十―、焚火。
十―、焚火。
夜が空を覆う。
まるで昼間に起きたことが嘘のように静寂が広がる。
五人が円陣を描き、その中心には複数の本数が組まれた薪が明々と燃えていた。
時折、ぱちんと音が鳴り、火がはじける。
キャンピングカーは近くに停車されている。
巨人兵により破壊された自宅の中から、飲料水や保存食品、他に食器類等の物品を回収していた。
それぞれ、鉄製コップを手に持ち各人が喉を潤していた。
右手に鉄製コップを握る康義は、今日のことを思い返していた。
破壊される建物や、炎上する建物。巨大な亀裂が走る道路。時折、巨人兵達の攻撃から逃れた人々を見かける。その表情は全員が焦燥しきった表情だった。彼らも多くの友人や知人、各々所有していた財産を失っているのだろうと感じた。こうして家族と安息の時間を過ごすことができているが、康義自身、結婚し子供を育てた憩いの場所は姿形ををなくしてしまっていた。
火の粉が上空へと舞い上がり、ゆらゆらと燃えている焚火。ぱちんと音を奏でるとともに焚火の中で燃えている薪が崩れた。
「康義さん、ご無事でなによりです」
毛布に包まり抜く持った鉄製のコップを両手で握り、体温を温めつつさゆみは視線を康義に向ける。
「さゆみも無事でなによりだよ。恵に司、雪ちゃんも」
康義はしみじみと今の想いを言葉にして吐露する。
その康義の様子に全員の視線が集中している。
恵は視線を康義に固定しつつ、そのまま大きく縦に頷いた。
司は両手に持ったコップを口元に近づけ、湯気が立つココアを喉へと流し込んだ。
恵は視線を康義に固定したまま言葉を投げかける。
「お父さんのところにも巨神兵が現れたの?」
「ああ。ちょうど午後二時に」
「父ちゃんのところもなんだ」
そう言葉を漏らす司の脳裏に午後二時の情景がフラッシュバックする。
「午後二時になった瞬間に地面からモグラのように掘り起こして次々と出現して、その場にいた学生や職員達に襲い掛かった。そして、俺の居た建物にも矛先は向けられたけど、なんとかスプリンクラーでずぶ濡れになりながら、崩壊寸前の建物から避難しここまで向かったんだ。司のほうはどうなんだ?」
「俺? 俺は新宿に真由達と居て、そこであの巨神兵達と遭遇したんだ。俺たちの時はまるでテレポーテーションみたいに光の中から突然姿を現したんだ。俺達は何とか地下鉄で避難できたけど、あいつら巨神兵に襲われ二郎と真美は……」
司の言葉に、真由は康義への視線が外し地面をみつめる。そして、コップをさらに深く握り徐々に表情が曇っていく。
「姉ちゃんは?」
司は恵へと話題を向けた。
「私は待ち合わせに向かう最中に午後二時なって、それと同時に沢山の巨人兵が海中から現れて街を襲ってきたわ。私は巨人兵達が発生した津波が襲われてもうずぶ濡れよ」
それを言葉にし吐き出す恵はどこか重さを感じる。
「さゆみさんもそんな状況だったの?」
康義からさゆみへと会話のボールが投げられる。
「ちょうど午後二時はお風呂清掃を始めようとしていたタイミングだったの。すると激しく揺れてそのままお風呂に落ちちゃったの。そのままずぶ濡れになっちゃた状態のままで、外を確認したら巨人兵が居たの」
康義から投げかけられた言葉のボールを受け取ったさゆみは、午後二時のことをとつとつと自分の言葉で話していく。
「次々と家や建物を壊す様子が怖くなって浴槽に身を伏せていたら、そのまま気を失ってしまったの」
さゆみの言葉に耳を貸す四人。四人の脳内のスクリーンにはさゆみを発見した時の様子が瞬間的に映し出される。
少しの間、静寂が広がる。
燃えている薪がはじる音や鳥の鳴き声のみが響く。
「お父さん。あの巨大なものはなんだと思う?」
その静寂を五人の中で最初に解き放ったのは、恵だった。
「わからん。正直なことを言ってあんな人々の知識を凌駕する存在は少なくとも私の知る限り存在しない。あいつはもう空想と同等の産物と言っても過言ではない」
「あんなのもうSFやファンタジーの世界だよ」
司は巨人兵を眼にした感想を呟いた。
「ただ、わかっていることは司の言っている通り、人類の常識を超越した存在で、そして、人類に対して明らかな敵意、いや、殺意を持っているってことだな」
「うん。お父さんの言う通り行動が明らかに人間への殺害を目的とした行動をしてる」
お互いの気持ちや意見の交換がなされる中で、雪はその中で疑問を零す。
「そうすると何故彼らは急遽去っていったのでしょうか?」
「わからない。ただ、奴らが何故人を襲うことに比べて、推測は考えやすいと思う」
「康義さん。それはどういった?」
さゆみは顔を康義に向けたまま話す。
「どんな条件かはわからないが、あいつらに何らかの制限時間が設定されているんだと思うんだ。そして、その条件が発動し、彼らは姿を消したということだ」
「確かに」
康義の言葉にその場に居た誰もが納得をした。
夜は静かに更けていく。




