第十二話 夜会が終わる
「本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。皆様のおかげで、とても素敵な夜会になりました」
新王太子ユリウスの言葉で、夜会は散会となった。
夜会場で何事も起こらなかったことに、ミリアとヴィオレッタはひとまず安堵した。
ただ、夜会の音楽が止まったときに王宮のどこかで騒ぎの声がしたのを、ミリアは聞き逃さなかった。
「ヴィオレッタ様……。危機が迫っている感じはしないのですが、王宮内で何かが起きているかもしれません」
ヴィオレッタの耳元でミリアが小さく言った。
「動き出したわね……。大丈夫よ、ミリア。危険はすべて残らず排除されるわ」
その表情には強い自信が浮かんでおり、ミリアは心強く感じた。
「さあ、帰りましょう」
そうヴィオレッタが言い、二人はクラリッサの後について、夜会場を出ていくのだった。
※
王宮の門の外には、各貴族家の馬車が並び、それぞれが帰宅の途につこうとしていた。
ただ一つ、異様な雰囲気の馬車があった。
物々しい騎士たちがその馬車を囲っていたのだ。
「えっ、王国騎士団?」
クラリッサが言った。
「そのようですね。護衛していただけるようですわ」
ヴィオレッタがクラリッサに伝えた。
「護衛なんていらないのに……。王都は十分に安全だわ」
「そうとも限りませんわ。何よりクラリッサ様は特別な方なのですから」
「でも……」
「念のためですよ。気にせず帰りましょう。
私たちも公爵家の馬車に同乗させていただいてよろしいですか? お見送りさせていただきたいので」
ヴィオレッタがクラリッサにそう提案する。
「あら、それは嬉しいわ。帰り道も楽しくなるわね。今日はいい夜だわ」
クラリッサも上機嫌だった。夜会でユリウスと話をする時間も長く持てたので、よほど楽しかったのだろう。レオンハルトの婚約者であったときには、クラリッサがこんなに嬉しそうにすることはなかったので、レオンハルトを廃嫡に追い込んで本当に良かった、と親衛隊の二人は思っていた。
その三人のもとに、王宮の門から出てきた一人の男が近づいてきた。
「あら、アレクシス様?」
クラリッサが男に気づき、声をかけた。
「これはクラリッサ様、お元気そうで何よりです」
それはヴィオレッタの兄であり、剣聖のアレクシスだった。その着衣に少しだけ乱れがあるようにも見えた。
「夜会に参加されていらっしゃったのですか? ご挨拶もせずに申し訳ございませんでした」
そこにヴィオレッタが割り込む。
「兄にまでお気づかいくださり、ありがとうございます、クラリッサ様。でも兄は夜会が苦手なので、私を迎えに来てくれただけです」
「えっ? でもアレクシス様は王宮から出てこられましたよ」
「ああ……ついでにちょっとお仕事を済ませたのでしょう。お兄様、お仕事は順調ですか?」
ヴィオレッタは微笑みながら、アレクシスに尋ねる。けれど、その目にはアレクシスを威圧するような眼光があった。
「もちろんだ、ヴィオレッタ。お兄ちゃんにとってはちょっとした仕事でしかなかったよ」
「なら、いいわ。あと、人前でお兄ちゃんとか言うのは恥ずかしいからやめてくださる?」
「ええっ……」
「この後も抜かりはないでしょうね?」
ヴィオレッタの顔からは微笑みも消え、鬼上官のような厳しい表情になっていた。
「……はい」
剣聖が縮こまっている……。




