↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/40

第28話 春と冬の間にあるもの

 あたたかな温もりに私は幸せな気持ちでいっぱいだった。

 ノアが目を覚まさなくなってから、寂しさは募るばかりで、今思えば不安だったのだろう。でも今は穏やかな気持ちでいられる。


 いつからだろう。

 頬に当たる風は心地よさが消え、少しだけ肌寒くなる。身を縮こませていると、誰かが頭を撫でくれた。体を抱き寄せて急に暖かくなる。誰?

 うっすらと意識が浮かび上がる中、聞こえたのは低い声。

 聞き覚えのある──優しい声だ。


「サラ」

「ん……」


 想い瞼を開くと──世界はオレンジと黄色に色づいた森が広がっていた。

 森に降り注ぐ紅葉や銀杏の葉が絨毯のように敷き詰められていた。


「おはよう」


 顔を上げると私の傍らには、六つ目の獣が目を開いていた。艶やかな黒い毛並みだったのだが、私が目を覚ますと、人の姿へと変わった。

 燕尾服を着こなした偉丈夫へ。濡れ烏色の外套(がいとう)を纏い、黒く(つや)やかな長い髪、造形の整った顔立ち、白い肌、琥珀(こはく)色の双眸はとても愛おしそうに私を見つめていた。

 そして私を横抱きしながら、こつんと額を合わせる。自然と唇が重なり合う。

 彼との再会に私は涙が止まらなかった。


「ノア……ノア!」

「泣くな……。お前に泣かれると弱い」


 涙を拭う仕草は優しい。私の涙を止めようと、彼は頬にキスを繰り返す。

 それがくすぐったくて、少し恥ずかしい。


「やっぱり私が眠ったから……」

「いや、オレの魔力は空っぽだったからな、数百年ぐらいは眠っていたはずだ」

「数百年? でもまだ百年しか……経ってないけど?」

「……目覚めを速めたのは、お前が春の妖精となったからだ」

「私?」


 小首を傾げる私に、ノアは目を細める。いつの間にか凍てついた表情を見せていた人が、柔らかな笑みを見せるようになった。それが堪らなく嬉しい。


「オレとお前は番ゆえ、魔力は繋がっている。だからこそ春の妖精としてお前が百年、この森を守ったからこそ回復が早まったんだ」

「…………!」


 私は彼の言葉にまた泣いた。傍に居た私の選択は間違いじゃないということが嬉しかった。

 ノアは私の長い髪を()くように撫でる。


「前の髪の色もよかったが、今の色もお前に会っている」

「本当?」

「ああ」

「ノア、好きよ。大好き」

「ああ。ようやくお前からその言葉が聞けた。オレも──お前を愛している」


 再び唇が重なると、甘く幸せな味がした。


 ***


 春の妖精の私と、死を司る──冬の妖精であり、精霊のノア。二人が一緒に居ることのできる季節。それは春と冬の中間にある短い夏と秋だ。普通は秋の方が短いのだが、ノアの治めている領土の気候は秋の方が長い。

 オレンジに緋色、黄色に橙──鮮やかな森の色合いに、私とノアは獣道を歩む。ただの散歩だったとしても、愛しい人と一緒に歩くのはそれだけで胸が弾んだ。私たちのゆく道にコボルドや大気の精霊(エアリアル)が祝福してくれる。


「しかし、お前の望みが一緒に森の散策とは……」

「他にもありますよ」

「それは初耳だ」

「人間らしいと思うかもしれませんが、花嫁になってみたかったんです。白の薔薇と、セントジョーンズワートとフォーゲット(わすれ)ミー・ノット(なぐさ)で作ったブーケを手にして、貴方の花嫁になれたら素敵だなって……」


 ノアが眠っている時に、願った夢。いろんな人たちから祝福を受けた結婚式──それこそ夢物語だとわかっていても、人間だった憧れは私の中に残っている。

 そんなことを話したら、ノアに失望されるかもしれない。そう思っていたのだが、言葉に出てきてしまった。


「結婚式か。オレにはよくわからないが、サラ。お前が喜ぶならやろう」

「え?」

「そうだな。せっかくなのだオベロンを巻き込んで、盛大にやるなら春先ならオレも起きていられるだろう。雪解けで春の花が芽吹く頃なんかはどうだ?」


 ノアは私の顔を見ると、フッと微笑んだ。


「オレの番の願いなのだ。叶えてやりたいと思うのは当然だろう」

「でも、その……」

「お前の望みをオレも叶えたいし、サラには笑っていて欲しい。それともオレのような獣では嫌か?」

「嫌じゃない!」


 言い切る私にノアは幸せそうに笑みを深めた。


「なら決まりだ」





後数話で最終回です♩.◦(pq*´꒳`*)♥♥*

いつもお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。