二十、相剋。その4
二十、相剋。その4
三十分後。
五人の中心に並ぶ六本の火炎瓶。
「六本」
「父ちゃん。なんとか火炎瓶を作ったけどこれくらいかな」
中心でテカリ輝く火炎瓶達。
「司。この六本の内、二本を渡す。もし、何かあった場合には火炎瓶を使ってなんとかあいつらから逃げてくれ」
覚悟をした瞳で真っ直ぐ司を見つめる康義。その康義の表情と言葉をしっかりと受け止める司は、首をゆっくりと時間をかけて縦に動かした。
「じゃあ、始めるぞ」
康義の表情は更に厳しくなる。同時に機械整備用の手袋を両手にはめる。手袋が外の光を浴び、使い込まれた皺が幾重にも刻まれ鈍く光る。この手袋は横転した自動車のトランクに転がっていたものだ。さゆみが康義の腰周りにビールホルダーを巻く。このホルダーもトンネルの壁と衝突していた自動車の内部から発見したものだ。このビールホルダーを所持していた人は、アウトドアに行くつもりだったのであろう。恵も腰でサイドリリースバックルをプラスチック独特の音をさせ、そして、しっかりと外れないようにベルトの部分を調整する。すると、康義の身体に食い込み、幾つもの皺が増える。ビールホルダーを軽く掴み、左右に揺らしてそう簡単に外れないことを確認する。
「よし。大丈夫そうだな」
康義は強度が問題ないとを確認すると、地面に置いている残っていた火炎瓶四本の内、三本を手にし、ビールホルダーに収めた。元々ビールを対象にしていたビールホルダーであった為、形が歪に変形しながらホルダーに収まっていた。
「始めるぞ」
康義が合図を口にする。その言葉を耳にした四人は、出口から十メートルほど離れた場所で、康義が盾として隠れている自動車から、センターラインを挟み少しばかり広報に停車している4WDの側面に身を隠した。
身を隠している康義の近くにある自動車は、出口側にボンネットやトランク、天井を向けている。若干、ホコリにつつまれて、フロントガラスは既に砕かれ、跡形もなく存在していなかった。
出口の向こうには巨人兵の後ろ姿が見えている。巨人兵は一定リズムで巨体を上下に動かしながら、五人が隠れているトンネルから離れるように進んでいてる。それでも、トンネルの出口から続く一本道は、巨人兵の足元へと続いていく。
康義は耐火性の高い手袋を両手に嵌めていた。
手袋からはこれもキャンプで使う予定であったことが簡単に想像することが康義にはできた。何回と使用されているのか、若干くたびれた様子をしていた。その使い込まれたビールホルダーに収まっていた火炎瓶を手袋に包まれた左手で握り、同じように手袋に包まれた右手にはチャッカマンが握られていた。チャッカマンのトリガーを引き、その先端にはオレンジ色の火が灯る。
康義は、ゆらゆらと揺れる火を火炎瓶の布部分に近づける。左右に揺れる火が布を通過した時に布の先端部分に火が燃え始める。徐々に布部分に火が広がっていく。そして、火のサイズも元の大きさよりもどんどん大きくなっていく。その炎は康義の顔をオレンジ色に染める。康義の瞳にも炎が映りこんでいた。じっと数秒の間、見つめ続ける。
「行くか」
康義の表情がぐっとしまったものへと変わる。そして、頭が動かす。康義が頭を動かした視線の先には、横転し天地が引っ繰り返った廃自動車に目が向かう。またも数秒程、その廃自動車を見つめたまま時が流れる。
一つ息を呑む康義。
康義の喉ぼとけが上から下に動き、また、上にへと戻っていく。
段々と火力が増す火炎瓶を右手に持ち、大きく振りかぶって野球の塁間くらいの距離がある廃自動車に目掛けて投げつける。康義の手の平から放たれた火炎瓶は、ひらひらと火の粉を残しながら空中を進んでいく。布部分とそれにまとわりつくように包む炎は激しく揺れている。その瞬間、その炎はまるで情熱で激しく踊るダンサーの如く動いていた。
数秒の間、宙を舞い続ける火炎瓶。その間も縦軸に回転するのではなく、横軸に回転しながら廃自動車へと進んでいく。
そして、廃自動車に直撃し火炎瓶は割れる。
同時にガラスが割れる音も響いていく。
火炎瓶は粉々になって破片が周囲に四散し、火炎瓶の中に溜まっていた液体は廃自動車の表面に広がっていく。そして、広がった液体に炎が追うように広がる。燃え上がった炎は廃自動車全体を包んでいく。燃え上がる炎から黒煙が立ち上って行く。
巨人兵はそれまで5人が隠れているトンネルに背を向けていたが、赤々と燃える廃自動車反応しトンネルの方向へと身体の角度を変える。トンネル内の廃自動車に身を隠していた康義以外の四人。四人全員の視線が集まる先には、バスから外れたサイドミラーが存在していた。サイドミラーにはトンネルに身体を向けた巨人兵が映っている。
「こっちを向いた!」
声の音量は決して大きいものではなかったのだが、激しく精神が乱れ掻き立れることが伝わる口調で司は心情を言葉にする。
雪は司の腕を握っていたが、その手に更に強く力が入る。
恵、さゆみもサイドミラーに映る巨人兵を真剣な表情で見つめていた。
当然、康義もその様子を巨人兵の感知範囲に入らないぎりぎりのところから息を潜め、じっと見つめていた。
「ご、よん」
覚悟を決め、小さなとてもても小さな声でカウトダウンを始める康義。
康義の肌に一筋の汗が頬から首元、そして、胸元へと流れていく。
一度だけ目を閉じ、そして、また開く。
「さん、に、いち!」
”いち”を口から外へと落ちたと同時に康義は横転してる自動車の影から飛び出した。
康義の足は、赤々と燃え上がる廃自動車へと向かって走り出す。
巨人兵は猛烈に走る姿を当然感知する。
激走する康義を巨人兵が補足しようとする。しかし、炎上している廃自動車の背後を走る為か巨人兵は正確に捉えることができなかった。しかし、それでも巨人兵は熱線を躊躇せずに放つ。放たれた熱線は明らかに康義を狙えず、康義が炎上している廃自動車を通過した後に熱線が廃自動車へと直撃する。直撃と同時に空間を強烈に刺激する音が周囲へと広がっていく。同時に色々な塵や破片が周りに広がる。
爆発し更にボロボロとなり、元の形を廃自動車は失った。




