第六話 夜会にて、聞き耳を立てる
レーヴェンハイト公爵家でのお茶会から数日後、新王太子ユリウスの主催により、王宮で夜会が催されることとなった。
その夜、ミリアは張り切りすぎて、王宮の夜会場に早く到着してしまい、ひとり、クラリッサと「クラリッサ親衛隊隊長」ヴィオレッタの到着を待っていた。
新王太子の主催ということで、夜会場には、続々と貴族や令息令嬢たちが集まってきていた。
まだかまだかとそわそわしながら待っていると、ふと、騒々しくなってきた会場の中で、同じように待っている貴族の男たちの、声をひそめた会話が耳に入ってきた。
ミリアの耳は、クラリッサ関連の話題にはとても敏感で、いかに小さな声だろうと聞き逃さないのだ。
「まさかレオンハルト殿下……おっと、もう逆賊レオンハルトか。あいつが廃嫡されるとはな」
「聞けば、あのクラリッサ嬢と『腰巾着』たちの仕業らしいぞ」
「『王太子レオンハルト派』のやつらはどうなるんだろうな」
「レオンハルト廃嫡と同時に、失脚だろう。レオンハルトもそうだが、いけすかないやつらが多かったからいい気味だ」
「今ごろクラリッサとユリウス殿下に復讐を計画しているんじゃないのか。ああいう高慢なやつらは、執念深いところもあるからな。聖教会も立場が悪くなったから、やつらが組めば、復讐も現実的だろう」
聞いていたミリアは、背筋に冷たいものを感じた。
「それにしてもクラリッサ嬢はお美しいな」
その直後のこの発言で、今度はミリアはにやりとした。
——やはりクラリッサ様のお美しさは世の令息たちにも隠しようがないようね。
「あの高慢な感じさえなければな」
ミリアは大きなため息をつく。
——やはり凡夫どもにクラリッサ様の素晴らしさは理解できないのね。どうやったらあの奥ゆかしさを「高慢」などと思うのかしら。
「どうせ復讐されるなら、その前にさらってやろうか」
再びミリアの背筋が冷えた。
「『王太子ユリウス派』が勝てば、クラリッサを保護したと言えばいい。『王太子レオンハルト派』が勝てば、復讐の手助けをしたと言えばいい」
ミリアは恐怖に慄いていた。もし自分たち「クラリッサ親衛隊」がレオンハルトを追い込んだことで、クラリッサが危険に晒されるのだと考えると、気が気でなかった。
「しかし公爵家の娘だぞ。そんな簡単に誘拐なんてできるのか?」
「ふふ。こんな冗談を真に受けるなよ」
相手の男はそう言って不敵に笑った。
しかしミリアにはそれがただの冗談とは思えなかった。彼女の危機察知能力が、強く警戒を訴えていた。それは、元聖女リュシアを見たあのとき抱いた感覚と、同じだった。
クラリッサを救うため、勇気を振り絞るのだ。
そう思ってミリアは振り返り、その話をしていた男のほうを見た。
しかし、そこにはすでに多くの人々がおり、どの男が話をしていたのか、判別ができなかった。
振り返るのが遅かった。
けれど、振り返るのが早ければ、話を中断されていたかもしれない。
ミリアは焦っていた。
絶対にクラリッサを守らなければならない。その上で、クラリッサを怯えさせたくもない。
——どうしよう。




