天使と邂逅した伯爵令嬢
伯爵令嬢ミリアは小さい頃から耳が良かった。
そのことで、良かったことも悪かったこともある。
初めて夜会に参加したとき、自分のことを品定めするような声に怯え、貴族の世界が恐ろしい場所なのだと知った。
「あの新しい娘、何だか品がないわね」
「何だか子どもみたい。貴族の社交界というものが分かっていないのよ」
「あんなので伯爵令嬢なの?」
ミリアは自分を貶めようとする声に恐怖を覚えた。今思えばそれは通過儀礼のようなもので、新参の貴族令嬢はまず先輩令嬢たちのいじめの洗礼を受け、そして生き延びなければならないのだった。
けれど、耳の良すぎるミリアには、それは想像以上に辛いものだった。夜会の会場のすべての人が自分に悪意を向ける悪魔のように見えた。
「あら、かわいらしい子がいるわ」
ふとそんな声が聞こえた。
澄んだとても美しい声だった。
「でも何だかお辛いみたい。大丈夫かしら」
ミリアは驚いて顔を上げた。
そこに、少し離れたところから自分を優しい眼差しで見つめる美しい少女がいた。
天使だ、とミリアは直感した。
悪魔だらけのこの夜会に、一人だけ私の心の声を聞いてくれた天使がいた。耳が良いだけの私よりよほどすごいことだと思った。
恐怖の震えは、奇跡に邂逅した感動の震えに変わっていた。
そして、あろうことか、その天使が、ミリアの方に向かって歩いて来たのである。
ミリアの前に立つと、天使は微笑みを浮かべた。あまりに眩しいその笑顔に、暗黒の夜会に光が溢れたかのようだった。
「私、クラリッサ。お友だちにならない?」
「何ですって?!」
ミリアは素っ頓狂な声を上げてしまった。
天使が友だち……。そんなことが現実に起こるはずがない。けれど……友だちにはなりたかった。そんな畏れ多いことを望んでもよいのだろうか。
「けんぞくにならせていただきます」
ミリアの口から出た言葉はそんな意味のわからないものだった。
「けんぞく? お友だちってことでいいのかしら」
「あなた様にしたがう者ということです」
クラリッサは一瞬目を丸くして、笑った。
「したがわなくていいわよ。お友だちなんだから。よろしくね」
それが、ミリアとクラリッサの出会いだった。
夜会の終わりに、ミリアがクラリッサと親交を持つようになったことを知った父の伯爵がミリアに言った。
「あのご令嬢は特別だからな。失礼のないように。できるのなら、友人としてお守りしなさい」
どう特別なのか、ミリアの父の伯爵は教えてくれなかった。もし教えてもらったとしても、きちんと理解はできなかったかもしれない。
しかし、父が言っていた「特別」とは違うかもしれないけれど、ミリアにとってそんな「特別」よりも、クラリッサはもっと特別な存在になった。
それからというもの、ミリアはクラリッサを誰よりも熱心に追いかけ、いつも一緒にいるようになった。気づくと周りからは「腰巾着」などと揶揄されるようになった。
父が「特別」な令嬢と言った理由は今でも知らない。けれど、そんな理由はミリアには不要だった。クラリッサはミリアにとって永遠に「特別」以上の天使であり、女神だった。
番外編お読みいただきありがとうございます!
腰巾着ミリアはこうして爆誕しました。
ヴィオレッタ編(親衛隊結成秘話)もいずれ書きたいと思っています。
「第三の伝言」も構想中ではあります。。




