第十三話 夜会の帰り道
百人を超えるかというほどの王国騎士団に先導され、クラリッサ、ヴィオレッタ、ミリアの三人を乗せた公爵家の馬車が続き、そのさらに後ろから、ヴィオレッタの侯爵家とミリアの伯爵家の馬車が続いた。
さらには、剣聖アレクシスが公爵家の馬車の横にぴたりとついて走っていた。
国王の護衛でもありえないほどの異様な行列は、さながら戦争に向かう軍のようでもあった。
「何だか物々しくて落ち着かないわね」
クラリッサがぽつりと言った。
「お気になさらないでください。ただ帰宅するだけなのですから」
ヴィオレッタが笑顔で言う。
「ただ帰宅するのに、王国騎士団や剣聖様までついてくるなんて」
「皆、クラリッサ様が大好きなんですよ」
ミリアも笑顔でクラリッサに言った。
馬車は夜の王都を進み、車中の三人は、そのうち騎士たちのことも忘れておしゃべりに夢中になっていた。
しかし、鋭い耳を持つミリアだけは気づいていた。
——馬車が進むごとに騎士の馬の足音が少しずつ減っている。
馬車の横を走るアレクシスも、周囲に注意を払っているのは間違いなかった。
そして馬車は聖教会の大聖堂前を通過した。
「何だか少し静かになったわね」
クラリッサがふと言った。
「そうですわね……」
ヴィオレッタが外のアレクシスに声をかける。
「お兄様、何かお変わりあるかしら」
「いや……。ちょっと王国騎士団が大聖堂で何か用事があるみたいでな。気にしなくていい」
「あら、じゃあ、ようやく静かに移動できるのね」
「私はお話に夢中で騎士団のことなんか忘れてましたわ」
そうミリアが言うと、三人が三人とも笑ってしまうのだった。
やがて公爵家の屋敷が近づいてきた。
しかし、そこでミリアが、不自然な足音が複数近づいて来ることに気づいた。
「お迎えの足音が聞こえますわ」
ミリアはそう言ってヴィオレッタを見た。
ヴィオレッタはそれが何を意味するのかすぐに悟った。
「お兄様、しっかりご挨拶してくださいね!」
ヴィオレッタが強い口調でアレクシスに指示した。
「そこまで丁寧にしなくてよいわよ」
クラリッサが少し困ったように言った。
「わかりました。ではあまり遠慮せずにいかせていただきます」
そう言ってアレクシスが馬車を離れ、前に駆け出した。
「なぜ剣聖がいるのだ。話が違うではないか」
野太い男の声が、馬車の中にまで聞こえた。
「あら、誰かしら。何だか失礼な言い方してお恥ずかしいわ」
クラリッサが申し訳なさそうに言う。
「新しい使用人の方かもしれないですね。お兄様はまったく気にしないので、ご心配なさらないで」
ヴィオレッタも申し訳なさそうに言った。
そのとき、ミリアの耳には、何か重いものが落ちたような鈍い音と、呻き声のようなものが聞こえた。
そして、すぐにアレクシスが戻ってきて言った。
「人違いでした」
公爵家の馬車は、何事もなく、屋敷に到着した。
最後まで上機嫌で帰宅したクラリッサを見て、二人の親衛隊員と剣聖は安堵と大きな達成感を覚えていた。




