第五話 運命の分かれ道 ②
何故カロリーヌ達が招待されなかったのか疑問に思いつつも、私達は笑顔を絶やすことなくロランの知り合いの方々に挨拶をした。
「初めまして、ローズ・アルベールと申します」
「へぇ、確か、子爵家のご令嬢かな?」
「はい」
私がいつもメルリアナ嬢の近くにいた事は、周りは分かっているはず。メルリアナ嬢はパーティーやお茶会に積極的に参加し、そのたびに私達脇役を連れていたのだから。
「しっかりとしたお嬢さんだ。君達はどういった関係なのかな?」
「実はいとこなんだ。だが、もう婚約の約束をしていてね」
「へぇ、ロランに婚約者か」
けれど、意外と私を警戒するような様子を見せる者達はいなかった。見たところ、王族派の方々ばかりが会場にいらっしゃる。王太子派もちらほら。
となると、王族派であるリトナ夫人は王族派でありつつもこの婚約破棄で新しい婚約者が誕生したことに警戒している、という事かしら。王太子とヒロインを招待しなかったのだから。
「あぁ、ロランじゃないか」
「久しぶりだな」
話しかけてきたのは、ロランと同じくらいの年齢の男性。ロランに負けないくらいの容姿だけれど、細身のロランより筋肉質で背が高い。
「初めまして、アダン・ラユースだ」
……いた。アダン・ラユース。この国の辺境伯家の嫡男。
辺境伯は国境を守り、なおかつ国王陛下が管理しきれない土地を管理する代理人という役目を持っている。そのため、上位貴族である侯爵家と同じくらいの地位にある。
けれど、ラユース辺境伯家は他と違って国王陛下の代理人ではあっても王族派ではなく中立派の立ち位置にいらっしゃる。それは、派閥のバランスを取るためだ。中立派とあれば、他の派閥に巻き込まれる事もない。
「初めまして、ローズ・アルベールでございます」
「へぇ、可愛らしいお嬢さんだ。アルベール、というとアルベール子爵家だったかな」
「はい」
それに、子息本人はほとんど領地にいて、今回はこの後に行われる王太子の誕生日に参加するため首都に来ているだけ。
なら、狙うのはこの人だ。
「確か、アルベール子爵家といえばさくらんぼ園だったかな?」
「はい。そこまで広い領地ではないので生産量はあまり多くはありませんが――」
確か、この方はロランと学院で同学年だったかしら。ロランの母親である叔母が、ロランの友人はラユース辺境伯のご子息だと何度も自慢をしていた事を覚えている。
「確か、貿易業をなさっていると聞きました。これから関税も引き上がる様ですから、苦労が絶えない事と存じます」
「へぇ、ご令嬢だというのに驚いた。そうなんですよ、父上も今頭を抱えていましてね」
ご令嬢は、こういった話をすることはほぼない。ファッションだの流行だのとかくらいで、あとは面白い噂話?
けれど、私はこのラブロマンス小説を3回も読んだ。これから関税が引き上げられそのせいで起こる出来事、王太子殿下の誕生祭や、そして隣国から使節団が来て交流を深める事になるなどは全て把握済みである。
「賢いだろ? 僕のローズは努力家なんだ。まぁ、頑張りすぎるのがたまに心配なんだけどさ」
「へぇ」
……〝僕の〟ローズと言ったかしら。このいとこ殿は。あなたのものになった覚えは全くないのだが?
その後、学院時代の話が始まった。へぇ。そうでしたか。まぁ。と相づちを打ちつつ笑顔を絶やさなかった。
ロランの学生時代の話だなんて、叔母様に何度も聞かされたのだからもう勘弁してほしいと言いたいところではあるけれど。
そんな時、ロランはふと会場の中央辺りに視線を向け、何かを見つけたかのような表情を見せた。
「ローズ、ちょっとここにいてくれないかな。仕事の話をしてくるから」
「……えぇ、分かりました」
「すぐ戻ってくるから待ってて」
と、笑顔を見せつつ人ごみの中に入っていった。
さて、その仕事の話とは。こんなところに自称婚約者を置いていかないといけないくらい重要な仕事、という事よね。たとえ友人だったとしても、こんな未婚者の若い男性のところに置いていくなんて。
「君も大変だね」
「何のことでしょうか」
「ん? 見れば分かるさ。そもそも、君達の服装はお揃いじゃないだろう。パーティードレスと紳士服を揃える事は社交界にとって重要じゃないか」
そうね。パーティー会場でパートナーと服をお揃いにする事は、自分達は親密な関係を持っていると主張している事になる。だから、私のところにあのドレスを送ってきた。そして、私がそれを着なかった事にあのような反応を見せた。
「まっ、ロランは次男だしあの性格だ。君も災難だね」
「分かっていただける方がいてくださって助かりますわ」
なるほど、ロランのプライドの高い性格をあまりよく思っていないらしい。となれば、友人と言っていたけれどあまり仲が良くない、という可能性もある。ただラユース子息が仕方なく付き合ってあげていた、といったところかしら。一応彼は侯爵家の次男だものね。
「だが……少々ロランにはもったいないとも思えるな」
にっこりと、こちらを覗き見てくる。微笑みかけている、というよりは……さぐっているように見える。
果たして、子息は何を思っているのだろうか。
「……未婚の年若い男性が思わせぶりな事をおっしゃるのは、やめた方がよろしいかと」
「……」
「……その気がないのであれば、の話ですが」
「ん~、それもそうだが……君と話していると時間を忘れてしまうくらい楽しいよ。……ロランと話しているいるよりも、ね」
「ご友人では?」
「一応、ね」
なるほど、一応、ね。ということは、この方とロランの友人関係は危ういという事ね。何かあれば、ためらうことなく離れる。
彼は貿易を事業とする辺境伯家の嫡男だから、侯爵家としては繋がりを持っておきたいところ。でも、何かきっかけがあればそれは途切れてしまう。まぁ、それも面白いところではあるけれど、私達アルベール家を巻き込まずにやってほしい。
「今日初めて会えたんだ。これも何かの縁、仲良くしようか」
「〝いとこ殿〟が怒りますよ」
「嫉妬深い男ほど醜いものはない。それに、君の方はその気がないように見えるが?」
「さぁ?」
とりあえず、これでアルベール子爵家とラユース辺境伯の繋がりは一応持つことが出来た。ロランのおかげね。
「ははっ、ではこの後ロランのご機嫌取りかな? 君も大変だね」
「今日のパートナーですから」
「そっ」
ご機嫌取り、と言うけれど……それは本当に必要だろうか。
そんな時、人ごみの隙間から見えた。ロランが、とあるご夫妻と挨拶をしていたところを。
……――見つけた。
「おっと、やっぱり君はロランにはもったいなかったかな?」
「さぁ? ではここで失礼しますわ」
子息に軽く頭を下げ、ロランの方に足を向けた。さて、どうなるかしら。




