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全知の脇役令嬢は不幸な未来をぶっ壊す  作者: 楠ノ木雫


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第三十五話 暗闇の密談 ②


 オーシャイン夫人との密談を終え、私は乗ってきた馬車にすぐに乗り込んだ。



「遅くなっちゃったかしら」


「いえ」



 馬車の中で待ってもらっていたアレットにそう言いつつも椅子に座る。朝屋敷を出たけれど、遠回りをした上に馬車を乗り換え、ブティックもだいぶ遠い場所にあったからもう夕方になってしまった。これは早く帰らないとディオンに何か言われてしまう。さて、言い訳はどうしようかしら。


 けれど、脳内に一番にあるのはオーシャイン夫人の最後の言葉。それがだいぶ引っかかる。小説に出てくるエピソードに、当てはまるもの、引っかかるものがないから。だから、不安な気持ちもある。


 蛇の巣窟。なら、何故〝蛇〟なのだろうか。想像出来るものは……


 そんな事を考えていた時だった。馬車を引く馬の鳴き声と共に馬車が大きく揺れ、そして急停止した。



「奥様っ!」



 咄嗟に向かい側のアレットが頭を守るように抱きしめてくれて壁に頭をぶつけるようなことはなかったけれど……



「申し訳ありませんっ奥様っ! 決して外に出ないようお願いいたしますっ!」



 そんな、セザールの声が。一体、外で何が……


 静かに、アレットと共に椅子から腰を離し身をかがめ外から見えないように。けれど、外から聞こえてくるもの。それは……金属がぶつかり合う音と、呻き声。


 もしかして……襲撃? 剣、よね……


 今乗っているのは家紋の描かれていない馬車。だから、私が乗っているということは中を覗かなければ分からない。なら、馬車を襲う盗賊、とかかしら……


 ……いいえ、もし私が乗るところを見れば、私が乗っていると分かる。


 果たしてただの盗賊か、私を狙う暗殺者か。


 でも、今はどっちでもいいから……早く、終わってほしい……剣とか、矢とか、飛んできたら……



「奥様、こちらに」



 アレットは小声でそう言いつつ、馬車の椅子のシートを持ち上げた。そこは開けられるようになっていたようで、空間が現れる。ここに入れ、ということ……?



「頑丈になっていますから、剣は通りません。すぐにお入りくださいっ」



 半ば強引に、その中に入れられた。ゆっくりと閉められ、途端暗闇に包まれる。金属のぶつかる音、男性達の声。何も見えない分、耳が研ぎ澄まされ……不安がどんどん募ってくる。


 大丈夫よね……あ、アレットは? アレットは大丈夫よね……? もう片方のシートの下に隠れたわよね……?


 そんな時、勢いよくこの馬車のドアが開く音がした。一体、誰が開け……



「おいっ!! 中にいねぇじゃねぇかっ!!」



 ひっ……


 荒げた、知らない男の声がした。つい、変に息を吸ってしまい、身震いが止まらなくなってしまう。必死に、口を手で抑えては音をたてないように潜めるけれど……見つかったら、と思うと……



「ぐあっ!?」



 そんな声と共に、馬車が揺れた。心拍数がどんどん上がってくる。一体、一体馬車の中で何が起こって……


 すると、暗闇から、光が……



「ローズ」



 この声は、今朝聞いた……ディオンの声。そして、光の中から彼の顔が見えた。



「もう出てきていいぞ」


「っ……」



 いつもなら、こんな事はしない。けれど、先ほどまで募りに募った恐怖と不安が溢れてきて……ディオンを抱きしめ……


 ……ようとしたけれど、止めた。血が付いて、ません……? 結構付いているような……



「け、怪我……」


「この私がすると思うか?」



 あっ、これ全部、返り血なのね……



「……ぁ、アレットっ!!」



 隣の椅子に駆け寄ってはシートをやっとの思いで開ける、と……あ、あれ、いない……?



「アレットはあっちだ」



 そう言いつつ、開けっ放しの馬車のドアの外を指さした。


 み、皆大丈夫よね……? 怪我してないわよね……? そんな不安から、ゆっくりと外を覗こうとしたら……視界が暗くなった。



「見なくていい。全員無事だ」



 手袋を外したディオンの手が、私の目を隠した。そんなに、外はあまりいい景色ではない、という事……?


 無事、だったとしても怪我は……



「自分の心配よりも他の者達の心配か。よく出来た女主人だ。だが、せっかく助けに来てやった旦那に泣きつくのが先ではないのか?」


「……」



 先ほどまで、身体が冷たく感じていたけれど、ディオンのいつもの調子に、何とか落ち着きが取り戻せたような、そんな気がした。


 けれど、何故……こんなところにディオンがいるのかしら。


 偶然?



「……雨か。タイミングが悪いな」


「雨……?」


「殿下」



 セザールの声が聞こえてきて、ようやく視界が明るくなったかと思ったら、何かが頭からかけられた。暖かい……上着? すると、ディオンに抱き上げられてしまい……



「追え」


「かしこまりました」



 そうセザールに命じている事に疑問を持っていると、馬車から降りていた事に気が付いた。そして、いきなり馬に乗せられてしまい、身体が硬直してしまった。生まれてこの方、馬になんて1、2度くらいしか乗った事がない。しかもこんな悪天候でだなんて……


 そう訴えたいところではあったけれど、次に乗ってきたディオンは「飛ばすぞ」と言っていきなり走り出してしまった。


 ……もっと早く言ってっっ!!


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