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全知の脇役令嬢は不幸な未来をぶっ壊す  作者: 楠ノ木雫


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第四十二話 思わぬ助力者 ④


 ディオンは私と結婚する前、何度も言伝を送らずに実家に来訪していた。この方に常識という言葉は通用しない。


 王族なら許される。そんなわけは一切ない。王族であるならば、国民の手本となれ。……のはずなのだけど。



「困ります、ブランシス大公殿下……!」


「バシュラール伯爵はどこだ?」


「で、ですが……」



 そして、全く言伝を送らずバシュラール伯爵邸に来てしまった。


 いきなり門前に馬車が停まり、私達が出てくると門番の警備兵達があわあわと慌てだし、血相を変えて飛び込んできた使用人が私達の相手をしているけれど……申し訳ない、と遠い目をしてしまいそう。


 まさか、強行突破するとは思わなかったわ。大人しく誘拐されに行くよりこちらの方がいいとニコニコしながら言っていたけれど……それに付き合わされる私の身にもなってほしい。……いや、たぶん理解出来ないわね、この人は。



「聞こえなかったか? 私は気が短い方だ。ドアを壊す前に案内した方が身のためだぞ?」


「ヒッ……!?」



 そう言いつつ、笑顔で腰に下げている剣のグリップを握るディオンはまさに悪魔……いや、魔王かしら。


 釣書が送られてきたあの時は、こんな風にウチの使用人を脅したのかしら。全員無事でいてくれてよかったわ。


 今日も被害者は出さないでほしいのだけれど、大丈夫かしら。


 と、思っていたら……大きな音がした。ディオンが、玄関のドアを……蹴破ってしまった。



「「「「ぇえ~~~~!?」」」」


「……」



 あぁ……やってしまった。しかも、こんなに大きなドア蹴破って開けられるなんて……どれだけの力業……? 馬鹿力、と言えばいいのかしら。


 ……ウチのドアを壊されなくて、よかったわ。



「ごっご案内いたしますっっ!!」


「こちらへどうぞっっ!!」


「さ、行くぞ」



 そんな笑顔で「さ、行くぞ」じゃありませんよ。使用人達の顔を見てあげ……いや、見たところで何も思わないかしらね。帰りたいわ。


 内心深いため息を吐きつつ、使用人達に付いていく事になった。


 上位貴族である伯爵家ともなれば、豪華で立派な邸宅をお持ちらしいけれど……センス、といいますか。いろいろと趣味の悪いものが並べられているだけで、あまり居心地がよくないわね。


 その壺とか、その置き物の龍とか。


 そして、馬鹿力の旦那様はまたしても、豪快にドアを壊した。……執務室のドアを。


 だいぶ、楽しそうに見えるのですが。



「邪魔してるぞ」



 当然、中にいるこの邸宅の主バシュラール伯爵は……顔面蒼白で顎が外れんばかりの表情をしていた。気持ちは分かるわ。


 そして、もう一人。いや、二人ね。この執務室にいたのは……大きな袋を肩に担いだルニ。依頼の報告をしに行かせたから、時間ぴったりでよかったわ。



「なっ、ブランシス夫人っ!?」


「ご機嫌よう、バシュラール伯爵。先日はとっても素敵なプレゼントをどうもありがとう」


「なっ……ルニっ!! お前っ!!」



 隣に立っていたルニは、バシュラール伯爵を無視し肩に担いでいた細長い袋の端を掴んだ。すると、もう片方の端から、中身がスルっと落ちてくる。いや、脱出し、私と同じくらいの背丈の女性が軽やかに床に着地した。


 濃い赤髪をした、アルビーナ民族の女性だ。私の服を貸し、私の代わりに誘拐されてもらった。



「うっ裏切ったなっ!!」


「裏切った? 当然だろ」



 ルニを指差す伯爵は、焦りを見せている。まぁ、そうでしょうね。そんな彼に、私はヒールを鳴らして近づいた。



「あなた、何故私があそこを通ると知っていたのかしら」


「っ……」


「あなた、ルニに依頼する時に言ったのでしょう? この日にブランシス夫人が馬車で通るから、そこを狙えと」


「ヒッ……」


「監視していたのかしら。でも、うちの騎士達は優秀だからただの伯爵家の騎士達にそんな芸当は出来ないわよね。なら、一体誰に教えてもらったのかしら?」



 顔面蒼白で身震いをする伯爵。一歩ずつゆっくり近づくと、身じろぎ、尻もちをついていた。恐ろしいものでも見たような反応ね。魔王は私ではなくディオンなのだけど。


 なら最初からやらなければいいのに。誘拐計画を立てるのであれば、もしもの事を考えておかなければならないと分かっていなかったのね。



「バっバリエ侯爵だっ!!」



 なるほど、ここでその名前が出るのね。


 小説通りで助かるわ。



「バリエ侯爵にそそのかされたんだっ!! ブランシス夫人がそこを通るから誘拐し始末しろとっ!!」


「へぇ、始末、ね……」



 始末したくなるほど、私が邪魔だったという事ね。なら、何故邪魔だったのかしら? 貴族派だから、という理由だけでここまでリスクを冒すなんて事はお馬鹿さんしかやらないわ。


