第十六話 呪言を聞いた伯爵令嬢
——公爵令嬢クラリッサはすばらしい。我のもとに連れてくるのだ。
「え? 何?」
伯爵令嬢ミリア・エーレンフェルトは突然聞こえた声に驚き、周りを見回した。
誰もいない……。
いるはずがない。ミリアは伯爵邸の自室に一人でいたのだから。
ミリアは耳が良かったが、今の声は遠くから聞こえたようなものではなかった。
とても近く……いや、まるで頭に直接響いてくるような声だった。
それは老女のような不気味な声だった。
それでもクラリッサを讃える前半には胸が高鳴ったが、後半の「連れてこい」という言葉にはどきりとした。
総じて不気味な声、という結論に至った。
そもそも頭に直接聞こえる声など普通ではない。
しかし、ミリアはその異常さに恐怖を覚えるでもなく、その言葉の内容に怒りを覚えていた。
——クラリッサ様を連れて来いだなんて……。何様のつもりなの? クラリッサ様を何だと思っているのかしら。
クラリッサ様にご足労いただくなんて、厚かましいにもほどがあるではないの。クラリッサ様にお会いしたいのなら、国王であろうと、大司教であろうと、自ら来るのが当然でしょう。現に王太子は必ず自ら公爵邸に訪ねてきているというのに。
そう考えていると、だんだんと腹が立ってきた。
こんなときはクラリッサ親衛隊長のヴィオレッタ様にお話を聞いていただ……いえ、ご報告しなければならないわ。
そう思い立ち、ミリアは伯爵邸を飛び出すのだった。




