、オレの拠点にしよう」
「ナルホド、となると、アナタの狙いやもくてきは、この超常者の本部を奪う。っていうトコロかしら」
「さっきから、ずいぶんアタマのまわりの良いオンナだ。まあいい、どっちみちコロスんだから、おしえてやるよ。
こうしてオレが、わざわざココにやってきたのは、オマエらが、この異空間の本部にたくわえた、超常者のチカラを奪うコトと、オマエらの本部をつぶすコトだ」
こういうと、そのオニは、すさまじいスピードで、岩羽にたいして向かってきた。ソレを岩羽は、イヌに命じて、寸前のトコロで避けた。
その瞬間、オニは岩羽にたいして、すさまじいチカラを放った。衝撃派である。
岩羽とイヌは、とおくに吹きとばされた。そして、ヘヤ自体も、おおきく揺れて、カベにヒビがはいった。
「たいしたチカラね。マトモに食らってたらアブナかったわ。その衝撃派で、職員たちを襲ったのかしら」
「そのとおりだ。貧弱なヤツラだったぜ。すこしの衝撃派で、みっともないくらいに吹きとばされて、気を失ったり、ケガしやがった。
にげ足のはやさはダケはホメてやるが、にげるだけじゃ、オレには勝てんぜ」
「たしかに、にげるダケじゃダメね」
岩羽にたいして、オニがふたたび、襲いかかろうとした。
「こんどは、オマエが避けれないスピードでやってやるよ」
こういうと、オニは、岩羽にたいして向かおうとした。そして、その瞬間、オニはうしろから、おおきく吹きとばされた。
「ギャア」
オニは悲鳴を上げて、岩羽とは違う方向に向かって、前におおきく吹きとんだ。
「おそいじゃないですか」
「イヤイヤ、コレでも速いほうだとおもうよ」
(ナンだ、ナニが起こった?)
吹きとばされて、カベに衝突したオニが、先ほどまで、じぶんが立っていたばしょを見てみると、じぶんのうしろのカベに、おおきく穴が開いていた。そして、そのばしょに立っていたのは、徳康であった。
(コイツ、いつの間に、オレにうしろに?)
「目のまえにいるワタシだけに気を取られて、背後がおろそかになってたみたいね。
さっき、ワタシがカベに手をあてて、ヘヤのカタチを変えたとき、べつ行動してたトクさんから、このヘヤにいたるまでの最短ルートで、穴を開けておいたのよ。
ソレで、アナタが、ワタシとのハナシに気を取られてる隙に、アナタのうしろだけ、穴を開けておいた。
ソレで、最短ルートでやってきたトクさんが、今こうして、アナタに攻撃をしたっていうコトよ」
「クソが。ダマシやがったな」
「ナニをいってるの?ワタシはさいしょから、1対1でたたかうだなんて、ひとこともいってないけれどね。
だから、ダマシてなんてナイ。人聞きのワルイようなコトを、いわないでほしいわ」
(よくいうよ、毒舌だなあ)
岩羽のハナシを聞きながら、徳康はこうおもった。
(今にしておもえば、じぶんのイヌのアヤカシを、オレにつけて、いっしょに行動させたのも、こうして、あいてをゆだんさせて、隙を見て、うしろから、おそわせるタメだったのか?
じぶんがつくったアヤカシだから、オレが今げんざい、ドコにいるのか、すぐわかるダロウし。ソレに、アヤカシをつうじて、オレに指示をだしてきたし。
このオニのいうとおり、えらくアタマのまわる子だ。ホントウに、まだ18歳なんダロウか)
「まあいい、ザコが何匹あつまろうが、今のオレの敵じゃねえ。ふたりまとめてかかってこい。すぐにブッコロシてやるぜ」
怒りに身をまかせて、オニが、このように叫んだのだが、岩羽は、あいかわらず、冷静そのものであった。
「たしかに、祠をカラダに取りこんで、祠が1300年間も蓄えたチカラをつかえる、今のアナタだったら、ザコの超常者が何人いたところで、勝てやしないでしょうね」
「ナンだ?スンナリと認めやがったが、とうとうあきらめたのか?ざんねんだが、あきらめて降参したトコロで、許すツモリはナイぜ」
「ジョーダンをいってるのかしら?そもそも、アナタに許してもらうツモリはナイのよ。ソレに、そんな理由もナイじゃない」
「屁リクツをいいやがるが、オマエとソコのオトコが、たいしたチカラを持っていないっていうコトは、とっくにしらべがついてんだよ。
オレを見くびるんじゃナイぜ。この一カ月間、オマエら超常者のかつどうを、オレが調べていないとでもおもってんのか?
オレが警戒すベキなのは、毛利と大空のみだ。このふたり以外は、今のオレの敵じゃねえ。そして、このふたりは今、このばしょにいない。
オレが、オマエらを皆ゴロシにし、この本部をカイメツさせて、さらに、オマエらが本部にたくわえてる、超常のチカラを奪ったとき、オレは毛利どころか、大空を超えるほどのつよさを手にいれるコトになる」
「ナルホド、アヤカシにしては、なかなかアタマがまわるようね。ソコは大したものだけど。
でもヤッパリ、しょせんはアヤカシね。知恵が浅いというか、かんがえがアマイ、浅はかね」
「減らず口をたたくオンナだ。イノチ乞いをすれば、苦しまずにコロシてやろうかとおもったが、気が変わった。
オマエは、苦しめぬいてコロシてやるよ。生まれてきたコトを後悔するほどに、苦痛をあたえてやるぜ」
「ソレはどうも、でもアナタに、そんなコトを気にしてもらうツモリも、そんなリユウも、まったくナイわ」
こういうと、岩羽は、ウデにつけていた、リストバンドに手をかけた。
「トクさん、コレをハズシましょう」
岩羽は、徳康にこういった。
「了解」




