第11.5話 お屋敷での日常3
「ふふっ……」
「……なにか可笑しかったか?」
「あ、いえ。土下座なんてここで聞くとは思わなくて……」
どうやら私は笑っていたようです。考えてみれば、転生したらホムンクルスで寿命が四年とか製造目的を知った時は絶望しましたよ。それでもなんとか生き残ろうと必死でした。とても心の余裕なんて持つことが出来なかった。でも今は──少しだけ、少しだけこの状況を楽しみたい。
「あの、……ドラゴンの《つがい》は花の精と言っていたけど、それは珍しいの?」
種族が違う者同士、報われるのだろうか。大体種族間の違う《つがい》は、悲しい結末になることが多い。なので、六つ目の獣に聞いたのもそんな素朴な疑問を持ったから──まあ、好奇心というやつです。
「稀に異種族の《つがい》を選ぶものもいる。特に妖精と人間。ドラゴンと花の精は相性がいい」
「ドラゴンって……私のイメージだと狂暴そうなのが印象深いけど、そんなことない?」
「昔はけっこう暴れまわったとかは聞いたが、ドラゴンの中では一部だ。ほとんどは森と大地、財宝の防人として生きる優しき者たちだな」
六つの目の獣の話はとても興味深いものでした。
雪が降る少し前にドラゴンは森で寝所を探すという。ドラゴンの群れが空を横断する姿は絶景で、ずっと昔に金色のドラゴンが来たときは金の鱗が空に舞ったのだと。ドラゴンの鱗は大地の恵みの種であり、その森に繁栄を与える。だからこそ森は冬の時だけドラゴンに寝床を貸し与えるんだとか。
「妖精界は、みんなそれぞれが自分の役割をもって生きているだね。もっと自由気ままかと思ったけど、他の種族と共存している話を聞くと安心するかも」
私がほっこりしていると、六つ目の獣は何か思い出したようです。
「……しかし危険なドラゴンもいる。元は人間だったモノは結構厄介で、方々の町を襲っては金銀財宝を奪って洞窟をねぐらにしているし、横暴だった」
「人間が……ドラゴンに」
「大丈夫だ。そう簡単に人間がドラゴンにはならない」
そう簡単にドラゴンになられると困るけど……。そういえば童話や小説だと神様とか魔女の怒りを買ってドラゴンになった……って話はあった気が……。だとしたら自業自得なのかもしれない。
***
数日後。
それから私は、朝風呂の時間が好きになりました。
六つの獣は入浴場でしか会えませんが、お話をするのはとても楽しいです。入浴のおかげか体の調子もだいぶ良くなっています。
今日は妖精界の事を聞いてみました。六つ目の獣はとても物知りで、話を聞くとなんでも答えてくれます。表情も豊かで、本人は無意識かもしれませんが、すぐに尻尾などで反応するのが可愛らしいです。
「あ、そうだ。この領地ってどんな妖精たちがいたの?」
「家事妖精や妖精の護衛役、緑の佳人、森のまとめ手……花の精たち……昔はドラゴンもいた」
「そっか。じゃあ、みんな呼び戻せるように頑張らないと!」
私の言葉に六つの目の獣はキラリと目を光らせたのです。期待の眼差しという奴でしょうか。すみません、そんな大層なことは出来ないと思います。現状を把握するだけで本当に心苦しいです。
「……策でもあるのか?」
「あー、えっと。まずは領土や森を見てみようとかなって。現状が分からなきゃどう動くかも分からないし……」
前向きで──楽観的な言葉かもしれないが、私の言葉に六つ目の獣は心底驚いていた。なにか変なことでも言ったでしょうか。
「……本当になんとかしようと考えているのだな」
酷い。いや確かに何も出来ていないけれど、そう思われていたのは心外だった。
だから私は頬を膨らませる。
「ぶー。そりゃそうだよ。領土回復に尽力するってファンヴァラ様と約束したしね」
「ああ……。そうだな」
「……と、今日はこの後、庭の手入れをするから早めに上がるね」
私は頭に載せていたタオルを取ると、体に巻いて湯船を出ました。
いつもと変わらないやり取りでしたが──
「……お前は、私が怖くないのか?」





