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第20話 エーティンという妖精

 エーティン……。

 トゥアハ・デ・ダナンの神々がアイルランドで巨大な権力を有していた時代。林の妖精王の娘だったエーティンは美しく、ミデルは彼女を第二妃として迎えた。みな祝福し、二人は幸福な日々を過ごしていた──第一妃であるファムナッハの魔の手が伸びるまで。

 嫉妬に狂ったファムナッハはエーティンを排除するためにあらゆる手を駆使して、ミデルと引き離そうとした。ある魔術師の呪いによってエーティンは羽虫に姿を変えられてしまう。それでも彼の傍にいようとしたエーティンに嫉妬したファムナッハは、彼女を海の荒波に吹き飛ばした。エーティンは海を七年もの間漂う。そして八年目のある日、激しい風に煽られ──アイルランドのアルスターという地域に飛ばされると、とある王の妃の口に入ってしまい──それによって人間の娘として転生する。ざっくり言ってそんな記憶だった。波乱万丈な人生である。


 私の話にミデルは相槌(あいづち)を打って耳を傾けてくれた。彼は酷く後悔をしているようだった。だからでしょうか、彼の纏っている姿がなぜか無理をしているように見えてたのです。

 痛々しいほどに茨の道を歩いているような──。


(おおむ)ねキミが話した通りだ。その後、彼女を探し出した私は──再び妖精界に連れ戻した。今度こそエーティンを幸せにしようと誓ったんだよ」

「でも──エーティンは妖精に戻れずに、人のまま老いて亡くなったのですよね」

「ファムナッハの雇った術者は優秀だった。もし、彼女が妖精界に──私の元に戻った時の事を考えて呪印をかけておいたそうだ」


 彼はグッと拳を強く握りしめた。ずっと後悔していたのだろう。最愛の人を取り戻したと思ったのもつかぬ間、人間と妖精の時間はあまりにもかけ離れている。


「私は彼女に呪印を施した術者を見つけ、エーティンの転生者を探すように命令をしたのだが見つけ出すことが出来なかった……。彼女の魂は酷く弱っていたので、再び妖精として生まれることは難しかったようだ。人間として何度か転生を繰り返す。私が向かった時には、亡くなった後で──間に合わなかった」

「ずっと探していたのですか」

「まあね。それと同じくして妖精界のバランスも崩れ始めた。《つがい》が居ない妖精の王たちは力そのものが半減してしまう。私は第一妃と別れてから誰も(めと)らなかった。……私の伴侶(はんりょ)はエーティンだけ」


 時間がなかったミデルは、術者に他の方法がないのか尋ねたそうだ。そして返って来た答えは、ホムンクルスによる人工的な転生。散らばった魂の欠片を集めて作り出したという。それが十三人のホムンクルスであり、私でもあった。

 けれど私は人間だった前世の記憶がある。途中で混じってしまったのだろう。そう私が思っていたのだが──。


「サラ、キミは人間の記憶を持っていたと術者に聞いた」

「は、はい」

「そしてキミに会って確信したよ。……キミこそエーティンの魂そのものだと」


 唐突な告白に私は眼前の男──ミデルが何を言っているのか頭に入ってこなかった。困惑する私に彼は言葉を続けた。


「君は錬金術が使えると思っているのかもしれないが、使っているのは古代ルーンによる魔法だ。物質を変えるものも生前、君の使っていた魔法によく似ている」


 ミデルの向ける眼差しは火傷してしまいそうなほど熱い。私に対して向ける感情は恐らく、エーティンに向けたものと似た──。


「あの……。でも、私は──」


 ノアの《つがい》である。そう言おうとして、彼は私の唇に人差し指を押しあてた。

「しっ」と囁き、


「わかっている。キミはファンヴァラの《つがい》なのだろう。それにキミを救ったのは私ではないし、今さら戻ってきてほしいなど──」


 それまで饒舌(じょうぜつ)だったミデルの言葉が途端に途切れた。彼は唇をかみしめて、私を見つめる。エスコートと言ってそっと繋いでいた手が熱い。


「連れ去りたい──とは思うけれど、無理やりはしない。キミが望む場合だけ」

「あ。ありがとうございます」


 ミデルは本気だとすぐに分かった。長い間、ずっと苦しんできたのだろう。それはきっと彼が真面目だから。道化染みた言動も全ては本質を隠すため。


 ──なんで隠しているのだろう?

「ファンヴァラに酷いことをされたら真っ先に言ってくれ」

「は、はい……」


 言葉にしてみたが、ノアが酷いことをする姿など想像できなかった。仏頂面(ぶっちょうずら)で言葉足らずだが最初に出会った時からなにかと面倒を見てくれた。それが《予言の娘》であったとしても──。


「……ファンヴァラは今まで恋なんて感情を知らない堅物だからね。基本、ずっと寝てばかりだったし、キミへの気持ちもつい最近気づいたようだし」


 悲痛な顔を隠して、笑みの仮面を被る。

 ふざけた様な言い回しに、軽い言葉。無理をして──傷だらけのミデルに、私は口を開いた。


「あの……」

「なんだい?」

「その姿や口調は──」


「ニセモノなのですか?」と口走りそうになって、私は言葉を切った。もっと違う言葉を探す。頭を巡らせ、言葉を駆使した結果──。


「ミデル様の趣味なのですか?」

「!?」


いつも読んでいただきありがとうございます。

旧:私事ですが、死の精霊王と番になりました

タイトルを今回変えました!


新:転生したら妖精王の花嫁候補でした

内容を少し変えたためです(о´∀`о)

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