第四十五話 菓子に隠された秘密 ③
パーティー会場であるこの庭に、走ってくるいくつもの足音が。そして、それがこの王城の近衛兵のものと確認出来ると……周りの者達は小さな悲鳴を上げた。
剣を抜かれ……私に向けられた。
「ローズ・ブランシス夫人。バシュラール伯爵殺人未遂の犯人として拘束させていただきます」
……私?
私が犯人だなんて、どうなっているのかしら。というより……その剣を下ろしてほしいわ。怖いから。刺さらないわよね、大丈夫、よね?
けれど……ディオンは青筋を立てている。これは、さすがにマズいわね。
そして、前に出てきたのは以前ワレトミー侯爵夫妻を逮捕するために呼んだことがある、近衛騎士団の騎士団長。大人しく連行させてほしいと言われたけれど……口を開いたのはまたしてもディオン。
「またしても、私の妻を犯人呼ばわりするか。証拠は?」
「犯人のメイドを一人捕らえ取り調べをしたところ、ブランシス夫人に命じられ毒を盛ったと供述しました」
「ほぉ、なるほどな。ならその毒は?」
「――〝エリサベト〟です」
その名前に、周りは驚愕した。
以前、ワレトミー侯爵が海賊船で外国に密輸していたもの。毒物のある宝石で、加熱すると毒の成分が流れる。
「今回振る舞われたケーキにかけられたチョコレートソースの中に、エリサベトが混入されていました。今回は、一人一人チョコレートソースの入った容器が用意されていました。そして、バシュラール伯爵に用意されたチョコレートソースの中からエリサベトが見つかりました」
「……」
「それを混入させ、バシュラール伯爵に用意されたケーキにそのチョコレートソースをかけたのが、あのメイドでした」
なるほど、今回のチョコレートソースは加熱された温かいものだったから、入れてしまえば毒の成分は流れ出る。
紅茶と違って、チョコレートソースは色は透明度がなく暗い色。少しだけ匂いは出るものの、チョコレートの香りでかき消される。だからその中にエリサベトを混入させたという事ね。
「ローズ、覚えは?」
「ないに決まっているでしょう、旦那様。そもそも、エリサベトを所有していた覚えなどありませんわ」
「だ、そうだが?」
「容疑を否認するということですね。ですが、それは取り調べを受ける際にしていただきたい。ご同行いただけますか」
困ったわね……まさか容疑者にされるとは。そもそも、小説ではこのパーティーでこんな事件が起こる事はなかったから油断していたわ。もちろんその捕まったメイドの名前も、顔すらも知らないわけだし……どうしたものかしら。
それに、エリサベトを持っていないと言ったところで、以前ワレトミー侯爵が外国に売り飛ばしていた事を知っていたのだから、彼が牢屋に入る前に購入していたのではないかという可能性まで出てきてしまった。調べてしまえば無実だと証明出来るかもしれないけれど……
「仕方ありませんわ。さ、どこに行くのかしら」
「ご協力感謝いたします」
「待った」
せっかく私が取り調べに応じたのに……今度はあなたですか、ディオン。
私の手を握ったディオンは、絶対に離さないと言いたげに力を入れてくる。これでは振り切れないわ。
「……少しの時間でしょうから、待っていてくださいますか?」
今度は私の腰に腕を回し引き寄せるディオンに、呆れを通り越してしまうのだけれど。
というより、周りは『少しの時間』という言葉に反応しているようにも見える。だって、私は何もしていないもの。
「残念ながら、私は可愛い妻とは片時も離れたくない性分なのでな」
「……取り調べを拒否される、という事で間違いございませんか」
ひやりとした空気を作ったのは、近衛騎士団団長のその一言。さすが、と言ったところかしら。長年騎士団を率いるだけあるわね。
「いや? 拒否するとは言っていない。離れるのを拒否しただけだ」
「という事は、殿下もということですかな? ですが、それは少し難し……」
「いいや、そのメイドを連れてこいと言っているんだ」
……犯人として捕まっているメイドを、連れてこいと? ここに?
けれど、そのメイドがどこのどなたで、一体誰の仕業でこんな事をしたのかが分からないのであれば、公開処刑にまで行ってしまうのでは?
「エリク様!」
そして、次に口を挟んだのはカロリーヌだ。カロリーヌは、ディオンの提案に賛成し王太子にお願いをしてしまい、彼は渋々騎士団長にそうするよう指示をした。
このお嬢さんは、本当に口を挟むのが好きなのね。
そして、数分後。近衛騎士三人によって連れてこられたのは……見覚えのない年若い女性。この王城に勤めるメイドの制服を身にまとう、水色の髪をした女性だ。
さて、困ったわ……ね……ん?




