第七話 夜会が始まる
ミリアが焦燥に駆られながら待つ夜会場に、公爵令嬢クラリッサが到着した。
その姿を見たミリアは大きく安堵し、その気高い美しさに恍惚としてしまうが、次の瞬間には、この麗しき令嬢を守らなければと決意を新たにするのであった。
クラリッサは夜会場の他の人々の視線も集めた。
元王太子の元婚約者でありながら、人見知りなところがあり、あまり社交界に顔を出すことのない彼女だったのだが、今回は新王太子ユリウスのたっての依頼によりその重い腰をあげたのだった。
初めて彼女を見た者はその美しさにため息をつくことだろう。
そして、その近づき難さから、あるいは声をかけても人見知りのクラリッサが応えないので、高慢な公爵令嬢と勘違いをしてしまうのだ。
その本当の素晴らしさは、親衛隊のメンバーを含め、一部の者のみ知るところなのだ。
ミリアはそのことをとても誇らしく思っていた。
けれど、今日はそれ以外の気持ちも渦巻いていた。
クラリッサがこの夜会場の人々から受けるのは、ただの羨望の視線だけではないのだ。嫉妬以上に悪意のある視線——恨み、復讐心のような強い悪意に加え、誘拐の対象として隙を窺うような視線——そのようなクラリッサには相応しくない薄汚い視線が混じっているかと思うと、ミリアの心は掻き乱されるのだった。
そのクラリッサの後ろには侯爵令嬢ヴィオレッタが続いていた。
クラリッサと比べることはできないが、ヴィオレッタも美しい容貌と品位を持ち、親衛隊の隊長として、ミリアは強い尊敬の念を抱いていた。
そして、その冷静で明晰な知性をとても頼りにしていた。
クラリッサが無事であることを確認したときの安堵と同じくらい、ヴィオレッタがいてくれることに心強い気持ちを覚えた。
「クラリッサ様、ごきげんよう。今宵もお美しいですわ」
ミリアはクラリッサに駆け寄り、必死に笑顔を作って挨拶をした。
「あら、ミリア、ごきげんよう。お早いのね。ミリアもとっても可愛らしくてすてきよ」
そう微笑むクラリッサに、ミリアは恍惚として思わずだらしない本物の笑顔になってしまうのだった。
「ごきげんよう、ミリア。だらしない顔をしていないでしっかりなさい。私たちは親衛隊なのですよ。クラリッサ様が外出されているのだから、危険が及ばないようしっかりお守りしなさい」
「ご、ごきげんよう、ヴィオレッタ様。失礼いたしました」
——さすがヴィオレッタ様だわ。私が言うまでもなく、クラリッサ様に危険が及ばないように備えてらっしゃるのだわ。
ミリアは正気に戻り、クラリッサを守り抜くのだと気持ちを改めた。
「もう、ヴィオレッタったら。せっかくの夜会なのだから皆で楽しみましょう。ね?」
クラリッサはそう言ってヴィオレッタに微笑みかける。
すると、一瞬前まで引き締まった表情をしていたヴィオレッタまでもが緩みきった笑みを浮かべてしまうのだった。
「ヴィオレッタ様……」
そんなヴィオレッタの様子に、ミリアはまた不安に襲われてしまう。
そんな中、王太子ユリウスが皆の前に登場し、夜会場に歓声が上がった。




