時間のもんだい
ふたりのまわりには、おびただしい量の異形のアヤカシたちがいたのである。ソレも、ふたりのすぐ近くに。
1メートルも離れていないキョリにおり、ふたりのようすを、ジッと見ていた。
「イヤ、コレはチョット、カンベンしてほしい」
徳康が、やっとクチにだしていえたコトバは、コレが精一杯であった。冷や汗やアブラ汗がでてくるのを、どうにも、止められそうにナイ。
「ざんねんながら、コレこそが、今げんざいのワタシたちが置かれてる、げんじつの状態っていうヤツです。
今までスガタが見えなかったのは、この連中が、スガタを消していたからです。
ソレを、ワタシが超常のチカラをつかって、というか、ヤツラに振りかけて、透明な物体にたいして、色をつけるようにして、見えるようにしました。ペンキや絵の具をかけたようなものです」
「さっきの空間のなかで、天井に公園の映像がながれたときは、スガタが見えていたんだけど。
なんで今のコイツらは、スガタが見えなかったのか。そのりゆう・げんいんを、おしえてもらいたいんだけど」
「さっきの空間の天井で見たときは、下級のアヤカシだけだったんですよ。でもコイツらは、中級というか、やや知性がありますね。
今の徳康さんだったら、スガタを消そうとしてないアヤカシだったら、もう見るコトがデキるとおもいます。
でも、じぶんで意図してスガタを消して、見えなくしてるヤツラにたいしては、さすがに、気がつかなかったっていうコトです」
「じぶんで意図してスガタを消すって、そんなコトがデキるってコト?」
「ええ、ナニセ、そもそもアヤカシっていうのは、フツウのニンゲンには、スガタやカタチが見えないモノなので。
ですので、見えないのがフツウなんですよ。つまり、アヤカシのスガタやカタチを見るコトがデキる、超常者がいたとしても、知性のあるアヤカシだったら、意図してスガタを消すコトがデキるんです。
まあ、中級ていどのアヤカシですから、ワタシや大空さんだったら、すぐに気がつきますけどね」
「意図してスガタを消せるっていうコトは、つまり、今まで隠れていたのは、『コイツらが、意図していた』っていうコトになるけど。
となると、コイツらが、『なんでスガタを消して、かくれるようにして、オレたちにたいして、気づかれないようにしたのか』っていうのが、気になってくるんだけど。
しょうじきなところ、あまりいいたくないけど、『オレたちを、襲おうとしていた』っていうコトかい?」
「不ユカイなハナシになりますけど。そういうコトになります」
「もしも襲われると、どういう目に遭うのか。いちおう聞いておきたいんだけども」
「超常のチカラをつかえない、フツウのニンゲンだったら、イノチにかかわるキケンな目に遭います。カンタンにいっちゃえば、食いコロサレます」
「食いコロサレルっていわれてもねえ。リアクションというか、反応にこまるよ、ホントウに」
「でもソレは、あくまでも、フツウのニンゲンが対象だったら。っていうハナシなので。
ナニも気づかず、ナニもデキない、無防備な、フツウのいっぱん人ならともかく、ワタシや徳康さんだったら、そんなブザマな目には遭いませんよ」
「イヤ、オレはついさっき、この超常のチカラとやらのそんざいを、知ったばかりなんだよね。だから、まったくつかいかたを知らないんだけど。
そもそもオレに、ホントウに、そういうチカラがあるのか。っていうコトも、まったく実感が湧かない」
「ソレはダイジョウブですよ。ワタシもあの空間から、徳康さんが、じぶんの悪縁を、5円玉に載せて、賽銭箱にいれたり、アタマの上にあった、雲みたいな不運や不幸の渦状のカタマリを、祠に移したのを見ていますので。
あるていどは、もうすでに、つかいこなしてるハズなんですよ。ちなみに、さっきの5円玉の要領で、じぶんの悪縁をあつめて、まわりのアヤカシにたいして、ぶつけてみてください。たぶん、うまくいくとおもいます」
そのようにいわれ、徳康は、サイフから5円玉をだして、先ほどのように、じぶんが持っているのであろう、悪縁を込めて、まわりのアヤカシにたいして、かるく投げてみた。
すると、5円玉があたったという、まさに瞬間、そのアヤカシは、カラダの一部が吹きとばされてしまった。
そのアヤカシは、うめき声や悲鳴を上げているのだが、モチロン、げんじつの声ではない。あいてはイキモノではない以上、声を上げるコトはナイ。
だがしかし、アタマのなかに、直に入ってくるように、その悲鳴やうめき声というものが、聞こえてくるのだ。
「さすがですね。ワタシの想像した以上に、徳康さんの超常のチカラは、つよそうです。
徳康さんが、じぶん自身の悪縁というものを、5円玉に込めて投げたので、アヤカシにあたった瞬間、その込めていた悪縁のカタマリが、一気にはじけたみたいです。その衝撃で、ヤツラのカラダの一部が、吹きとんじゃいました」
「スゴイな、ただの小銭なのに。ソレにしても、なんでコイツは、カラダの一部が吹っ飛ばされたのに、いきてるんダロウ。
イヤ、イキモノじゃなくてアヤカシなんだから、いきてるっていう表現は、不正確というか、まちがいかもしれないけど」
「たしかに、イキモノじゃなくてアヤカシなので、生きてるとはいえないですね。
ですので、『そんざいしており、消滅してない』ていったほうが、良いかもです。でもまあ、ソレも時間のもんだいです」
「時間のもんだい?」
「ええ、ソウです。見ていてください」
岩羽にいわれて、徳康は、そのアヤカシのようすを見ていたのだが、あるコトに気がついた。
ソレは、じぶんと岩羽のまわりに、たくさん近寄っていたアヤカシたちが、ダンダンと、そのカラダの一部が吹っとばされたアヤカシを、凝視しだしたのである。
そして、ソレまでは、ふたりのまわりに、ソレこそ、360度すべてだけでなく、上にもいたアヤカシたちが、ダンダンと、その吹きとばされたアヤカシにたいして、近寄っていったのである。
「ヤツラが、ワタシたちの包囲を解いたようなので、すこしだけ、ばしょを変えようかとおもいます」
こういうと、岩羽は、徳康のウデをつかみ、引っ張って、いっしょに、そのアヤカシたちからキョリをとり、はなれたのである。
「近くにいると、すこしメンドウなので、キョリを取りますね。大体これくらキョリがあれば、良いとおもいます」
「メンドウっていうのは、ナニカあるってコトかい?」




