第11話 お屋敷での日常2
私はタオルを頭に乗せると、ゆっくりと湯船に浸かりました。
お湯の温度は心地よくて「ふはぁ」と吐息が漏れる。生まれ変わってホムンクルスになりましたが、やっぱりお風呂は心地よいですね。生き返ります。日本人はお風呂好き。転生しようが魂に染みわたっているのでしょう。
後ろで水棲馬がずっとこっちを凝視しているのですが、溺れさせないですよね? 自宅の浴槽で溺れて死ぬとか嫌すぎる。あ、もしかしてこういう事も考えてファンヴァラ様は混浴を? ……って、姿みえませんけど。
「熱くはないか?」
唐突に聞かれたので、私は思わずビクリと両肩を震わせました。
「え、あ。はい、ちょうどいいです。近くに源泉でもあるんですか?」
私の言葉に六つ目の獣は「そうだ」と頷いて答えてくれました。とても大きな瞳、艶やかな黒い毛がとても綺麗です。巨大な獣は二メートルほどあり、ゆっくりと体を動かすと、私の隣に座って湯に浸かります。長い尾は私を守るように円のように湯に浮いていました。
──守ってくれているのでしょうか?
ふと六つの目が私へと視線を向けてきました。尾が少しだけ反応して湯の中を泳ぐように揺れています。
──そういえば、ファンヴァラ様の姿は見えない。……もう上がっちゃったのでしょうか? まあ、だとしたら、鉢合わせなくてよかったかも?
「……黙っているが、どうかした?」
六つ目の獣は心配そうに私の顔を覗き込んできました。
「あ、いえ。なんでもないです」
頬に触れる黒い毛は温かくて、私はそっと口元を撫でました。耳も少しピクピクして、長い尾は揺れていました。
「敬語はいらない」
余所余所しく思われたからか、そっぽを向く六つ目の獣に私は「うん」と答えました。
「……気になったことがあるんだけど、聞いてもいい?」
「なんだ?」とすぐに私に顔を向けて小首を傾げました。
「この入浴場の天井って最初から壊れていたの? 作り的には室内用に作った気がするんだけど?」
私の問いに、六つ目の獣はどこか懐かしむように目を伏せました。
「これは……昔、ドラゴンが壊した。自分だけ入れないからって拗ねたようだったな」
「そ、そこまでして温泉に入りたかったんだ……」
そのドラゴンも人間の転生者だったのだろうか?
お風呂に入りたいからって、建物を破壊するとかスケールが違う。私は天井のない空を仰ぎみました。すでに天井を壊してから長い年月が経っており、アイビーの葉が壁に生い茂っていました。
六つ目の獣の話では風呂を修繕したら、幻獣が少し戻って来たというのです。この湯は魔除けと傷の癒しに効くので、よく様々な幻獣や妖精が足を運んだとか。もはや大衆浴場並みの扱いなのですが、良いのでしょうか。
「…………」
「…………」
沈黙。
それにしても、この六つ目の獣はファンヴァラ様の眷族でしょうか。四つ目の犬も居ましたし、可能性は高いと思います。
「ドラゴンの《つがい》となる花の精は風呂好きだった。毎回この湯船を楽しみにしていたので、いつだったかドラゴンも一緒に入ると言って聞かなくてな。……建物を壊したときは、DOGEZAという変わった謝り方をしていた」
──まさか妖精界でDOGEZAという単語を聞く日が来るとは……。そのドラゴンってもしかして転生者だったんじゃ?
ちゃぷん、と湯船が波を打って僅かに揺らいだ。ぷかぷかと浮かぶハーブが水面で煌めく。あまりにも穏やかな時間。それにしても転生してから驚かされてばかりいる。けれどそれが悪くないと思う自分がいました。





