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第21.5話 招かれざる客

 ──妖精化? あ。ノアが言っていたホムンクルスが延命できる方法だっけ。妖精化する前までは支配下におかれても、妖精になってしまえば自由だ。私の場合はノアの加護で上書きされているし……。


 私が考え込んでいるとベリルは一歩詰め寄った。そっと両手は私の腕を掴む。


「だから、お願い。ねえ、──()()()()

「!?」


 涼やかな声から一変して、低い男の声へと変わった。私を見つめていたエメラルドグリーンの瞳は薄暗い赤紫となり、一瞬でベリルではないと気づく。


「貴方は……!」


 精霊魔術師レムル──そう即座に理解した。勘のようなものもあったけど、こんな事をするのは彼以外に考えられなかった。どこまでも私たちを物としてしか見ていない男。精神だけベリルから乗っ取ったのだろう。これなら人質として手が出しようがない。


「ベリルの中から出て行って……!」

「静かに。お前の姉妹たちが死ぬのは見たくないだろう」

「……貴方の記憶を覗いた時から思っていましたが、最低な方ですね!」

「褒めてくれてありがとう。……ああ、叫んでも結界を張ってあるから、無意味だよ。それに人除けの術式も展開している。……とはいえ妖精相手では時間もないから早速本題に入ろう」

 ──なんとかしてノアに連絡を……。


 私は自分の影に視線を落とすと、影が揺らぎ獣の目が見えた。「ノアを呼んで」と心の中で念じると、獣は影の奥深くへ潜ってしまった。


 ──つ、伝わっているならいいのだけど……。

「率直に言ってお前には死んでもらう。そうすれば因果律(いんがりつ)、運命の輪を超越した原因をじっくりと調べることが出来るのだからな」


 ──因果律? 運命の輪? ううん。そんな事より解剖するから死ねって……!


 私は距離を取ろうとするが彼女──レムルは腕を離す気はないようだ。爪が食い込むほど強く掴んでいる。


「何言っているの? 私はノアの《つがい》で貴方の呪縛からは──」

「ああ。命令系統は完全に解除されてる。だから自分がここに顔を出す羽目になった! ……が、それはいい。この目で呪印が発動しているか確認もできたしな」

「呪印?」


 レムルは下卑(げび)た笑みで口元を歪めた。ベリルの体と言うのに、中身が違うだけでこれだけ醜悪な顔になるだろうか。怒りよりも恐ろしさの方が増す。


「そう。エーティンの魂に刻まれた呪い。ミデルと出会うことによって発動するものだ。今まであの男が会えなかったのは、偶然でもなんでもない。第一王妃の呪いによって死を(たまわ)っていたのだから!」

「なっ……」

「何度転生しても魂の呪いは解かれない。あの男が愛しいモノを諦めない限り……っくくく」


 残酷な事実に私は目眩を覚えましたが、なんとか踏み留まりました。


「まさか……。私が事故に遭ったのも……」 


 レムルの言葉には真実味があった。心当たりがあったのです。あの日、私は配達用のバイクでブーケを届けようとした矢先に事故に遭いました。バイクの運転は慣れていましたし、安全運転を心がけていた──それに信号は青。過失はなかった。

 目の前のトラックが対向車線の乗用車と激突。


「あれも偶然ではなかった……?」

「そう、自分がミデルに話したんだ。お前の想い人はあの時代に居る──と。ホムンクルスの中に、その魂を入れるためにも人間のままで生きていられるのは困っていてね」


 悪意をさらりと肯定する。

 彼は毛ほども後悔も、罪の意識もないのだろう。私は叫んだ。


「なんでそんな酷いことが出来るのですか!」

「楽しいからさ。妖精は疑う事を知らないから特に騙しやすい。実にいい被験者だったよ。人間よりも奇天外(きそうてんがい)で過激で愉快な連中だと思わないか? 遥か昔、「愛」を理由に人間に転生したエーティン姫を、妖精界に連れ戻すなんて人攫(ひとさら)いよりも酷いだろう?」


 私は衝撃が強すぎて言葉が出てこなかった。いろんな人の人生を滅茶苦茶にして、傷つけて──それを笑っている眼前の男は化物以外の何者でもないだろう。


 ──あれ? でもそれなら、今の私がミデル様に会えたのはどうして? 何も起こらなかったし……。ノアの加護?

「さて、そろそろ次の術式が機能する頃だ」

「!?」


 私は周囲を見渡すと、円状の魔法陣が組み上がっていた。いつの間に作り上げたのか分からないほどその文字は複雑ですさまじい熱量を発している。


「場所を変えさせてもらう。ああ、お前が何かすれば、この体が先に屍になるので気を付ける事だ」

「……!」


 蒸気が一気に吹き出し、私は目を空けている事すらできず目を(つむ)った。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


完結まであと少し。楽しんで頂ければ嬉しいです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューもありがとうございます。執筆の励みになります(●´ω`●)

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