第三十一話 岐路の晩餐 ③
「ご、ごきげんよう……大公殿下、大公妃殿下……」
「ごきげんよう……」
「……本日はご足労いただきありがとうございます」
そして、着々と大公邸に馬車が到着し、晩餐会の招待客が揃っていく中、皆顔を引きつらせている。その理由は……だいぶ機嫌の悪いディオンが、出迎えで私の隣に立っているから。
一体何があったのだろうか、今日は無事に帰れるだろうかと皆懸念しているのではないだろうか。
かくいう私も、この晩餐会が終わった後に本気で怒られるのではないだろうかとだいぶ危機感を覚える。あの後晩餐会の準備があるからと逃げてしまったから余計でしょうね。
「あら、もしや夫婦喧嘩かしら」
「リトナ侯爵、夫人、本日はご足労頂きありがとうございます」
ご招待させていただいたリトナ夫人は、閉じた扇子の先を頬に付けた後恐ろしい言葉を出してしまった。
そこには触れないでくださいますか。これ以上機嫌が悪くなってしまえばせっかくの晩餐会が台無しになってしまいますから。
「喧嘩するほど仲が良い、と言いますものね」
「はははっ、奥方は怒ると怖いからねぇ。気をつけた方がいいですよ、殿下」
「……」
「あらやだ旦那様。私はしたくて喧嘩をするわけではないのですよ」
「ははっ、私も怒ってる君より笑っている君の方が好きだよ」
「旦那様」
「ごめんごめん、ついね」
侯爵と夫人はだいぶ仲良しらしい。私の知らないリトナ夫人を見てしまったけれど、それを知るのはもう少し後の方が良かったわね。
「……ご案内いたします」
けれどリトナ侯爵、リトナ夫人、お願いですからディオンをこれ以上刺激しないでください……
そんな意味を込め、満面の笑みを張り付けた。そして……
「お父様、お母様」
「ローズ、招待してくれてありがとう」
「ありがとう。それで……大丈夫?」
「それよりもお父様達ですよ。ごめんなさい、こんな時にお呼びしてしまって……」
周りの上位階級の夫婦達は、お父様達を見てはコソコソと話をしている。恐らく、社交界で出回っている噂の事でしょうね。
お父様がワイナリーを脅している、という噂はまだ消えたわけではない。
「いいんだ、気にせず好きなようにしなさい。私達は近くで見守っているから」
「えぇ、心配しないで」
「……ありがとうございます」
最初はこんな時に呼び出してしまうのは申し訳なかったけれど、娘に守られるだけの親にはなりたくないとこの前手紙で言われてしまった。だから、今日お呼びした。
今、上位階級入りを狙っているだのなんだの言われているけれど、私の両親達は心の強い人達。まぁ、私にベルナール侯爵家の鳥頭を選んだところはまだ許せないけれども。
「どうか娘をよろしくお願いします、殿下」
「えぇ、お義父上、お義母上」
隣に立つディオンは笑みで返していたけれど、その裏にどんな顔を浮かべていたのか、怖くなってしまった。今のディオンによろしくお願いしちゃダメよ、お父様。
そういえば、結婚式の日の披露宴後にあるはずだった食事会をディオンがナシにしたから、公式で食事をするのはこれが初めてね。緊張や不安はあるけれど、結婚披露宴後よりだいぶマシね。
ようやく、全員が揃い着席した。その中には、王太子殿下の姿もある。もちろん、カロリーヌの姿はない。
「さぁ、本日はお集まりいただきありがとうございます」
本来なら、私の夫である大公殿下が取り仕切るところ。けれど、本人はやる気が全くなかった。そもそもこの晩餐会は私が提案したし、今回は実家の為に開いたようなものなのだから私が仕切るのが当たり前。
それよりも、その不機嫌顔をやめてほしい。
「今回は、ウェルディエ・ワインズのワインを取り寄せました。どうぞお楽しみください」
そうして、すぐに料理が運ばれてきた。料理と一緒に、ワイングラスにワインも注がれる。
「本日は、料理ごとに合うワインをご用意いたしました。大のワイン好きである夫が選び抜いたワインの組み合わせですので、ワインのペアリングフルコースをご堪能下さい」
今日は、フルコースにワインを一つ一つ選んだ。ワイン好きらしいディオンに全部聞いて協力してもらった。いろいろとからかわれたりされたけれども。でも、そのおかげでこの晩餐会を開くことが出来た。
「まぁ……!」
「なるほど、確かに合う組み合わせですな」
「大公殿下がワインをお好きだったとは初耳です」
思った通り、招待客達は知らないのね。まぁ、私も知らなかったし、そもそもこの人が普段何してるのかすら知らない。
それにしても、ご機嫌取りなのか料理やワインを褒めまくる方が多い。
オーシャイン夫妻は、とても気に入っているのか楽しく二人で話している。周りの貴族達は二人に目を向けないでいるから、きっと二人の娘の事があってのことでしょうね。
あとは……ディオンだ。だいぶ機嫌が悪いようで、皆目を合わせずにいる。顔色を窺っている人もいるよう。はぁ、やってくれたわねカロリーヌ。私が悪いみたいだけれど、そもそも彼女が来なければディオンが怒る事もなかったし、ここまで忙しくならなかった。




