第21話 姉妹
唐突な──それも聞こえ方によっては不躾な質問に対して、ミデルは顔を俯けると両肩を震わして──いきなり笑い出した。
「え?」と私は思わず固まってしまった。今日はオベロンにミデルとよく笑いだすものだ。「妖精ってみんなそうなの?」と、考えていると。
「あー、まったく。後で驚かせようとしたのに、このタイミングでその質問をするなんて……!」
それは五十代の落ち着いた初老の出す声ではなかった。もっと若くて張りのある──耳に残るものだった。姿も泡のような光によって変わっていく。淡いエメラルドグリーンの長い髪、背丈は百八十センチを超える長身、彫刻のような整った顔立ち、少し尖った耳、外見だけなら十代後半のエルフ族の美男子に近い。しかしエルフと異なるのは背中の羽根だ。若草色の美しい蝶の羽根が広がる。服装もいつのまにか甲冑姿から黒の燕尾服へと変わっていた。
「えええ!?」
「ああ、いいね。今の表情」
悪戯が成功したと言わんばかりに、彼は満面の笑みを浮かべた。
「五十代からいきなり十代後半の美男子になるとか、意味が全然分からない……」
「だから驚かせようと思ったんだよ。失敗したけれどね」
「……は、はあ」
驚かせる。ふと私は「ノアも似たようなことをしているのだろうか」と考えた。彼も妖精だし、時々現れる六つ目の獣は、彼が居る時は必ずノアはいない。
「あ、もしかして妖精は、みんな二つの姿を持っていたりするのですか?」
「個体差はあるだろうけれど、二つといわずいくつもの姿はあるかな」
そう言った後で、ミデルは「それじゃあ、感動のご対面だね」と薔薇庭園の入り口へと視線を向ける。そこには一人の美女が佇んでいた。
「サティ」
鈴の音のような声は、私の事を指しているよう聞こえた。
彼女の姿に私は目を見開く。
瞳は長い髪と同じ色のエメラルドグリーン、肢体の発育はよく外見は二十代、豊潤な胸、くびれた腰回り、白い肌にクリーム色のドレスを纏っていた。ティターニアのドレスが清楚だというなら、彼女のは背中が開いており、胸元も開けていて大胆で色っぽい大人のデザインだ。
「エーティン?」
「ふふ、半分正解で外れね。私はミデル様からベリルという名を頂いたのよ」
地下室であった時とは比べられないほど彼女はより美しく、もはやホムンクルスではなく妖精であった。背中に生える翠色の羽根がいい証拠だ。
「ベリル……。ええっと、サティってもしかして私のこと?」
「ええ、ミデル様から貴女がサラだと教えてもらったのはつい最近なの。だからその前まで貴女の事をみんなでサティと呼んでいたのよ」
私はミデルに視線を向けると「その通りだよ」と穏やかにほほ笑んだ。
──なんだこの爽やかイケメンは……。さっきまで五十代の老紳士だったのに……。反則じゃないか。心臓に悪い。ノアもそうだけれど、妖精はみんな、なんというか悪戯心がはっぱないわ。
ミデルとベリルが並ぶと、美男美女が一枚の絵のように完璧で直視できない。
──うわあぁ……、モブ同然の私が同じ空間に居るのが心苦しいレベルなんですけど! 眩しすぎる……。
「名残惜しいけれど、私は少し席を外そう」
「ん?」
「すみません、ミデル様」
「姉妹で話したいこともあるだろうから、薔薇庭園をぐるりと散策してくるよ」
完全に状況を把握していない私は、美男美女の会話に入ることすらできなかった。無念です。ミデルが去るとベリルは私へと振り返ります。
その表情は先ほどのような朗らかなものではなく──顔が強張っていました。
「サティ……。ううん、サラ……、貴女にお願いしたことがあるの……」
彼女は声を潜めて懇願する。その瞳は先ほどのようなエメラルドグリーンのような美しい宝石と打って変わって酷く怯えているように見えた。
「私にお願いって?」
「私たちを作り出した……魔術師、レムル様のことでどうしても協力して欲しいの!」
「!?」
その名前を聞いただけでゾッと背筋が凍り付いた。不穏な呪いの言葉のようにそれは私の心を掻き乱す。
「あの人がどうしたの? 貴女たちに酷いことをしているとか?」
「私たちはあの方によって作られた紛い物……。ミデル様の加護があっても完全に妖精化するまでは、あの方の支配下なのです」
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