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第26話 ずっと一緒

 次に意識を取り戻すと、巨大なクレーターの傍に倒れていた。周囲を見渡すと深緑色の森が広がっており、被害はこの森の中心だけだった。あれだけ咲き誇っていた青い花は散ってしまったようだ。

 地面を抉るクレーターとその中心にある漆黒の結晶が、黒い獣の胴体を貫いていた。


「な、ノア!?」


 私は彼のもとに駆け付けようとするが、先ほどの衝撃で片足も崩れ落ちていた。這うようにノアの元へ向かう。血が広がっていくのを見て、私は彼の名を呼ぶ。


「さ……ら……」

「ノア。どうして、貴方一人だけなら避けられたでしょう!?」


 私は彼の黒くて美しい毛並みを撫でた。赤い瞳が私を見つめる。

 しかし、その瞳は弱々しく今にも閉じそうだ。


「独りで生きても、楽しくなくなったからな。今更……お前のいない生き方は、考えられない」

「そんなの……私も一緒だよ」

「そうか。……一緒、とは……ぞんがい……悪くないものだ」

「うん……」


 意識が朦朧(もうろう)とする中、私はノアに寄りかかる。心音がどんどん小さくなっていく。

 私は頬から涙が止めどなく溢れた。もう拭う力もない。

 ここで一緒に眠るのも悪くないのかもしれない。そう思った時だった。


「なんて好都合なのだろう。これでエーティンの魂を回収する手間が省けた」


 下卑(げび)た声が耳に届く。

 かすかに意識があった私は(まぶた)をこじ開けると、藍色の外套(がいとう)を羽織った人影が見えた。誰だがすぐにわかった。

 精霊魔術師レムルだ。あの狭間から脱出して、私たちを追いかけてきたのだろう。


「これでお前の魂を連れ帰れば、因果律の研究が進む」

「……ぐっ」


 魔法を紡ごうとするが、もはやそんな余力は残っていなかった。


「ノアと……離れるなんて、いやッ……!」

「オレもだ……サラ」

「!」


 巨大な腕がレムルをとらえる。ジタバタを動く男は魔法を放ち、連続的な爆発を起こした。いくつも魔法陣が宙に浮かび、そのたびに攻撃がノアへと直撃する。

 血しぶきが森に注がれる。それでも、ノアはもう片方の腕で私を覆って爆風を防いだ。


「ぐっ……」

「ノ……ア!」

「死ね死ね死ね! バケモノが!」

「そこまでだ」


 冷徹な声がレムルの攻撃を全て却下(リジェクト)した。まるで魔法そのものを封じたかのようだ。


「二人とも遅くなってごめん」


 そこに駆け付けたのは、丘の精霊王ミデルだった。彼はレムルを睨みつける。


「よくも長い間、エーティンを苦しめてくれたな。時守りの一族」

「なぜ、それを……」

「オベロンから空間の事を聞いたからね。君らは多世界への観測するだけの存在だったはずなのだけれど、干渉と改変を行った結果、滅んだ」


 レムルは忌々し気にミデルに向かって叫んだ。


「ああそうさ。人や妖精。様々な運命を変えて、楽しんでいたのか時の神(クロノス)にバレてね。だから自分らの因果律を変える存在を探すことにした。自分らが滅ぶ前に戻る力を持っているかもしれないのなら、手を出すだろう?」


 気のせいだろうか。ミデルと一瞬だけ目が合った気がした。

 だが私が瞬きすると彼はレムルへと視線を戻してのだから、気のせいかもしれない。


「過去をやり直すことは出来ない。どんなに愛おしい存在でも、無かった事にはならないのだから」


 私の意識が覚えていたのはそこまでだ。

 最後に告げたミデルの言葉が私の魂に突き刺さる。かつてエーティンが愛した人。今回のことで彼が過去から解き放たれてくれたらいいのに。

 そんな勝手なことを願ってもいいだろうか。

 遠のく意識の中で、私はノアにそう尋ねた。結局、好きだという思いを伝えることは出来なかった。けれど、一緒なら寂しくはないのかもしれない。



 ***



 真っ暗闇の中、青い花が一面に咲き誇る。

 巨大なヴィーヴルの前にかつて約束をした青い花の元に降り立つ。羽根は美しく、かつての姿に戻ったヴィーヴルは再会を果たす。

 それは幾年月ぶりになるだおるか。約束を果たすために互いに足掻いて、ようやくたどり着けた目的地。


「遅くなってしまったか?」

「いいえ。私も貴方と似たようなものでした」


 二人は少し先で倒れている黒い犬の姿をした死の妖精王と、ホムンクルスのなれの果てへと視線を向けた。寄り添い会い、眠るように死の淵にある彼ら。

 本来であれば、もっと早く巡り合うはずだった二人。それを引き裂いたのはヴィーヴルであるドラゴンと、青い花の精の我儘な願いに固執したからでもある。

 エーティンの魂は長い年月をかけ妖精界に戻ってきていた。そして春の妖精姫として転生するはずだったのだが、東の森が枯れていたため魂は再び人間界に引き寄せられてしまった。


「私たちの大樹から生まれてくるはずだった、あらたな妖精姫」

「今度こそ、我らの王を傍に──」


 漆黒の結晶と青い花は溶け合って一つの生命体へと姿を変える。それは巨大なケヤキの木となった。数十メートルを超える巨木はホムンクルスの体を飲み込み、片割れに居た黒い獣の傷を癒す。

 森が歌う「LA……LAAA」と子守歌(こもりうた)のように。

 優しく温かなメロディが森に広がる。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマ・感想・レビューなど、ありがとうございます。執筆の励みになります(*´ω`*)

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