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全知の脇役令嬢は不幸な未来をぶっ壊す  作者: 楠ノ木雫


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第四十三話 菓子に隠された秘密 ①


 小説では、カロリーヌが赤ワイン入りのチョコレートケーキを作り出し国内外で一躍有名となる。そして、ウェルディエ・ワインズの売り上げも急上昇する事になる。


 そして、そのきっかけとなるガーデンパーティーが今日行われる事になる。



「どうした、浮かない顔だな」


「いえ、ワレトミー侯爵の件が気がかりで……」


「あぁ、脱獄の件か」



 数日前、ワレトミー侯爵が牢屋から逃げたと報告があった。小説ではこんな事はなかったから少し動揺はしている。牢屋に入れたのは私なのだから。まぁ、王宮騎士達が探し回っているから時間の問題ではある。


 それより目先の事に集中しなければ。


 ディオンの紳士服とお揃いの色にしたマーメイド服を身にまとい、二人で馬車に揺られている。これから、王太子殿下の主催したガーデンパーティーに参加する予定だ。


 バリエ侯爵と会う事が目的なのだけれど……小説では、このガーデンパーティー後にカロリーヌがルニ達によって誘拐されるはずだから、まさか小説とこんなにずれてしまうとは、と思うと……はぁ。


 でも、命を狙われた事に変わりはないし、そもそもあの婚約破棄からどんどん出来事が変わってきていることは確か。……私が変えてしまっているというところもあるかもしれないけれど。


 さて、バリエ侯爵の顔を拝んだら、どうしましょうかね。


 今回、王族である王太子殿下が主催となったガーデンパーティーだから、会場は王城の庭園となっている。身分が一番上である私達は、他の貴族達より一番後に入場する。そのため、今回の参加者全員の顔が見渡せた。


 会場は、丸テーブルがいくつも並んでいる。その近くに立ち貴族達は談話している。


 今回のターゲットであるバリエ侯爵は……いた。けれど、少し遠いわね。


 表情までは分からないけれど……私を始末するために指示をしたはずのバシュラール伯爵からの報告は届かなかったはず。ディオンの遊び道具にされていたのだから当たり前ね。それで、私がこうして何事もなくこのパーティーに姿を見せた。きっと、お怒りなのかもしれないわね。


 ……とはいえ、私が向かったバシュラール伯爵邸の誰かがバリエ侯爵に報告したのであれば別だけれど。


 オーシャイン夫妻も、いる。となると、襲われなかったのか、それとも阻止し無事だったのか。まぁどちらにせよ元気そうでよかったわ。



「叔父上、夫人、こちらにどうぞ」



 そう王太子に案内され、席に着くと順番に他の貴族達も決められた席に着席した。


 私達の席には、王太子とその婚約者であるカロリーヌ。他侯爵家夫妻2名だ。


 ……何ともカオスな席ね。侯爵夫妻達も冷や汗をかいている事でしょう。だって、隣のディオンの機嫌がどんどん悪くなっていっているのだから。


 その理由は……この席にいる一人、カロリーヌの、ディオンに向ける視線。何ともキラキラでにこやかね。一体何を思ってそんな視線を向けるのかしら。


 確か、私達の結婚式前にあった王城でのお茶会。あの時もディオンが迎えに来た時カロリーヌはディオンの席を用意しお茶を勧めた。他のご令嬢のように恐れおののくような様子は全く見せなかった。


 一体、何を考えているのかしら。



 そして、お茶会が始まった。


 私達の席に、お茶とお茶菓子が配られたけれど……私は、驚愕した。


 小説と、違う。


 目の前に置かれた、ケーキ。晩餐会前にカロリーヌが持ってきたチョコレートケーキと同じものが出てくると思っていたのに……深めのお皿に、フルーツがちりばめられ、その真ん中に……大きく丸い、チョコレートが置かれていた。


 もしかして、これは……



「では、失礼します」



 使用人が、ディオンのそばに立ち……彼の目の前に置かれていた丸いチョコレートの上に、何かをかけた。色と匂いからして、チョコレートソースのようだ。そして、丸いチョコレートが溶け出した。温められたチョコレートソースだったのね。


 このドーム型チョコレートは薄く中に空間があったらしい。中身が出てくる。


 中に隠れていたのは……私が食べたことのある、チョコレートケーキだった。


 これは……前世でも食べたことのある、ショコラドーム、なのでは……?


 その後同じテーブルに座る私達にも他の使用人達がチョコレートソースをかけ溶かしていた。


 小説と違う。小説ではショコラドームは出てこなかった。私が以前食べたチョコレートケーキのみだった。なら、何故ショコラドームに……?


 けれど、チョコレートケーキが出てきたのは同じ。中に入っていたのだから。小説では、このガーデンパーティーで貴族達に振る舞われどんどん有名となっていく。


 ……のだけれど、こんな演出はなかった。何故?


 ふと、隣に視線を送った。あの晩餐会前の事を思い出すと……ディオン、大丈夫かしら……


 と、思っていた時だった。ディオンが、全く手をつけていない。チョコレートケーキにも、お茶にも。


 お茶会などでは一番身分の高い者が手をつけてからでないと身分の低い者達は手をつけられない。ディオンがチョコレートケーキかお茶を飲み始めなければ、周りの皆は食べ始められない。


 けれど、そのディオンはというと……足と手を組み、私に向かって微笑んでいるだけ。いや、そうじゃない。



「どうですか、ローズさん! これ、私が考えたのですよ! チョコレートが冷めないうちにぜひお召し上がりになってください!」


「カロリーヌ!」


「え?」



 待って……私に言うってことは、まさか、カロリーヌはそれを知らない……? 以前王城でカロリーヌとのお茶会では、彼女が一番先に手を付けた。あれは牽制のつもりだと思っていたのに……ま、さか、ね。だってこれ、基本中の基本よ?


