十三、渋滞。その2
十三、渋滞。その2
「あいつ……」
巨人兵はゆっくりと動き前進し、黒煙を突き抜ける。そして、存在を誇示するかのように全身を見せつける。
頭部と思われる部位にあるランプは五つある内の右二つが消灯しており、中央のランプが点滅している。
「キャンピングカーを降りるんだ!」
康義は皆への指示を大声で出した。その指示を合図にキャンピイングカーを降りる。
後部座席に居た恵・雪・さゆみはドアを開け外に出た。運転席と助手席に居た康義と司も急いでシートベルトを外し、外に飛び出した。
周りも急いで自動車を降り、巨人から逃げようと後ろに走っていく。
キャンピングカーの左側面に集まる一同。その瞬間、正面の巨人兵と向かいあった場所で、また轟音が響き渡る。
その方向を向くと大きな火柱が上がり、その奥にまた別の巨人兵が居た。
「やっぱり一体じゃない!」
雪が巨人兵を見ながら呟いた。
両サイドを巨人兵に挟まれた康義達。
最初に出現した巨人兵が徐々に光を増し、破壊光線を放った。
その破壊光線は要職が居た黒い外車を跳ね飛ばし、康義達が居る場所から反対のキャンピグカー逆側面付近を通過した。
「キャアア!」
悲鳴を上げる一同。
爆炎が上がり、破壊光線が直撃した車両が宙を舞い、山の斜面に直撃し大破する。
『どうする……どうする……』
家康の脳内はフル回転している状態だ。
『……スプリンクラー……』
『……地下同……』
『……海水……』
『……水が溜まった浴槽……』
家康の頭にあるスクリーンに機能のキャンプでのシーンが映る。そして、意識が現実に戻り周囲の様子を見渡した。
「康義さん?」
「お父さん?」
何かを探す動作をする康義にさゆみ達に不安そうな表情を浮かべる。
そんなことも気が付かずに、周囲に目を配り集中して探し続ける。その時間が数秒程度、経過した。そして、康義は大きく叫ぶ。
「みんな! 道路の下にある用水路に飛び込むんだ!」
康義が指さす方向に田んぼの狭間に設置された用水路があった。
「え!?」
康義の指示に戸惑う一同。
「迷っている暇はない! 早く!」
大声で用水路へ避難を促す康義。その剣幕に何かを感じとり、康義の指示に従い用水路へと向かい始める。その最中でも周囲は荒れ続ける。周囲に並んでいた自動車には火が燃え移り、明々と炎上している。
並んでいる自動車と自動車の隙間を通り過ぎていく。そして、端に近づき鉄製の柵へと向かう。先に康義、さゆみ、雪、恵の順に柵を乗り越えていく。そして、最後になる司。
自分の番となり柵を乗り越えようとする司の心に何か到来する。不意に司は自分の背後を見渡した。そこには阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
火だるまになる人。
逃げ回る人。
叫ぶ人。
腕に深くガラスが刺さってのたうち回る人。
吹き飛ばされ力をなくし自動車のボンネットの上に倒れる人。
そこには直前に怒鳴っている様子の年配の姿もあった。
引っ繰り返り、他の車の上に重なった外国車の中で、ジタバタしている。
その様子を見ているじっと司。
その間も巨人兵が近づいていてくる。
外国車の下敷きになった自動車から発火し炎上する。
燃え上がる車両の中で、年配男性は司に視線を向けた。当然、それを見ていた司と年配男性と視線が重なった。
年配男性は司に向けて手を伸ばす。その姿に訪れようとする死を拒もうとする意志がそこには存在していた。
この世は不平等ではある。それでもどんな人間にも幾つかの平等は存在している。
その中でも代表的であるのが『死』だ。
『死』というものはどういった人間であれ早い遅いに関わらず必ず訪れるものだ。
今、目の前にある状況がまさその通りだった。。
「ああああああああああ」
燃え上がる炎火力を増し、引っ繰り返った外国車に乗る年配男性の元に近づく。
時間が流れている間もその外国車内で、年配男性が大声で叫び続けていた。
呼吸が荒くなる司。それでも足を前に一歩進めた。
ドォォォォォン!
