第二十一話 呪言を聞いた国王
時は少し戻り、ヴィオレッタとミリアが、大賢者オズヴァルトのいる祭壇の間に入った頃、ユリウスは衛兵に担がれ、侍医のもとへ連れて行かれていた。
ユリウスの様子を見た侍医は慌てて診断を行ったが、その身体には異常が見られなかった。
衛兵が、ユリウスが大賢者オズヴァルトの祭壇の間に来ていたことを話すと、侍医はひとつの結論を出した。
「ユリウス殿下は『呪言』にあたってしまったのか……? 症状からしても『呪い』にかかっている可能性が高い……」
そこにユリウスが倒れたという報告を受けた国王フリードリヒがやってきた。
「ユリウス! 侍医よ、ユリウスはどうしてしまったのだ? 治癒はどうなっている?」
フリードリヒは狼狽して侍医に尋ねた。
「とても強力な『呪い』に冒されているように見受けられます。残年ながら、私の手には負えません。聖女不在のこの王国で、治癒が可能な者はおそらくいないでしょう……」
国王の顔が青ざめる。
「何だと? ユリウスは王太子なのだぞ。王国の未来をここで死なせるわけにはいかん!」
「そうは仰られても……」
「ユリウス! 目を覚ますのだ!」
ユリウスの肩を掴み、フリードリヒは呼びかけた。
「ユリウス! 頼む! 目を開けてくれ!」
すると、ユリウスの目がうっすらと開いた。
「ユリウス! しっかりしろ。おまえはまだ若い。おまえがこれからの王国を背負っていくのだ。気をしっかりと保て」
「……父上」
「ユリウス……いったい何があったのだ」
ユリウスは必死に口を開こうとした。
「『クラリッサ様…………世界を……支配……』」
「何? 何を言っているのだ? クラリッサが世界を支配する? クラリッサというのはレーヴェンハイト公爵家のご息女のクラリッサのことか? ぐっ……。何だ、この頭痛は」
——気の遠くなるような長い年月をかけて術式を練り上げた呪言なのに目的が変わってしまっているではないか! 人の苦労を何だと思っているのだ!
「何だ……今の声は……? ぐっ、ぐぁぁぁぁ!!」
フリードリヒが叫びを上げた。
フリードリヒだけではなく、ユリウスの言葉を聞いた侍医や衛兵たちも、突然頭に走った激痛に耐え切れず叫び声を上げた。
「……」
「…………」
「『ク……』」
「『クラリッサ様』」
「『クラリッサ様、世界を……』」
「『クラリッサ様、世界を支配』」
「『クラリッサ様、世界を支配』」
「『クラリッサ様、世界を支配』」
国王、侍医、衛兵たちがまったく同じ言葉を唱和し始めた。
唱和しながら、彼らは夢遊病者のごとく行進を始めた。
王宮内で彼らの言葉を聞いた者たちも、一様に叫び声を上げた後、唱和と行進に加わっていった。
その言葉は『呪言』だった。『呪言』は人の心を支配し、操る。『呪言』の命令を、被術者は理解したとおりに実行し、それをまた別の人間に伝え、『呪言』の支配下に置く。こうして瞬く間に『呪言』は伝播していく。
ようやく『呪言』が本来の力を見せたのだった。
『クラリッサを連れてこい』という単純な命令を曲解した者たちによって、歪められた形で。




