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第23話 奪還

 ***


 地鳴りのような低い唸り声が聞こえた。ああ、追いかけて来ている金色はなんだったか。苛立ちが募り、我はさらに加速した。

 何か大事な事を我は忘れている。

 あてもなく時空を超えて、彷徨い続ける。体を蝕む呪いを纏ったのはいつだったか。様々な世界に呪いを撒き散らしながら──それでも飛び続けていた。ボロボロの羽根は呪いの塊がこびりついて黒々とした外皮に変わっていく。もはや自分自身が竜ではなく、邪悪なる何かになりつつあった。

 だがそんな事はどうでもいい。

 探さなくては──約束を果たさなければ……。


 ──何を? 目的地は?


 自問自答を繰り返す。もう何度目の問いかけだか分からない。ぐるぐると同じ場所を巡っている。

 永遠に会えないのだろうか?


 ──誰に? 戻る場所とは?


 考えると体に纏っている呪いがじくじくと痛み出す。もう面倒だと思考を放棄しかけた時。


「Laー」


 声が聞こえた。いや唄だろうか。懐かしい。胸が掻き毟られるような──切ない想いがこみ上げてくる。過去を思い返そうとしても記憶は黒く塗り潰され、ノイズしか聞こえなかったのに、今は断片的な映像と唄が過った。

 

 緑豊かな森。

 雄大な空。同胞の群れ。

 森の傍に咲き誇る──青い花。

「ヤクソク、ツガイ、ネムルバショ、モドル」

 思い出したのはそれだけだった。けれどそれだけで十分だ。


 ──痛みが引いた? ああ、その唄をもっと聞かせて欲しい。今──そこに行こう。


  

 ***



 眩い光と共に轟音(ごうおん)が響いた。

 けれどそれは魔法円の爆発よりも早く──空間をぶち壊して真っ黒なドラゴンが突っ込んできたのだ。次いで金色のドラゴンまでも飛び込んできた。


「この空間を突き破って来ただと!?」

「な、なんでドラゴンが……?」


 彼らは軽く舞っているだけなのだろうけれど、その羽ばたきによって私やベリルはこの葉のように上空へと吹き飛ばされる。

 轟ッ!

 刹那魔法円の爆発よりにより、私の体は上昇する。爆死は防ぐことができたが、浮かび上がっていられたのも数秒だけだ。

 重力によって体が落下する。私は周囲を見渡すとベリルの姿を見つけて急いで彼女に抱き着く。このまま頭から落ちたら即死だ。それだけは何としても回避しなければならない。私は床に向かって呪文を唱えるのだが──。


 ──ガアアアアアアアアアア!!──


 巨大な二頭のドラゴンが旋回し、息吹(ブレス)をぶつけ合う。私とベリルはその余波で壁に激突する。どこまでも広がっているように見えても、実際は見えない壁があったのだ。


「かはっ……」


 今の衝撃で私はベリルを手放してしまう。慌てて手を伸ばすとミシミシと石化した腕が軋む。


 ──届かない。このままじゃ……。


 私は唇を開いた。出てきた言葉は呪文ではなく──。


「ノア……」


 消え入りそうな呟き、目を閉じた。脳裏にはノアの姿がはっきりと浮かび上がる。


 ──この呪文を使えばベリルだけは、助けられるかもしれない。


 ぐっ、と唇をかみしめ、覚悟を決めようとするが気持ちが揺らぐ。ノアの名を口にしなければよかった。思い出さなければ──私は頭を振った。


「諦め……るもんか……!」


 私とベリルは助からなきゃいけない。帰りを待っている人達がいるのだから! その為にも口にしかけた魔法を即座に変更する。


豊穣の源よ(ラグス)旅の守りに加護あれ(ライゾ・アルジズ)


 天色(あまいろ)の風が吹き抜けると、私とベリルの落下速度を緩めた。この速度なら即死はないだろう。打ち所が悪くなければ、だが。

 未だに二頭のドラゴンの争いは終わらず、さらに過激で派手に暴れまわっている。


 ──ああ、もう! 乱入した時は有難かったけど、殺し合うなら他所でやって!


 私はそう思いながら黒いドラゴンへと視線を向けた。とちょうど、そのドラゴンと目が合った。遠目だったにもかかわらず、翡翠色の瞳が大きく揺らいだように見えた。


  ミ ツ ケ タ。


 テレパシーとは違う。けれど、ゾッとするような声に、私は体が硬直して動けなくなった。呼吸も上手く出来ず、魔法の効果がプツリと途切れてしまい──私たちは一気に落下する。


 ──だめ、この高さじゃ!


 手を伸ばす。だが、空を掴むばかりで、何か縋ることも出来なかった。


 ──助けて……。誰か……。


 絞り出すように私は唇を開いた。


「ノ……ア……」


 轟ッツ!!

 目の前の空間が切り裂かれ──そこから黒髪の偉丈夫(いじょうふ)が姿を見せる。


「サラ!!」

「おお、ナイスタイミングだったね」


 黒い外套を羽織ったノアと、赤いローブを纏ったオベロンが視線に入り込む。そして次の瞬間、ノアは私を抱き寄せた。ベリルへと視線を向けるとオベロンが既に抱きかかえているのが見えた。


 ──え、え、ええ!?

 

 私は夢でないかと瞬きを繰り返す。その間にノアは横抱き──お姫様抱っこをするので、不覚にもドキリと心音が高鳴った。


「迎えに来るのが遅くなってすまない」

「ノア……。夢じゃ……ない?」


 ノアは私の額にキスを落とし、「当たり前だ」と耳朶(じだ)に届く。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマなどありがとうございます。

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