《幕間》 ファンヴァラの心情2
「私専属の精霊魔術師が、妃を蘇らせてくれると言ってくれてね。だから試しに願いしてみたんだけど、十三人目の子だけ脱走しちゃって」
「……その件に関しては手紙に書いたつもりだが?」
「うん、読んだよ。それにエーティンと彼女の姉妹たちからも事情も聞いたから、別にいいんだけどね。キミからも《世界樹の種》も貰ったし」
「ならこの話を続ける必要はないだろう」
ミデルと話を終わらせようとするが、執拗に話を続けようとノアの腕を掴んだ。
「そう、私はそれでいいし、キミもそう決着をつけたつもりだけど──十三番目はどう思っているんだろうね」
ミデルは悪い奴ではないのだが、サラの事を《十三番目》と呼ぶたびに苛立ちが芽生える。
まるで彼女をモノのように扱っているようで──いや、もっと違う感情がノアの胸をかき乱す。
「……それで?」
酷く冷めた声でミデルに言葉を返す。
「だから、十三番目の子がちょーっと勘違いしていたから、直接会って誤解を解きたいと思っているんだ」
「……誤解?」
ミデルは自慢の髭を弄りながらニマニマと笑った。
「十三番目はさ、十三人の内からエーティンとなる妃を一人だけ選び出して、残りは奴隷か廃棄する──と勘違いして逃げ出したらしいんだよね」
「オレもそう聞いていたが?」
「まあ魔術師の方は、そのつもりが多少はあったかもしれないけど、私はそれを望んでない。どんな形であれ私の愛するエーティンなのだから」
ミデルの愛という言葉に、ノアは眉を吊り上げて口元を歪めた。
「奴隷にする気はないから戻ってきてほしい、……と?」
怒気の含んだ声に、ミデルは慌てて両手を上げた。
「彼女が望むのならね。もちろん、無理やりなんて考えてないよ。ただ事実を告げておいた方が、彼女の為にも良いと思ったんだよ。ほら、今後の事とか」
「今後?」
「何を企んでいる?」と喉元まで言葉が出そうになるが、何とか堪える。ノアは自分が感情的になっていることに自分で驚いていた。
「キミも彼女がホムンクルスだって知っているだろう?」
「ああ」
「エーティンとその姉妹たちは私の庇護下に入るから、一年かけてゆっくりと妖精へと生態が分かっていく。まあ、妖精界にずっといるということは、#そういうことだからね__・__#。……でも十三番目は妖精になる気があるのかな?」
「さあな。オレはどちらでもたいして気にしない」
「寿命が四年でも?」
「……オレは《つがい》として契約をした。それで寿命が延びる。何の問題も──」
「なら体は? ガタがきているんじゃないの?」
「……!」
そう言われてノアは言葉に詰まった。彼女の頬の亀裂は治らない。マナによる回復も、花の精たちの魔法も効果がなかった。
「妖精界ならマナが満ちているから十三番目もすぐに妖精に体が作り替わる。魔術師の話だと私たちと同じ人の姿のまま背中に羽が生えるらしい。私の所にいる十二人は、もう半数ほど背中に羽根が出てきているんだ。十三番目はどうだい?」
「……そんな兆候はない」
絞り出すように言葉をつぶやいた。
「まあ、だろうね」
ノアは歯を食いしばり己の無力さを呪った。
大丈夫だと思っていた彼女は、サラは死なない。そう思って、願って──勝手気に対して目が覚めるのを待っていた。ミデルの言葉が胸に刺さる。
「キミのところはつい最近までマナが枯渇していた死の森だ。良くそんな中で十三番目が生きていたと思うよ」
「何とかする方法があるのか……」
「うん。マナがもっと溢れている私の──」
「僕の屋敷に連れてくるといいよ」
唐突に現れたのは金髪の少年──妖精王オベロンだ。
音もなく、気配すらなく。
「オベロン」
「話は聞かせてもらったけど、ミデルの屋敷はノアの所から距離があるだろう? 《つがい》は出来るだけ離れない方がいいしね。ボクら妖精の愛し方は人のそれとは違って加減なんてしないし、極端だ。人間界から連れ去ってくるぐらいの強行に走るし、なんら媚薬を使ってちょっかいを出す」
少年の姿だが、その燃えるような紅玉の瞳でノアとミデルを見据えていた。けして大きな声ではなかったのだが、それでも彼の存在を二人が無視することは出来なかった。
先に白旗を上げたのはミデルだ。
「分かってるって。オベロンの屋敷なら環境的に一番いいだろうし、ノアのところも近い。なによりボクも顔を出せる。まさに見事な折衷案だ」
「一応これでも妖精界を取りまとめるのが役割だからね」
オベロンは「へへん」と無邪気に胸を張った。
「それで、ファンヴァラはどう?」
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