 しかも、またローズさん? あの日激怒したディオンがそこにいるのに? ほら、言わんこっちゃない。微笑んでるディオンの笑顔がだんだん怖くなってきているわよ。


 しかも、今日の主催者である王太子はカロリーヌの失言に冷や汗をかいている。他の侯爵夫妻も。



「ローズ」


「……」



 何故、私に向けて口を開けているのかしら……と、一瞬考え、なるほどと理解した。なるほど、私のケーキを食わせろという事ね。まぁ、アルビーナ民族の里での事があったし、ここは王城。そして私達は王族。まぁ、毒殺という事もあり得るわね。


 けれど、毒見役に旦那様を利用するなんて事……いいのかしら。そう呆れてしまうけれど、周りの目もある。


 仕方なく、内心ため息を吐きつつも一口フォークで取りゆっくりと口に入れた。手は震えそうではあったけれど……銀の棒を出すのは失礼だし、ディオンは毒に耐性があるし……小説ではそんなことはなかった。なら、大丈夫、よね。


 ディオンは、満足したのかそのまま食べていたけれど……大丈夫かしら。毒は、入っていないわよね……? 大丈夫、よね……?


 そんな心配をしていたというのに、あろうことかディオンは、私に近づいてきた。


 気が付けば後頭部に手で押さえつけられ下がれず……どんどん顔を近づけてきて、キスをしてきた。


 そう、キスを、してきた……


 こんな、ところで。貴族達が集まる、すぐそこにヒロインと王太子がいる場で。



「お味はどうだ?」


「……思ったよりも、甘いですわね」



 は、は、恥っず……



「ふむ、確かにそうだな」


「……」



 周りが静かになってしまい、よけい恥ずかしい。頭から火が吹きそうよ……何が思ったよりも甘いですね、よ……よく出てきたわね、私の口から。


 なんて事をしてくれてるのよ、この人は……こんな事になるならこの人置いていって一人で来ればよかった……本当に恥ずかしい……



「……お騒がせしました」



 ディオンの方なんて絶対に見られない、と思っている事がバレているらしい。ニコニコと顔を覗いてくる。もうやめてほしい、お願いですから。そういう意味を込めてディオンの肩を押しやった。


 はぁ、と一つため息を吐き気持ちを落ち着かせる。近くに王太子やカロリーヌ達が……えっ?


 どうして、そんなに驚いているのだろうか。……カロリーヌが。


 そこまでして、驚くようなものだっただろうか。



「はは、叔父上達は仲が良いようで安心しました」


「新婚はいいですな」



 そして、またもややらかしてくれた。ディオンは私の方に手を伸ばすと、私の肩を抱き……



「夫に毒見役をさせるとは、何とも可愛い妻だろう?」



 ……貴方がさせろと言ったのでしょうが。とツッコミを入れたいところではあるけれど……毒見役、だなんて物騒な言葉を出さないでいただきたい。


 まぁ、私にキスをしてきたという事は毒は入っていなかったという事ではあるけれど。


 けれど、王族である王太子が主催したパーティーに毒が入っているのではと疑っているなんて、無礼にもほどがある。とはいえ、その相手は同じく王族の大公殿下ではあるけれど。



「毒なんて入っていませんよ! 大公殿下はジョークがお上手ですね!」



 けれど、毒なんて怖いワードに全然めげないお人が一人。流石ヒロイン、強すぎる。



「ローズ、今度隣国のロイヤルワラントパティスリーに連れていってやろうか。甘いデザートが好きだろう?」


「……」



 そしてそれをガン無視するディオンも十分に強い。



「ご夫人は甘いものがお好きなのですか。確か、もうこのチョコレートケーキはお召し上がりになられたのですよね? デザート好きのご夫人が大絶賛したケーキですから、きっと素晴らしいケー……」


「大絶賛?」


「……えっ」



 だいぶ、ドスの利いた声がこの場を凍らせた。その声は、ついさきほどまで色々とやらかしてくれた人物だ。


 でも、おかしい。私、大絶賛なんてしたかしら? ワインが入っているのねとしか言っていないわよね。色々と面倒な事になるかもしれないと、美味しいと言っていいものかと考えている最中にディオンが来て結局言わなかったはずだけど……


 けれど、隣がひやりとしている。またディオンの機嫌が悪くなったわね。なんて事を言ってくれるのかしら。はぁ、これでは……


 と、そういう時だった。


 遠くの席から、聞こえてきた。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「あなたっ!! あなたっ!!」


「誰か医師をっ!!」



 この席から離れた位置にいても、私のところからよく見えた。


 招待客の男性が、椅子から崩れ落ち倒れていた。奥方らしい女性が、彼を揺すって呼んでいるけれど、動かない。けれど、彼の顔の近くに、血が見えた。



「ローズ、あまり見ないほうがいい」


「……」



 しかも、その崩れ落ちた男性は……数日前に解放してあげた、バシュラール伯爵。確か、色々とディオンに遊ばれて搾り取られ放り出されたはずよね。


 こんなに簡単に開放してあげていいのかしら、と思いつつも聞かずに流していたけれど……


 一体、どうなってるの……?


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