 バシュラール伯爵にブランシス夫人を誘拐させるようルニに頼ませ、手薄な時にアルビーナ民族に毒を盛った。その理由は、アルビーナ民族の者達を手中に収めるため。なら、何故アルビーナ民族の者達が必要だったのか。


 このご時世だから、自分の陣地を固めたいとでも言ったところかしら。……本当にそれだけ?


 バリエ侯爵は、オーシャイン夫人と私の密談を知っていた。私を監視していた? いいえ、あんなに優秀な護衛達が集まるブランシス大公家の騎士達が、不届き者を逃すはずがないと思うわ。


 なら、オーシャイン夫人の方かしら。となると、オーシャイン夫人も狙われている可能性がある。以前まで王族派であったオーシャイン公爵家。けれど、今回の件で王族派を離れる可能性があると噂されていた。


 今回、中立派に付くと私に告げてきたけれど、まだ社交界には広まっていないから口外はしていないという事ね。


 オーシャイン夫人は被害に遭っていないか、気になるわね。



「となると、バリエ侯爵に聞く必要があるわね。私のペットも会いたがっているようだし」


「ローズ、そういえば面白い招待状が来ていなかったか?」


「あぁ、ありましたわね」



 王太子主催のパーティーなのだから、余程の事がない限りバリエ侯爵は参加する。そして、オーシャイン夫人の安否も確認出来るわ。


 となると……番犬が必要ね。ペットの初仕事はそれにしましょう。



「……あぁ、伯爵。あなたがそそのかされた事は分かったわ。けれど……」



 そう言いかけた時に、私の隣にディオンが立った。そして……



「私に何事もなかったとはいえ、旦那様がだいぶご立腹なのよ。だから、〝付き合ってあげてくださる?〟」


「ひぃぃぃぃ!?」



 笑顔を浮かべた旦那様は、しゃがみこむバシュラール伯爵の胸ぐらを楽し気に掴み持ち上げる。



「さぁ、帰るぞ」



 ご愁傷様。けれどこれは、自分のしでかした事であり、自業自得よ。そそのかされた、で許される事ではないわ。


 とんでもなく恐ろしく無慈悲の魔王の機嫌を損ねたのだから、諦めて付き合う事ね。



「で、ルニはこのまま私達と一緒に帰るわよ」



 その言葉に、ルニは笑みを浮かべ楽しそうにこちらに寄ってきた。先ほど、私は『ペット』という言葉を使った。そして、里でも。そこにいる私に扮してくれた里の女性は、その言葉に恐ろしさを感じているのか少し顔色が悪そうね。


 でも、ルニ本人が了承したのだから、私は悪くないわ。それに、このルニの反応を見るにこれは本心だと分かるでしょうし。



「なら、俺の初仕事か?」


「えぇ、まずは番犬ね。でも、私がGOと言えば、好きにしていいわ」


「……あぁ、楽しみだ」



 そのGOの意味を、彼はすぐに理解したようね。


 あの男に知らず知らずに毒を盛られ、大切な子供達が苦しんでいる。族長としても、同じ里の者としても、これは許しがたい事。はらわた煮えくりかえっているのかしらね。


 まぁ、もちろん違う理由でも連れていくわけではあるけれど。ルニにはちゃんと働いてもらわないともったいないわ。


 ルニは里の者に遣いを任せ、私達と一緒に大公邸に行く事となった。もちろん、彼女にはルニの乗ってきた馬を渡し、彼はもう一つの馬車に乗せた。大公邸に戻るにあたって、アルビーナ民族の族長が私と手を組んだとまだ思わせたくない。



「……だいぶ楽しそうですね、ディオン」


「ん? そう見えるか?」


「はい……」



 そして、大公邸に戻るまでの馬車の中では、ディオンはとても上機嫌だった。これからお楽しみが待っているから、という事かしらね。さて、あの伯爵は一体どうなるのか……いや、考えないようにした方がいいわね。



「楽しみを妻抜きで独り占めするのは忍びないからな。ローズもどうだ?」


「結構です」


「そうか、それはつまらないな」



 きっと引くでしょうね……それを見れば。


 まぁ、捕まえたルニ達を料理するはずが、私のペットになってしまいなくなってしまったから余計よね。



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