第二話 親衛隊(腰巾着)隊長
腹を立てて王宮を後にしたものの、ミリアは王太子の婚約破棄を、クラリッサにどう伝えるべきか悩んでいた。
——できるだけクラリッサ様を傷つけないように伝えたい。
そうは思うものの、王太子の言葉をそのまま伝えてしまえば、繊細なクラリッサが心を痛めてしまうかもしれない。
ミリアはクラリッサに伝える前に、同じくクラリッサと懇意にしている侯爵令嬢ヴィオレッタ・グランヴェールに相談しようと、グランヴェール侯爵家を訪ねた。
「あら、ミリア、血相変えてどうされたの?」
「ああ、ヴィオレッタ様」
ミリアは先ほどレオンハルトから受けた屈辱を思い出し、悔しさで涙を流し、ヴィオレッタにしがみついた。
「どうしたの、ミリア?」
ヴィオレッタも狼狽えながら、ミリアを抱き寄せる。
「……王太子殿下が、クラリッサ様と婚約破棄をするって仰ったんです」
「はっ?」
ヴィオレッタは普段は冷静沈着で品位の高い令嬢だ。
しかし、このときミリアの言葉を聞いた彼女は鬼のような形相を見せ、その顔を見たミリアも一瞬背筋が凍った。
「どういうことなの?」
「あ、あの……高貴なクラリッサ様が王太子妃や未来の王妃に相応しくないというのです」
「何ですって? クラリッサ様以上に王妃に相応しい者などいるわけがないではないの」
「それが……聖女リュシア様のほうが相応しい、と」
「は? クラリッサ様は聖女様以上に聖女様ではないですか」
ヴィオレッタがすごむので、ミリアが恐縮する。
「私ではなく、王太子殿下が、そう仰ったのです。私もヴィオレッタ様と同じ気持ちです」
「そもそも国王陛下がお決めになった縁談ではありませんか」
「そうなんです。王太子殿下は国王陛下に逆らうおつもりです」
「何ですって!? 国王陛下のことまで貶めようとされているのですか?」
「私のこともクラリッサ様の腰巾着なんだろうって」
「私たちクラリッサ親衛隊を『腰巾着』と!?」
「腰巾着なのだから伝言しておけって言われまして。自分で直接クラリッサ様に伝えるのが怖いようで……」
「なんて男なの……」
「ヴィオレッタ様、私、クラリッサ様を傷つけたくないのです。どうやってお伝えすればよいでしょうか?」
「ミリア、心配は無用です。私に任せなさい。クラリッサ親衛隊隊長の私がクラリッサ様にお伝えします」
「えっ……?」
ミリアは顔を上げて、ヴィオレッタを見た。
その顔には強い決意の色が浮かんでいた。




