十八、相剋。その2
十八、相剋。その2
それから一時間が経過していく。
休憩していた場所から離れ、結構離れた場所まで進んでいく。
水を描き分け進んでいた中で、五人の脚が止る。
「ああっ」
司は前方を見て、声が零れ落ちる。
五人の前方にあったのは、高さが電信柱ほどある滝があった。なかなかの水量が滝の頂きから下に落ちていく。落ちた水は激しく水飛沫をあげる。そして、波紋は周囲にゆらゆらと広がっていく。
「これ。流石に登るのは無理ねぇ」
崖の上部から激しく零れ落ちる水をみつめながら呟いた。崖は非常に岩が幾つも重なっっており、ロッククライミングの技術が求められる高さだった。
「どうします?」
その滝を見つつ次を手を探すさゆみ。その言葉を耳にしつつもなんとも言葉を返す事がどうもできなかった康義。今、皆が抱えている荷物を考えるとこの滝を登るという選択は正直なところを言って無謀としか思えなかった。
「どうしたものかな?」
今後の選択を迷う康義の隣で雪が周囲の様子をキョロキョロと見渡した。
「雪。どうしたの?」
雪の様子に気付いた司。そして、雪に司は言葉をかける。
「もしかしたら、山道か何かないかなと思って」
司の言葉に雪は、探し続けながら言葉を返す。
「あれっ。道じゃありません?」
雪が右腕を伸ばし人差し指で指し示す。人差し指の延長線上には小石が敷き詰められたなんとか道と認識できうる程度の道があった。
「迂回しますか」
恵はその道を見つめながら言葉が零れる。その言葉には迂回以外の手段が他に選択肢がないことを示していた。
「そうね」
さゆみはその言葉に同意するしかなかった。その言葉に周囲の人間も同意せざるを得なかった。他の四人も表情がしまった様子で、覚悟を決めたようだった。
五人の正面に滝と相対していたが、徐々に身体の向きを変え、岸に向かって一歩二歩と歩き始めていく。前に進むにつれて水跳ね上がる。同時に響く水音に濁点が混ざっている低い音ではあったが、段々と岸に近づくにつれて濁点が抜け落ち低い音から高い音へと変化をしていく。そして、水音から更に石が擦れる音へと変わる。時折、水音と石音が混ざり、音楽を奏で消えていく。
五人の足元も徐々にふくらはぎまであった高さが、足首、足、踵と下がっていく。徐々に雪が見つけた道に進んでいく。
「この道、何の道だろう」
司は周囲を見まわしながら進みながら呟いた。
「さあ分かんないな」
同じ様に周囲を見回しながら司の言葉に応えた。
徐々に滝の水音が遠ざかり小さくなっていく。歩く道が滝から離れるにつれて道の転がっている枝や枯れ葉の量が増していく。
「これだけ多いと人はあまり使ってないみたいだな」
康義はこの道の様子を冷静に感想を口にする。
「なんでですか?」
さゆみは足場の悪い道を歩きづらそうに前に足を進めながら質問する。
「なんらかの理由で滝までこの道を準備したけど、また何らかの理由で人が使うことがなくなったということだと思う。だから、こうして道がこんなに荒れているということなんだと思う」
「確かに人の手が加わってはいないみたいですね」
さゆみの言葉を示すのは道だけでなく、両側を多くの木々や雑草が生い茂っている。
前に進む度に五人の内、誰かが足元の枝を踏み音を鳴らす。
荒れた道を進むにつれて当然の事だが時間も経過していく。
そんな最中でも遠くで小さく音が疼くように響いている。
”ズーン”
”ズーン”
それに反応するかのように樹木の枝に留まっていた一羽二羽以上居る数多くの野鳥が、一斉に空へ飛んで行く。
「あいつらもまだ活動しているのかな」
五人の耳に巨人兵達が放ったであろう音が届き、恵は苦々しい表情を浮かべる。
そんな中を歩き進める五人。
歩き続けた五人の前に整備された道路が見えた。
灰色のコンクリートで整備されており表面がザラザラとしている。また、白色をしたセンターラインが刻まれている。最初に刻まれてから大分月日が経過しているのか少しばかり薄くなっていた。
とうとう車道に近づいた五人。
最初は道路の一部しか見ることができなかったが、二車線道路の全体を見て状況の把握ができた。
そこには幾つもの自動車が止っていた。ただ止っているだけではなく、横転したり黒焦げになったりしているものもあった。康義達がキャンピングカーで遭遇したような事態がこの道路でも発生したのだと察したのだった。
「!?」
目の前にある黒焦げになっている自動車を覗き込んだ雪は驚愕する。そこには黒焦げになった車体と同じ様に身体が炭化している遺体がそこにあった。あまりの燃焼により、その表情おろか性別すら判別することができなかった。
「雪っ!」
