第四話 国王
その日、王宮は騒然としていた。
王太子レオンハルトの自室に、国王フリードリヒと第二王子ユリウスが近衛兵を引き連れてやってきていた。
レオンハルトはその様子を見て、驚いて言った。
「父上……ユリウスも……これは何ごとですか?」
レオンハルトの隣には聖女リュシアもおり、フリードリヒはそちらを一瞥し、再びレオンハルトに向き直った。
「レーヴェンハイト公爵家から、クラリッサ嬢との婚約を破棄すると通知があった」
「はい? それは俺のほうから……」
フリードリヒはレオンハルトの言葉を遮って続ける。
「その女とずいぶん親しいようだな」
フリードリヒの視線はリュシアを捉えていた。
「ああ、はい。ご報告が遅くなりましたが、この聖女リュシアと婚約することに決めました。俺は真実の愛を……」
「黙れ!!」
フリードリヒが怒鳴った。
レオンハルトだけでなく、ユリウスや近衛兵も怯むような迫力だった。
「聖教会と手を組み、国王である私を退け、この地位を簒奪しようとしていたことはすべてわかっておるのだ」
「……はい?」
レオンハルトは何を言っているのかまったくわからないというような顔をする。
「しらばっくれることはできんぞ」
ユリウスが手に持っていた書簡を見せる。
「あっ……」
リュシアが小さく叫んだ。
「これは先ほど聖教会で押収した書簡です。兄上からリュシア様に宛てられたものです。愛の言葉とともに、『父の古く愚かな考え方にはついていけない』『俺が国王になったら君のための王国に作りかえる』『聖教会への支援も約束する』などと綴られています」
ユリウスが落ち着いた声で淡々と説明した。
「私への侮辱、叛逆の意思、聖教会との癒着がはっきりと示されているではないか!」
「いえ……そんなつもりでは……」
レオンハルトは言い訳を試みようとするが、言い淀む。
書いた内容は事実ではあった。
しかしその書簡が父王の目に触れ、叛逆の意思と取られるとは思ってもおらず、そんな意図もまったくなかった。ただ、リュシアに格好つけたかっただけだった。国王を批判することで賢く見せたかっただけだった。
リュシアがすっと席を立ち、退室しようとする。
「捕まえろ」
フリードリヒが近衛兵に指示をすると、そのうちの一人がリュシアの腕を掴んだ。
「離して! 私はこの人とは何の関係もないし、婚約もいたしません」
リュシアがそう喚いた。
「リュ、リュシア……?」
レオンハルトは目を丸くして狼狽えた。その表情には、国王に叛逆の意思を問われたとき以上に驚きの色があった。
「俺たちは真実の愛を見つけたんじゃなかったのか……?」
「あなたのように肩書きだけで高慢で愚かで、自分で女を振ることもできない臆病な男を、どこの物好きが愛するというのですか。
せっかくうまく利用できると思ったのに……」
「な、何を言っているんだ……リュシア……」
「そもそも、力をつけている聖教会が王家よりも権威を振りかざすようになってきたために、王家と貴族は結束する必要があるのだ。中でも、貴族たちの信望が厚いレーヴェンハイト公爵家とな。
それをよりによって、聖教会を増長させて叛逆を起こそうとは、絶対におまえは許さんぞ!」
フリードリヒの目には息子に対する慈悲は微塵もなく、怒りの火だけが燃え上がっていた。
レオンハルトはその日のうちに廃嫡となり、鞭打ちの刑の上、鞭の痛みで気絶した後に王宮の地下牢に放り込まれた。
そして王太子の位は第二王子ユリウスへと移された。
リュシアについても、王家による聖女認定が破棄され、後日、叛逆罪に対する処分が言い渡されることになり、聖教会にも王家からの監査が入ることとなった。