その数秒後だった。
外国車が大爆発が起きた。
無論、外国車から年配男性は脱出できていない。
顔を腕で覆い身を守る。
その場の温度が更に急上昇する。
司は動けない。
あまりの状況に緊張感が司を襲い、体の自由や頭の思考を奪う。
「司! 司!」
背後で司を呼ぶ声が聞こえる。
その声が司を縛っていた体や思考の鎖が緩み、意識が現実に呼び戻される。
我に返り、司は背後を振り返った。
司の視線の先には、足首ほどぐらいある高さがあり青々と生い茂った雑草が生えている斜面に立っていた五人の姿があった。
「司! 早くするんだ!」
康義は大声で司に向かって急ぐように大声で叫んだ。
司はその言葉に従い柵を越えようとする。右足から柵をまたぎ、次に左足が柵をこえる。
司の体が柵を超えた瞬間、まるでタイミングを合わせたかのように司の背後を巨人兵が放った光線が通過する。
司の背後で次々と爆発が起き、爆風と炎が動物のように動き広がっていく。
「うわっ!」
まるで弓矢のように弾き飛ばされた司は斜面に打ち付けられる。そして、身体をぐるぐると回転させながら転がっていく。
「司!」
その場に居た全員が大声で叫ぶ。
転がり続けていた司であったが、全員の足元でその回転は止まった。
苦痛に顔を歪める司。身体を激しく悶えさせる。
「うぐあっ。痛いっ」
四人は即座に司の元に近寄る。
「司、大丈夫か!?」
康義は司の身体を支え、何度も呼び掛ける。その様子は他の人間も何度も声をかけた。
「だ、だいじょうぶ。大丈夫」
体中を痛みに苛まれながらもゆっくりと立ち上がる司。
恵は素早く司の片側に回り、その逆側に康義が位置し、巨人兵の攻撃で発生した爆発に巻き込まれフラフラで倒れそうな司を支えていた。
「早く用水路へ行きましょう」
さゆみの言葉をきっかけに、止っていた意志が動き始める。
「はい」
さゆみの言葉に頷く雪。
その場に居た一堂の足が動き出し、用水路へと向かう。
皆の足がせわしなく動き、斜面に生えた緑色を踏みつける。
踏みつけちぎれた雑草と土が宙に舞う。
背後で斜面が爆発がおきる。
先ほどとの量が比較にならないほどの草と土が花火のように弾け散り、濁った土煙が周囲を染めていく。
そんな後ろの様子を振り返らず、用水路へと向かい五人は急いで斜面を下っていく。
コンクリートでできた壁の半分程の高さまで水が流れている用水路の前に立った。
近くにつとその用水路は完成してから日が経っていない事がわかる程に白色が汚れていない状態だった。
「行くぞ!」
その掛け声と共に五人は流れそこそこある用水路に飛び込んでいく。激しい水飛沫が高く飛散する。この時にさっきまで乗っていたキャンピングカーが吹っ飛ばされ、宙を舞っていた。
「きゃっ!」
雪は冷たい水に肌を襲われて、思わず言葉が漏れた。
用水路に流れている水が、五人全員の服に侵入する。
飛び込んだ用水路に流れる水は、康義達の下腹部から下を包んだ。
「身を屈めて!」
康義は次のアクションを指示し、自身も身体を肩まで流水に浸らせる。
康義の声と動きが合図となり、その場に居た者達も肩まで水中に腰を落とした。
流水は前に進もうとする五人の加速装置となり、流水に飛び込んだ地点からあっという間に離れることができた。
流水に身を任せつつ移動させる康義達の向かい側では、未だに悲鳴と爆発音が響く。爆炎と黒煙が次々と発生し、上空へと立ちのぼる。次々と起こる爆発で、自動車にその部品が次々と飛んでいく。その破片は次々と五人の上を通過していく。
「あいつがくる」
恵は用水路の先から歩いていくる巨人兵を目にし思わず言葉を口にする。轟音を唸らせながら、こちらへと前進してくる。巨人兵が一歩進むごとに大きな揺れが起きる。
どんどんと距離が縮まる。
巨人兵との距離はもう僅かの位置だった。
それでも止まらない巨人兵。
進む巨人兵は用水路の上を跨ぐ様に通り越していく。
肩まで流水に沈めた五人は、移動しながらではあるが巨人兵を見つめ息をのむ。
緊迫する五人を巨人兵は無視し、前進し続ける。
康義達は少し安堵しながらも完全に緊張を抜けられない心境のまま、巨人兵に背を向けて移動のし続けた。
移動を続けていたところ、目前に石で造られた橋が姿を見せた。よく見ると石橋の近くに横穴があるのが目に映った。
「橋だ!」
その石橋を目にした司は叫ぶ。
「横穴もあります!」
雪も続く。
「あの横穴に隠れるんだ!」
康義は続く指令を大声で叫んだ。その声にときどき周囲でいくつも奏でられている雑音が混じる。
石橋の下にある横穴との位置まで、徐々に進むごとに距離が詰まっていく。
「着いた!」
石橋の下までたどり着いた五人。司は思わず言葉が漏れた。
身体を肩まで水まで沈めていた康義達は立ち上がり、横穴の入口に身を潜めた。
それぞれ着ていた衣服は、当然ずぶ濡れになっていた。
横穴から雪は顔をそっと出し、石橋の下から外の様子を見つめていた。
のしのしと悠然と動く巨人兵。その頭についているランプは未だに真ん中のランプが点滅を続けている。