司は直ぐに雪へと走って近寄っていく。その瞬間、足元にあった砂や小石が舞った。
動きが固まる雪。雪の身体が小刻みに震えているのが誰から見ても分かるレベルだ。
雪の元に近寄った司は、雪を力強く抱きしめた。そして、司の身体で遺体との間に立ちながら壁になり、雪の視界を塞いだ。
「見ちゃ駄目だ。見ちゃ駄目」
そのままの状態のまま遺体のあった黒焦げの場所から二人から離れた。その二人の後を追うかのように三人も続いた。
五人が周囲を見回すと周囲には点々と自動車の影に倒れている人の手だったり、森に身体を突っ込み、某推理小説のワンシーンみたいに両足を天に向けるような姿勢で倒れ居ている。
「ここでもあの惨劇が行われたみたいだな」
康義は周囲の様子をまじまじと目にしながら、思わず口にした。
彼らが居る場所から少し先には大きな山にトンネルが存在していた。
トンネルまでには五人の周囲で転がっている様な自動車と同じ様に、ひっくり返っていたり、完全に燃え上がり全体が黒焦げになっていたり、天井が潰れていたりしていた。
「とりあえずトンネルへ向かおう」
康義が他の四人に指示を出した。その言葉を受けた四人は頷き、トンネルへと向かい一歩二歩と前に進み始めていく。トンネルへ向かう間も司は、雪の身体を支え続ける。
その時、遠くの方で小さい音が聞こえた。そして、その音は確実に五人の耳に届く。
進み始めていた五人の足がピタリと停止する。
「?」
五人の脳裏に一つの不安が姿を見せていた。
その間も徐々に大きくなっていく。それは同時に何かとの距離が徐々に埋まっていくことを示されていた。そして、彼らの心理にも徐々に不安が大きくなっていく。ゆっくりと背後振り向く五人。
鳴り響く音と共に木々が激しく上下左右に揺れる。中には激しく太い幹が折れるような音が何かの音の中に混ざる。
だんだん。だんだんと音は轟音へと変化をしていく。そして、轟音だけでなく微振動から大きくなった震度も加わっていく。
「康義さん」
さゆみは近づく震源の方角見つめながら康義に声をかける。
「きたか」
康義もさゆみの問いに静かに応える。五人はずっと虚空を見上げる。
轟音も揺れもどちらもが更に激しくなっていく。
「あっ!」
恵が声をあげるとと同時に巨人兵の頭部が山影から姿を現した。巨人兵の頭部にある発光部分は中央の一つのみが強烈に発光をしていた。
「走れ!」
康義の言葉が合図に一斉に巨人兵から背を向けた。そして、内側が暗闇に包まれたトンネルに向かって走りだした。
あの暗闇が五人達の希望だ。
巨人兵が前に一歩進むと同時に周り木々が薙ぎ倒されていく。周辺に木屑が飛び散る。
巨人兵に幹から折られた数多くの木が地面に二度三度バウンドし倒木する。
五人は必死な形相で走り、道路に転がっているボロボロになり横転している自動車をかわしトンネルへと向かっていく。
巨人兵の熱線発射口がエネルギーを帯び、その数秒後には強烈な光が周囲を照らし、空中を貫き地面に突き刺さる。そして、爆発をする。
その爆発はコンクリートを吹き飛ばすだけでなく、周辺にあった煤に包まれた廃自動車も吹き飛ばした。宙を舞ったコンクリートや廃自動車が地面に叩きつけられ、更に酷く砕け散っていく。
放たれた熱線が五人を捉えることができなくとも、その数秒後には再び熱線を放つ。
廃自動車の間を五人が散り散りに走る為に廃自動車が遮蔽物となり、直撃しなかった。
それでも巨人兵は執拗に五人をターゲットに熱線を次々と放つ。
それでも熱線は直撃しない。
再び放たれた熱線は廃自動車に直撃する。直撃した廃自動車は円を描き、隣に位置していた廃自動車に直撃し、激しく潰れる。
またも巨人兵が熱線を放ち、またも自動車に直撃し、またも廃自動車が飛び、そこへ巨人兵の放つ熱線が空中に廃自動車に直撃し爆発四散する。
「きゃっ!」
悲鳴をあげる雪。
「あと少しだ!」
叫ぶ康義。
「急いで!」
叫ぶ恵。
五人の表示には”生”への執着が色濃く表れていた。
熱線が放たれる度に地面や自動車に直撃し、周囲に土煙が広がっていく。そして、赤々と燃える炎が生まれている。五人は土煙の中を駆け抜ける。
次々と熱線を放つ巨人兵。
その熱線から逃れる五人。
時には五人の上空を、時には五人の横を熱線が通過する。
音や衝撃に驚きながらも走る五人。なんとかトンネルへと飛び込んでいく。
またも熱線が巨人兵から放たれる。
それはトンネル上部に直撃する。
トンネル上部に熱線が直撃した後に大きな爆発が起きる。まるでそれが合図かの如く、山が崩れ始めた。山が地滑りをおこし、原型を失っていく。そして、地鳴りと共にトンネルの入口が塞がっていく。




